第70話

「おおおおお、凄い、凄いぞぉぉ!!!パイク殿!!素晴らしいではないか!!」

 パイクさんの破壊力に感動したのか、切り落とした岩男の腕をさらに細かく切り刻むオーサさん。

「少年!彼女を!」

 ミューさんを掴んだ拳の部分だけになったそれを、僕の方に転がすオーサさん。

「あわわわわわわわわ、目が回るーーーー!!」

 当然捕まってたミューさんも転がりますよね!

「し、しまったぁ!申し訳ない!!」

 調子に乗り過ぎですよ!!

 なんとか転がってくる拳を受け止めて、すぐさま土魔法で指を崩していく。

 よし、本体との距離が離れたら修復しないぞ!

「く、くそっ!なんだその武器は!調べさせろ!」

 突然現れた謎の武器を奪おうと伸ばされた岩男を腕を、オーサさんが正面から突く。

 ゴッ!という音を立てて、岩男の腕がはじけ飛ぶ。

「触れるな。お前のような男の触れて良い物ではないぞ」

「アンタにも基本触れてほしくないけどな」

 バッチリ決めたオーサさんに、パイクさんの厳しい一言。

「そんな!俺たちもう一心同体の相棒じゃないか!」

「……どういう思考回路してんのよ…アンタすぐ結婚とか言い出すタイプでしょ……」

「付き合うってことは結婚するってことだろう!?それ以外のお付き合いなんて有り得るのか!?」

「……価値観の相違ね」

 そんな会話も交わされるほど、余裕が出てきた二人。

 だが、丸男も岩男もそう簡単に勝たせてくれる期は無いらしい。

「近づいたら斬られるなら……こうだ!!」

 岩男の残った左手が、斬られた右手の一部を掴んで潰す。

 そうして出来た細かい石を、全力で投げてきた!

「おっとぉ!」

 慌てて横に避けるオーサさん。

 いくつかの石が僕の方まで飛んできたのでイジッテちゃんでガードしたが、一つ一つの石が思いのほか大きい!

「いだだだだだ!!」

 イジッテちゃんからも思わず可愛さの欠片もない声が漏れる。

 石がこの速さで飛んで来るのだ、一つでも当たったらダメージは大きいだろう。

 オーサさんも、攻め込みたいが飛び道具を相手に苦戦しているようだ。

 セッタ君を片手に持たせれば……いや、確かにパイクさん矛の威力は凄まじいが、硬い岩を砕くほどの力を伝えるには両手で矛を構える必要があるだろう。

 となると……

「ミューさん、大丈夫ですか?」

 僕は倒れ込んでいるミューさんに声をかける。

「は、はい……ずっと掴まれてたのでちょっと息苦しいのと、転がされたので目が回ってますけど…なんとか」

「良かった、こんな時にアレですけど……魔法って今使えます?」

「え?ええ、使えると思いますけど……ミューに何が出来るんでしょう……あの岩は私の風魔法では……」

「いえ、違うんです。僕のやって欲しいのは―――」



「そろそろ終わりにしようか!!」

 丸男の声が地下空間に響く。

 延々と続く投石攻撃に、避け続けるオーサさんの体力もそろそろ厳しい。

「く、くそ!卑怯な!正々堂々と近距離で勝負しろ!!」

「するわけないだろバーカ」

 さすがに無理があるオーサさんの申し出を鼻で笑い、丸男は岩男を操る。

 両手に一杯のごつごつした岩、アレを一斉に投げられては、今のオーサさんでは避けきれない。

「これで終わりだ!!」

 大量の石がオーサさんに迫る―――――が、そこへ登場、僕!!

 視認するもの難しいほどのスピードで、岩とオーサさんの間に割り込んで防ぐ!

「いでででででで!!!」

 またイジッテちゃんに可愛くない声を出させてしまった。ごめんイジッテちゃん。

「いちいち可愛くないとか言うな!傷つくだろ!」

「さらにごめん」

 なんで声に出ちゃうんだろうな……?

「な、なんだ今のスピードは!?お前どこから現れた!?」

 今日は驚いてばっかだなぁ丸男。

「ああこれ?これはね、ミューさんに魔法をかけて貰ったのさ。移動速度が上昇する風魔法・クイゾをね。思い知るが良いよ、失敗作呼ばわりした彼女の魔法によって、アンタは負けるんだ」

「なにを……!だいたいお前はその幼女しか持ってないじゃないか!武器も持たないヤツが速くなったところで、どうやって私に勝つというのだ!?」

 そんな丸男を無視して、一瞬でオーサさんの耳元まで移動した僕は、作戦を授ける。

「わ、わかった。やってみよう。しかし、武器が持つかどうか……」

「冗談でしょう?アタシは、全てを貫く伝説の矛よ」

「―――わかった、信じよう。生涯の相棒よ」

「信じてくれて感謝するわ、相棒にはならないけど」

 よし、たぶんなんか話はまとまった。


「んじゃまあ――――行きますか!!」

 僕は上がった移動速度を存分に活かしつつ、的を絞らせないように左右に移動しながら少しずつ岩男に近づいていく。

「くっ……!ええい!!うっとおしい!!」

 岩男は岩をバラまきながら僕をけん制する。

 そうだろうそうだろう、たとえ僕が武器を持っていないとしても、近づかれるのは怖いよなぁ?

