指先はつまびらかに

いすみ 静江

前編 指先くんの告白

 僕は、ユウちゃんの指先なんだ。

 ユウちゃんは、授業中もよく僕をぴしっと挙げてくれるよ。

 それに、放送委員では、色々な物を運んだり、さっさとお仕事をするのさ。

 マイクを持つ僕は、ちょっとかっこいいよ。

 放課後の折り紙・切り紙クラブでは、得意の器用さで、大活躍なんだ。

 皆、僕がちょちょいのちょいってドラゴンやヒーローを折るのを凄いって言ってくれる。

 でもね、ちょっと……。

 晩ご飯の時間は、箸の持ち方が違いますよって、大好きなママに、叱られているけれどもね。

 そんなユウちゃんが、泣く程学校で辛いことがあると分かり、ママが連絡帳に困っていることを書いたみたい。


 ◇◇◇


 校庭で、元気に遊んでいたんだ。

 ああ、ユウちゃんは、どこで遊ぼうか悩んでいるな。

 声を掛けてみよう。


『おはよう、うんていくん』


『やっぽい。指先くん。本当は、オイラで遊びたいんじゃないの?』


 おお、ユウちゃんが、うんていくんに興味を持ったみたいだぞ。


『よく分かったね。僕の主のユウちゃんは、混んでいる所では、あまり遊ばないんだ』


『遠慮していそうだっぽいね』


 ユウちゃんも僕も嬉しい気持ちでうんていくんを見つめた。


『おとなしいんだ。僕の主のユウちゃんって。男の子だけれども』


 うんていくんにのぼりかけた時だったよ。

 僕が、しっかりとよじ登ろうと掌に力を入れた。


「今日は、向こうまで行けるかな? できたら、友達を呼ぼうっと」


『指先くん、ユウちゃんは、やる気みたいだよ』


『僕、がんばるし、応援するよ』


 途端に、ぐらりと揺れた。

 下から押されたようだった。


「おい、さっさといけよ」


 主のユウちゃんは、六年生だけれども小柄だ。

 ちょっと低学年の子よりもまだ小さいしな。

 だからって、中身はお子ちゃまではないんだよ。


「お先にどうぞ」


 ユウちゃんはまだ進んでいなかったから、降りようとした。


「オレが追い抜いてやるから、行けっつってんだよ」


 いつも僕が見て来たユウちゃんは、喧嘩しないように、笑ってやり過ごすようにしている。


「分かった。分かった」


 僕をじゃんけんのパーに開いて、顔の前で、もうやめようのポーズをする。


「ゆるさねーからな」


 僕はぐっとつかまれて、わざと先に進むように、金属パイプを握らされた。

 ユウちゃんも触るまで分からなかったし、うんていくんも危険だとは思わなかったんだ。

 この日のうんていくんをよく見ていなかった。

 前の日が雨だったせいか、金属はしご部分が、濡れたままなのに気が付かなかった。


「あー!」


 ぬめりとしたのは一瞬で、僕とうんていくんは別れ別れになった。


『大丈夫だぽ? 指先くん』


 そして、僕は、落下した時に地面におかしな角度でついてしまった。


『うーん。うーん……』


 保健室で、僕は捻挫をしたと、冷やされた。


 ◇◇◇


 その二日後に、僕は、再び保健室に来た。


藤井ふじいユウさん。今日も転んだのでしょう?」


「はい。ぼくの不注意でした。コンクリートの所で転びました」


 ああ!

 僕の主が、嘘をついている。

 本当は、ケイくんに押されて僕の色々な部分を怪我をしたのに。

 だから、僕はこの主にうんざりするんだ。

 やられたら、やられたとどうして言えないんだ!


「すみませんでした」


「今から、健康診断にいらしている先生に、丁度いいから、診ていただきましょう」


「分かりました」


 そうだよ。

 早く僕をケアして欲しいな。

 それが、ユウちゃんの為でもあるんだよ。


 ◇◇◇


「では、おうちの方に電話して迎えに来ていただきますから。ベッドは一つしかないんです」


「分かりました。先生、よろしくお願いいたします」


「じっとしていなさいね」


 僕の聞いた話は、こうだった。

 今は、病院がやっていませんので、後少しで学校が終わりますから、通常通りに下校したら、いいと思います。

 病院には行きます。

 ユウちゃんのママは、そう決めたらしい。


「ありがとうございました。鈴木すずき先生。失礼いたします」


 その後、ユウちゃんは、皆と同じく下校した。


 ◇◇◇


「ユウ、指先、大丈夫?」


「う、うーん。まあ、触ると痛いかな? ママ」


 騙されたらだめだよ。

 直ぐに人に心配を掛けないようにするんだから。

 本当は、僕は痛いんだ。

 痛いときには、痛いって言っていいんだ……!

 大きな声で泣いたっていいんだ……!


 だって、ユウちゃんは、いじめられているんだろう?


 僕、知っているよ!


「支度してあるから、病院へ行きましょう。新しくできた病院よ」


「傘、持って行った方がいいよ、ママ」


「ありがとうね」

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