第69話

「絶対世界最強兵器とは、絶対に世界で最強な兵器のことなのだ!!」

 ほぼ同じことを二回言っただけだ!!

「人間というのは不便なものでな、どんなに優れた魔法使いでも、魔法によって得意不得意が存在する」

 急にまともなこと言いだしたな丸男。

 それは確かにそうだ。いろんな魔法を満遍なく使える魔法使いもいるが、全ての最上位魔法を使えるものはいない。歴史に残る伝説的な賢者でそういう者が居たという話だけは残っているけど、まあ正直怪しいもんだ。

「そこで考えた!人工的にすべての魔法を使える存在を作れば、それこそが絶対世界最強兵器なのではないかと!!」

 ずいぶん短絡的だな……まあ理屈はわかるけど。

「その為には、体内の魔素・魔力だけでは駄目だ。体の外から大気に含まれているあらゆる魔素・魔力を効率的に取り込み、それをまた効率的に外に出す、そういう仕組みが必要だ」

 うんまあ、それも理屈としてはわかる。

「そこでこれだ」

 岩男の右手が丸男の近くに寄っていくと、右手に捕まれているミューさんの頭のアンテナのようなものを指さした。

「これが、魔素・魔力を吸収する装置だ」

 ……言いたいことは山ほどあるが、とりあえず最後まで話を聞いてやろう。

「そして、全身に魔力で編み上げた魔力導線を埋め込む。それによりロスを極力減らしつつ、魔素・魔力が体内を駆け巡り、その間に体内の魔力と組み合わさることであらゆる魔法に変換できる!!」

 ほぉー……ミューさんの全身の傷はそれを体内に埋め込んだ痕か……なるほどなぁ……なるほどなぁ!!

「最後に魔力を右手の杖に送る!!これにより、杖を腕に持つよりも12%も魔力効率を上げられるのだ!!」

 へー……12%……12%ねぇ……。

「だと言うのに、この失敗作はなぜか風魔法しか使えるようにならなかった!!理論は完璧だったのに、だ!そんな失敗作、捨てられて当然であろう!!」

 あーーーー、そろそろまたブチギレそうだなーー!!

 ま、でもただ声を張り上げるのも芸がない、もっと効果的にねじ伏せてやりたいなぁ、アイツの心をさ…!!

 その時僕の頭には、一つの仮説が浮かんでいた。

 今の話と、そしてあのことを繋げると―――結論は一つ、だよなぁ?

「―――ちょっと良いですかね?ここに来る途中の森に、でっかい蛇のモンスターが居たんですけど、知ってます?」

「――――知らんなぁ」

 明らかに顔色が変わった。

 ミューさんの時といい、都合が悪くなるとすぐ下手くそなとぼけ方するな丸男。

「その蛇の頭にも、そのアンテナらしきものが付いてて、喉の奥には杖のようなものがあった。――――あんた、あの蛇にも同じ実験をしたんじゃない?」

「知らん」

「あの蛇は、口から見えない攻撃をしてきた。あれが風魔法だとすれば、ミューさんと同じ仕組みですよね?」

「知らんと言ってるだろ!」

「蛇は光線のような攻撃も出してきたけど、調べた結果それはただ牙に仕込まれた機械的な装置でしたよ。つまり、あの蛇が使えた魔法は風魔法だけだった」

「知らんと言ってるのに、さっきから何の話をしてるんだ貴様は!!」


「だから―――、あの蛇もあんたの仕業だとすれば、使、ってことですよね? あんたはさっきからミューさんを失敗作だと罵っているけど―――――

 

 そんなんで天才を名乗るとか、愚かを通り越して滑稽ですねぇ!」


 今まで余裕たっぷりの態度で座り込んでいた丸男が、初めて立ち上がった。

 立っても丸いなぁ。

「き、貴様!!きさまキサマ!!!この私を愚弄するか!!私は天才だ!!絶対世界最強兵器を作る存在だぞ!!」

「言い忘れてたけど、絶対世界最強兵器っていうネーミング死ぬほどダサくて頭悪そうだからやめた方が良いですよ」

「ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁーーーーー!!!」

 丸男が大声を張り上げたその瞬間―――――


 背後から、パイクさんの蹴りが飛ぶ。

 僕らが会話してる間に、こっそり背後に回っていたのだ。

 セッタ君が会話をしていたのも、これを狙ってのことだったのか!!


 蹴りの角度は完璧で、丸男を確実に岩男の上から叩き落せる!


 ――――そう確信したのも束の間、パイクさんの蹴りは、突然伸びた岩男の身体に防がれた…!

「なっ…!」

 驚きの声を上げるパイクさんにようやく気づいたように、丸男も声を上げる。

「うわっ!……ふ、ふふはは!馬鹿め!意表を突いたつもりだろうが、残念だったな!岩男には、私を自動で守るように指令を組み込んである!その程度の攻撃で私を倒せると思うなよ!!」

 そう言いながらも、そそくさと岩男の頭部の中に戻り、完全に周囲を岩で固める丸男。

 くそっ、岩が開いていた今が大きなチャンスだったのに!!

