第22話
「私って、肉体労働に向いてないと思うんだけど?」
「アタシも向いてないわよ」
「奇遇ですね、僕もそうです」
そんな、肉体労働に向いてない僕ら3人は今――――土を掘っています。
手にはスコップ・シャベルをそれぞれ持ち、ひたすらに地下を掘っています。
「あとどれくらいかかるのぉこれ?」
「そうですねぇ……今だいたい、3分の1進んだくらいですかねぇ……?」
パイクさんは露骨に嫌な顔をしたが、僕だってやらずに済むならやりたくない。
けれど、この方法以外には思いつかなかったのだ。
土魔法仕えたらもうちょっと楽なんだけど、残り少ない魔力は温存しなければ……なのでひたすら掘るしかないのだが、地面の中でなかなか熱も逃げないので体を動かせば動かすほどにどんどん熱くなってくる……。
「――――服、脱いで良いですか」
これは合法的全裸チャンス。
「……どこまで脱ぐかによるぞ」
「もちろん全裸です。もちろんもろちんです」
「わざわざ言い直すな。ツッコむのも面倒臭い……」
「それはOKということでよろしいか?」
「どういう基準でそう思ったのか知らんけど……まあ好きにしたら良いんじゃないか」
まさかの許可を頂いた!
喜び勇んで上半身を脱ぎ、ズボンを脱ぎ、パンツに手をかけたその時――――
「けどまあ、こういう土の中ってのは色々な菌とか微生物とか謎のウィルスとかが眠ってる可能性があるから、それがお前の粗末なそれを病気にする可能性はおおいにあるな」
ピタっと手が止まる。
「ははは、またまた御冗談を……」
「そう思うなら好きにしたら良いんじゃないか?」
そ、そんな言葉で僕の全裸を止めようとしてもそうはいきませんよ……!
……けど、確かになんかこう……さっきから変な見たことない虫とかちょいちょい見るな?
メイドさんから借りた小さなランプでは辺りは薄暗くしか見えないので、明かりの届かない闇の中で何かカサカサと音がしている気がするし、ふと見れば手もだいぶ汚れている。
……病気?病気に…?
僕のこの、まだ本当の愛を知らない大事な存在が? 愛を知る前に病を知る!?
「いやいや、そんな、ねぇ、そんな簡単に病気になんて」
「着てる着てる。めっちゃ服着てるぞ」
はっ、いつの間に。しかも上半身もちゃんと着てる。くそっ!怖い!病気が怖いよー!露出は清潔に!だ!!
とまあそんなこんながありつつも、その後はただ黙々と穴を掘り続ける僕らは、さっきのメイドさんとの会話を思い出していた――――
「明日の朝に処刑?」
「ええ、見せしめのためだとか…」
暗い物置の中で、僕らはその言葉の持つ違和感に首をかしげていた。
「それはおかしな話だな。モンスターたちがわざわざそんな面倒なことをするはずがない。あいつらなら夜のうちに奪うだけ奪って朝には巣に帰るハズだ」
そう、考えてみればそもそもこの状況そのものが妙だ。
村からだいぶ離れた街道で待ち伏せていた部隊、わざわざ村の周りを取り囲むように見張りを立てる……そして朝の処刑。
モンスターのやることにしては、あまりにも人間臭いのだ。
奴等にもそれなりの知能はあるが、本能の方がよほど強く、ここまで何と言うか、「チームとしての意思」みたいなものを感じたことはなかった。
「そう言えば、さっき井戸の中から外の声が聞こえたんですけど、モンスターに指示を出しているヤツが居たんですよね……アレ、たぶん人間ですよ」
「モンスターと人間が手を組んで、この村を襲ったってのか?絶対にありえない話とは言わないが、それにしたってなんでこんな辺境の小さな村を? あ、ごめん、別にこの村を悪く言ったわけじゃないんだけど」
珍しい、イジッテちゃんが素直に謝ってる。と思ったけど、僕以外にはわりと丁寧な対応もするんだった。
僕に対しても……いや、いいか。今の方が気楽だし。
「ああ、いえいえそんな。言われる通り、ここは辺境の小さな村です。けれど、のどかで優しい人が多くて、土壌が豊かなおかげで食べるには困らない、本当に良い村で、私は大好きなんです」
メイドさんのこの村に対する愛が、口調や表情から伝わってくる。ちょっとここに住みたいと思ってしまうくらいだ。
「でも、それほど金銭的な貯えが豊富な訳でもないですし、今の時期はまだ収穫前だから食物の貯蔵もそれほど余裕があるわけじゃないんです。だから、何で襲われたのか……」
「―――――ここが、戦略的に価値の有る土地だからでしょうね」
黙って話を聞いていたパイクさんが突然口を挟む。
「戦略的って、どういうことですか?」
僕の質問に、パイクさんは少し悩むように頭を掻きむしった。質問への答えに悩んでいるというよりも、その答え自体を口に出して良いものか……そう言う悩みのように思えた。
「ここまで来て隠し事はなしにしようや。昔はともかく、一時的とは言え今は私たちはパーティなんだ。共有する少しでも情報は多い方が良い」
イジッテちゃんに促され、パイクさんは大きくため息を吐き、重い口を開いた。
「おそらく、ここを襲ったのはガイザね」
ガイザ……ガイザ?隣国の?この国と仲が悪いでお馴染みガイザ?
「いやいやそんなまさか、いくらガイザとジュラルの仲が悪いとは言え、全世界が魔王軍の脅威と戦ってる最中に戦争仕掛けてくるなんて、そんなハズないでしょう?」
「―――――私も信じたくはないんだけど……ガイザは……
………魔王軍と手を組んだのよ」
「――――は? そ、そんなバカな。人間が魔王軍を手を組むなんてそんなこと…」
あまりにも荒唐無稽なその発言に、一瞬混乱する。
「モンスターたちが揃いの鎧を着ていたの、覚えてる?」
「えっ、あ、はい」
街道で待ち伏せして僕らを襲って来たモンスターたちは確かにみんな同じ鎧を着ていた。アレは確かに違和感を感じてはいた。
「あの鎧ね、ガイザ軍の伝統的な構造と模様があったわ。軍が提供したと考えれば説明が付く」
「……っ!で、でも、たまたまどこかからモンスターが強奪したのかも……」
「どうやって?アレはガイザ軍の正規兵だけに与えられる鎧で、一そこらで簡単に手に入るものでもないし、仮にどこかで兵士たちから略奪したのだとしたら、もっと傷がついてるハズだわ。あの鎧たちはほぼ新品だった。ガイザの軍施設に保管してある新品の鎧を大量に盗まれてそれをモンスターたちが揃いも揃って同じように身につけている……そんな話があると思う?ガイザが鎧を提供したと考えた方が、よほど現実味のある話じゃないかしら?」
「それは……じゃあ、本当に?」
「元々長年ガイザに居た私が言うんだもの、ほぼ間違いないと思うわ。
ガイザは魔王軍と手を組んで、ジュラルに戦争を仕掛けようとしてる。国境に近いこの村を、攻め込むための拠点として抑えるために攻め込んできた……そう考えて動くべきだと思うわ」
―――――これは……想像以上に大変な事に巻き込まれたのでは…?
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