 わかるよ、あんたはずっと臆病だった。

 最初に顔を出さずに声だけで対応してたのも、岩男という大きな鎧に身を包んでいるのも、自分の身を晒せない臆病者の現れだ。

 それは、自分に対する自信の無さ。

 どんなに虚勢をはったところで、自分ひとりでは戦えないと知っているんだ。

 だから、近づかれるのを極端に嫌う。

 たとえ、それが武器を持たない相手であっても、近くまで来ても岩男が守ってくれると知っていても、それでも無視できない!!

 そこがアンタの弱さだよ!!

 左右に避けつつ、時にはイジッテちゃんで防ぐ、それを繰り返していると、一時的に岩男の両手から岩が消える!

 放っておけばすぐに自分の身体を削ってでも補充するだろうけど……放っておくわけないんだよ…ね!!!

 その隙に、岩男に向かって真っ直ぐダッシュ!!

 一気に距離を詰める!!

 そうすると―――

「く、来るなぁ!!」

 それを嫌って、パンチを繰り出してくる!!

 そうだよなぁ、そう来るよなぁ!!

 わっかりやすいよアンタ!!

 僕はそのパンチを受け止め―――――ない!


 


 前に進みながらギリギリで交わして、そのまま真後ろにパンチを送る。

 そこに待つのはそう、パイクさんを構えたオーサさん!!

「貫けぇ!!」

「うおおおおおおおおおぉぉぉおぉおぉぉ!!!!」

 咆哮を上げつつ、オーサさんが全ての力をのせてパイクさんをまっすぐ突き出す!!

 岩の拳と、伝説の矛の正面衝突……!!


 結果は――――――


 「そんなの、言うまでもない、でしょ?」


 岩男の拳が、弾け飛んだ……!!


「うわあああああ!!」

 想像もしていなかった状況に、混乱の叫びをあげる丸男をよそに、両手を失った岩男をオーサさんがさらに攻め立てる!!


 まずは胴体を斜めに袈裟斬り!

 斬られたところから崩れそうになるところを、さらに反対側から袈裟斬り!

 岩男の頭部と喉の辺りだけが少し浮いたところで、喉の辺りを突いて貫き、完全に頭部だけが切り離された。

 そこへ、オーサさんが矛をくるりと回転させて、柄の部分で突く!

 後方へ吹き飛ぶ頭部!もちろん頭部の中には丸男が入っている。

「うわわわあああ!!」

 そのまま、何度かバウンドするように後ろに飛んでいくのを、移動速度がアップした僕が追いついて、イジッテちゃんで受け止める。

「ふ、ふう!助かった。お前、なかなかいい奴じゃないか!」

 岩男の頭部の中からそんな的外れなことを言ってくる丸男に、僕は……

「これはミューさんの分!!」

 と叫びながら、頭部を押しながらゴロゴロと転がす!

「ぎゃー!!ま、待て!!転がしたのは私じゃないぞ!!転がしたのはあの剣士だろうに!!」

 そういえばそうだった。

 でもまあ……

「それはそれ!!これはこれ!!」

「なんで!?なんでそうなる!?」

 転がされるくらいの罰は受けておくがいいさ!!

「どっせい!!」

 最後に強く押して、勢いよく転がす。

「あわわあわあわあわあわわわ」

 ぐるぐると回りながら転がる岩男の頭部が、不意に止まった。

 止めたのは……オーサさん。

 脚で踏みつけるようにその転がりを止めると、頭部の上の部分を薄く切り割く。

 それにより、中の丸男が剥き出しになる。

 目を回してふらふらしている丸男の服の襟に、矛の刃を引っかけてそのまま持ち上げる。

 東洋の名刀は、切ろうと思えば切れて、切ろうと思わなければ切れない、という噂を聞いたことがあるが、パイクさん矛もそうなのだろう。岩をも斬った刃なのに、襟を切り割いてしまうことが無い。

「ひ、ひぇぇ!」

 なので、丸男が情けない声を上げながら体をバタバタさせても逃れられず、矛をそのまま天高く掲げたオーサさんは、ここぞとばかりに声を上げた。


「俺に、任せろ!!!」


 いや遅い遅い、やる前に言おうよ、とツッコミを入れようかとも思ったが……うーん、とても満足気な顔をしておられる。


 ま、いっか!

 オーサさんが居てくれて良かったし!!

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