「貴様ら、絶対に許さんからな!!ぐちゃぐちゃにしてやる!」

 とりあえず、プライドを傷つけることには成功したようなので、ざまあみろ、と言いたい気持ちもあるけど、次にやってくるのはこっちのピンチだ。

「いやぁぁぁ!!」

 ミューさんを掴む腕の力が増したのか、今までより大きな悲鳴が上がる。

「くっ!」

 再び土魔法で指を崩そうとするが、やはり崩れてもすぐ戻ってしまう。

 そして、岩男の左の拳!!

「ぎっ…!!」

「っっっつ!!」

 受け止めた僕とイジッテちゃんから同時に声が漏れる。

 さっきまでのパンチよりさらに強い……!

 本格的に殺しに来てるな…!

 威力も強いが、スピードも速い!回転力もあがって、凄まじい重さの攻撃が連打で連なってくる!!

 やっばい……!このままだと耐え切れなくて吹き飛ばされる……!

 イジッテちゃんが直接的なダメージはある程度防いでくれるけど、一度吹っ飛ばされて魔法が届かない距離になったらミューさんが危ない…!

 なにか打開策を探してる僕の目に、座り込んでいるオーサさんが目に入った。

 剣を折られ、鍛えたパワーもまるで通用しなかったことで呆然としている様子。

「オーサさん!!座ってる暇があったら僕の身体でも支えてください!!」

「えっ?お、おう!俺に任せろ」

 今までで一番 力の無い「俺に任せろ」ですね…。

 とはいえ、それでもさすがに体の大きさと鍛えた筋肉は、僕の身体を支えるには充分で、なんとか攻撃に耐えつつ少し考える余裕が生まれる。

 どうする?この状況を打開する方法はなんだ?

 ……くそぅ、さっきの爆弾残しとけば良かったな!

 ……けどまあ、アレは動いてる相手には当てにくいし、何よりもミューさんを盾にされたら危険すぎて使えないし、タイミング良く……と言うか悪く弾き返されて僕らの近くで爆発でもしようものなら大惨事だ。

 どちらにしても爆弾は使えないだろう。

 どうすれば、どうすれば――――

「アンタ、矛を使った経験は?」

 突然背後からパイクさんの声、一瞬僕に問いかけられているのかと思ったが、その質問には依然も答えた、今更そんなこと聴くはずが無い。

 だからこれは――――聞いているんだ、オーサさんに……!

「お、俺か?矛……確か、ガイザの兵が良く使っている武器だよな。すまないが経験はない」

「槍は?」

「槍?……槍なら得意だ。元々俺は槍使いだったのだ。剣を使うようになったのは、テンジンザ様に左右の大剣に任命されたからだ」

 そうだったのか、先に左右の大剣っていう名前があってそこにオーサさんとタニーさんを任命したのか。英雄様は理想の形にこだわるからなぁ。

 まあ、オーサさんはそれで今これだけの腕前なのだから、そもそも資質があったのだろう。むしろテンジンザさんに先見の明があったとも言える。

「よし、まあそれなら良いとするわ。本当はアンタみたいなヤツに使われるのなんて死ぬほど嫌だけど―――――きっと、今ここでアタシを一番うまく使えるのはアンタよ」

「何を、言ってるんだ?」

 困惑しているオーサさん、僕はわかる、パイクさんが何をしようとしているのか。

 けど、あんなにも嫌っていたのに……それでも、この場を切り抜ける為に、そしてミューさんの為にやってくれるのですね。

「いい、アタシが言いたいことはたった一つよ――――あのクソ野郎を、ぶっ飛ばしなさい!!」

 言うやいなや、パイクさんの身体が宙に浮き光に包まれ、そして……伝説の矛が現れた。

「なっ……!?」

 イジッテちゃんのことは知っていたが、パイクさんの事は知らなかったオーサさんは目の前で起こったことに驚きつつも、ゆっくりと降下してくる伝説の矛を、しっかりと両手で受け止めた。

「なんだなんだ!?今何が起こった!?」

 丸男の声も響く。そりゃあ、いきなり人が武器に変わるのを見せられて驚かないハズもない。

「これは……」

 戸惑いながらも、オーサさんは矛を構える。

「凄い……手に持っただけで伝わってくる。これは普通の武器ではない……!」

「当たり前でしょ?伝説の矛なのよ、アタシは」

「うおぉ…喋れるのか……」

「いいから行きなさい。アンタには勿体ない武器よ。ずっと持たれてるのも嫌だからさっさと終わらせてよね。さっきから鳥肌止まんないわよ」

「――――矛に鳥肌があるのか?」

「うるさいわね!心の鳥肌よ!」

 心の鳥肌……わかるようなわからないような……?

「しかし、行けと言われても……さっきのを見ただろう?剣のようにまた折れたらと思うと……」

「―――舐めるんじゃないわよ。良いから行きなさい!!!」

「は、はい!!」

 パイクさんの声に弾かれるように、一瞬で前に踏み出すオーサさん!

 さすがのスピード!!

「ふん!なんだか知らんがこの岩男にそんなものが通用するわけが―――」

 丸男がその言葉を言い終えることは無かった。

 なぜならば―――オーサさんが矛で岩男の右腕の肘辺りを突いたその瞬間、岩男の腕は大きな穴が開くように抉られて、肘から先が地面にボトリと落ちたからだ。


「わけが………わけがぁぁぁあぁぁああ!!?!?!?!?」


 は、ははは、ははははは、すげぇ、すげぇやパイクさん!!


「当然でしょ?岩くらい砕けなくて、伝説名乗れると思ってるの?」

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