涙の処方箋
カゲトモ
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『悲しみを止める方法を教えてあげる』
ふとそんな言葉を思い出した。多分、俺がまだ小学生になる前の事。隣の教会のシスターに言われた言葉だ。どうしてそんなことを思い出したのか、それは目の前で静かに、それでいて突然涙を流したお客様がいたから。
その人は今までに何度か店に来てくれている人で、一人で来るのは今日が初めてだった。いつもは男性と一緒だったよう気がする。あまり印象には残っていないけれど、柔らかな目元は覚えていた。
そんな彼女がカウンターの隅で突然涙を零した。理由は分からない。本当に突然だったから。
「どうなさいました?」
出来るだけ優しく、そして囁くように訊いてみた。こういう時、人は他人に泣いていることを気づかれたくないだろうから。彼女が構って欲しくて泣いている訳ではないと感じたから。
「あっ・・・ごめんなさい」
泣いているのに気づいていなかったのか、少し驚いているように見える彼女は急いでバックからハンカチを取り出した。
「すみません」
「謝らないでください。なにも悪いことはしていないのですから」
「・・・」
彼女は唇を結んだまま微笑んで見せた。謝らなくていいし、無理して笑わなくていい。ここではそんな気を回さなくていいのだから。
「もしよろしければお話、聞かせてもらえませんか」
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