第21話
「無いですねぇ」
「無いな」
「無いわねぇ」
地図探しが完全な徒労に終わった事で、3人とも大きなため息を吐く。
どうやらこの部屋は主に寝具や服を収納しておく部屋らしく、布団や毛布、今の季節には着ないであろう防寒着などしか出てこない。
とは言え、水で濡れた体にはありがたいので、毛布を拝借して体を温めつつ作戦会議だ。
「さてと、どうするのかしら、勇者くん?」
なんだかパイクさんに試されてる感じがするな……頑張ろう。
「まあ、当初の予定通り、見つからないように隠れつつ情報を探るしかないですね」
「探るって、どうやるのさ」
イジッテちゃんには、実に何も考えてないのでは?という疑念を持たれてる気がする。頑張ろう。
「運良くこの家に入れたので、まずはこの家の中を調べましょう。もしも誰も居ないようだったら、上に行きます」
「「上?」」
「ええ、おそらくこの建物はこの村の中でも1、2を争う高い建物だと思うので、二階や、出来れば屋根裏や、いっそ屋根の上から街を見回すことが出来れば村の全景がある程度把握できると思いますし、モンスターたちの動きで村の人たちの居場所も推測しやすいかと。もちろん地図があればそれでよかったんですけど、なんにせよ全景さえ把握できれば救出ルートも脱出ルートも想定出来ると思うんですよね。それで――――なんですかその顔……?」
……なんか、2人が目と口を全部真ん丸にした謎の表情で僕を見てくるんだけど…。
「いや、お前ちゃんと考えてたんだな……ごめんな、どうせ何も考えてなくて、敵地のど真ん中なのにヤケになって脱衣ボンバーやってやるーとか言い出すだろうからそしたらどうやって止めようか、って考えててごめんな」
「アタシも、きっと行き当たりばったりだろうから、まあいざとなったら遭遇した敵全部アタシが倒すかー腕がなるぜぇ………とか思っててごめんね?」
ゼロだ!!!信用がゼロだ!!!いやまあ、信用されることほぼしてないから仕方ないんだけど!!!
「にしても、妙に冷静だよな?こんな状況なのにパニックにも思考停止にもなってないし。本当に駆け出しの冒険者なのか?さっきの鍵開けのスキルと言い、お前の経歴が割と本気で気になって来たぞ?」
「まあまあ、その話はまたのちほど――――っ!」
その時耳に届いたのは、微かな金属音。
ドアだ。この部屋のドアにカギを差し込んで開けようとしている音だ。
僕らは一瞬顔を見合わせると、即座に身を隠す。
何枚も積み重なっている布団の隙間に、僕とイジッテちゃんが。
その向かい側の毛布が積んである中にパイクさんが入りこみ、息をひそめる。
キィ…と少し軋んだ音を立ててドアが開かれると、廊下からの光が部屋へと入り込む。
その光を遮るように伸びる人影が、コツコツと上品な足音を立てながら部屋の中へと入ってくる。
隙間から人影に目を向けると、逆光でシルエットしか見えないが、ふわりと広がったスカートが揺れながら近づいて来ているのが見える。
この家で働いてるメイドさん……だろうか?
友好的な人なら、色々と話を聞きたいところだけれど……騒がれてモンスターたちに気付かれるのは面倒だ。
どうするべきか……と考えていると、彼女はこっちに真っ直ぐ近づいて来て――――毛布の束に手を伸ばした。
マズイ、毛布の下にはパイクさんが隠れてる………!
バサッと持ち上げられた毛布の中から出て来たのは―――1本の矛だった。
いつの間にか武器に戻っていたらしい。ナイス変身ですパイクさん。
「……あれぇ?なんでこんなところに…槍?かな?ん~????」
メイドさん、槍ではないですよ、矛ですよ。
まあ、この国ではそれほど馴染みのない武器だから仕方ないけど。
矛を持ち上げ、思った以上に重かったのか腰が曲がるメイドさん。
その後ろ姿が、あまりにも隙だらけだったので、気づいたら――――
「静かに、騒がなければ危害は加えません」
僕は背後からメイドさんの口を塞ぎ、首元にナイフを突きつけていた。
「ひっ……!」
メイドさんが明らかに怯えて身体を固くしたのが伝わってくる。
「落ち着いてください、声を上げないで。黙って僕らの言うとおりに―――」
ガイン。イジッテちゃんに思い切り後頭部を殴られました。痛い。
(アホかお前!いきなりナイフで脅したら敵だと思われるだろうが!)
小声での怒鳴り、という器用な声量で僕を全力で怒ってくるイジッテちゃん。しかし、そう言われるとそうかもしれない。
「そうですね、すいませんつい。メイドさん、今から手を放しますけど、絶対に大声を出さないって誓ってくれますか? まあ、もしあなたが叫ぼうと大きく息を吸ったら、その瞬間に声が出せないようにしますけど」
「ひぃぃぃぃぃ……」
ガイン。
「だから怖がらせんな……!!」
いかんいかん、暗闇は自分の心の中の闇と共鳴してしまう。
反省、大反省だ。
「ごめんなさい」
「よし、メイドさん、こいつ素直に謝ったから許してやってくれるかい?」
「えっ?は?はい?」
「……何やってんのよアンタたち…」
いつの間にか人に戻っていたパイクさんの冷静なツッコミが炸裂したが、急に一人増えたことでメイドさんはさらに混乱しましたとさ。
「へっ?あれ?もう一人?あれ?あれれれれ??」
「――――えっ、冒険者の方なんですか?」
持ってて良かったライセンス。公的なものに対する信頼!
「はい、勇者コルスと申します。あなたは?」
「あっ、失礼しました。わたくし、村長様のお屋敷でメイドを務めさせていただいております。ジーニャと申します」
丁寧なお辞儀を見せるメイドのジーニャさんは、金色の瞳に赤い髪、そして大きな丸メガネが目を引く可愛い子だ。印象としては18歳くらいかな?
「ポールムっていう女の子が、キテンの街に助けを求めて来たのを、僕が引き受けたんです」
「ポールムちゃん!?ポールムちゃんは無事なんですか!?」
「ええ、今は街で休んでると思いますけど……お知り合いですか?」
「はい、ラヴィちゃん……あ、この家のお嬢様のお友達なんです。良かった、無事だったんですね」
心配していたようなので、ポールムちゃんと出会ってからの流れを簡単に説明した。
「まあ、僕らだけでは出来る事は限られてるかもしれませんが、一応軍の方にも連絡したので、数日後には来てくれると思いますよ。安心してください」
「そうなんですか……数日後……」
助けが来る、と聞いてもどうにも浮かない顔を見せるメイドさん。
「―――何か、急いで助けなければならん事情でもあるのか?」
イジッテちゃんも何か感じ取ったのか、直球の質問をぶつける。
「実はその……私、聴いてしまったんです……明日の朝、村長一家を処刑するって……!」
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