第50話


 テーブルにパールパーティを乗せたのが間違いだった。ミリィアさんの言葉を受けて、どれどれと近寄ってきたフィナちゃんに全員言い当てられてしまった。

 私の顔は真っ赤だったと思う。


 幸い誰もムスターファについて突っ込んで来なかったので、何も無かったような顔をして影の中の出来事を話す。パールパーティと普通に会話して一緒に戦ったと言うとみんな驚いていた。


 隠遁するのに謎の存在がいて怖いからと連れて行かれた事。影の中では日本語が通じるので、術詞っぽいことを唱えたら強化魔法が使えた事。黒い生き物を倒して回った事。大きな犬に食べられて連れ去られた事。

 ここまで伝えるだけで1時間以上掛かったと思う。


 今思うと影の中が懐かしいよ。普通に話す事を思い出しちゃったから、伝わらないストレスが凄い。フィナちゃん連れて行って思う存分話したいな。


 あ、セグさんおすすめの煎餅美味しい。何だろう、香味野菜?的なやつが入っててスッキリする。

 甘味も美味しかったけどこれも茶によく合う味だね。


「凄く気なる所で話を止めるのはやめてくれぬか」


 バリポリお煎餅を食べる私にカイくんが言った。


「今本人がここに居るからどうにかなったて事で我慢できますけど」


 掌に乗せたムスターファを見つめるフィナちゃん。あ、あんまり見ないでほしいな。

 ムスターファは最敬礼をしてるけど、この世界に通じるものかな?


「さっきから気になっとったんだが······、その足元のちぃこい犬にずっと噛まれとるのに痛くないんかの?」


 セグさんに言われて思い出した位に痛くないだなー。足袋を履いてるとはいえ弱すぎないかと心配になってくるね。


「いたくない」


「何だか哀れになってくるの」


 そうよね、思う存分吠えて噛んで怒りを発散してもらおうかと思います。チビてるせいか吠えても全然煩くないしね。

 でも、立ってる時とか座ってる時は良いけど寝る時が不安ではあるよね。あ、ここの家はベットだったんだ。問題なく快眠できそう。


「どうしてこんなに執着されているのかを教えて貰いたいものだな」


 それね、それ説明するの考えたら詰まったんだよね。だって小学校の頃の日本語で説明するのも躊躇うような微妙な話だ。

 マロも普通に生きてたしなー。いや、生きてたのがダメとかじゃなくて、話的に死んで取り憑いてたとかの方がありそうじゃない?

 うーん、私の罪悪感が仕事して作り出したとか?


 脳内ですら筋道立てれてないのに片言で話すとか難しいな。納得行く話にはならなくても真実なんだから仕方ないよね!


「大きい 犬の、中 夢みた。私の小さい時、犬 叩く男 子供いた、私、とめるできない、見てた。だから犬怒る······」


「まぁ、それで化け出たという事なのでしょうか」


「犬 生きてた」


 皆の首が軽く傾く。

 ほらー、伝わった気がしない。皆、ん? ってなっとるやん。

 伝わったところで、ん? って話な気はするけどさ。


 足袋に噛み付いて首を振っているマロを摘み上げてテーブルに乗せてみる。


「私、名前思い出した。名前、呼んだ マロ。お腹爆発。黒いの 集まった 大きいマロ影 居る。これ、小さいマロ」


 巨人達の食卓に乗せられたのに、気にする様子もなく私に吠えたてるマロ。あ、手噛まれた。直噛みはちょっと痛いな。


 見事にシンクロして反対側に傾く頭。


「大きいマロ、怒る無い。小さいマロ怒る。小さいマロ、怒る、消える するまで 拝むする」


 暫しの沈黙の後、フィナちゃんが咳払いをした。


「えっと、ユウナがマロの怒りを鎮めるって事ですね。名前を呼んだだけでお腹が爆発って言うのも意味が分からないですけど、そんなに悪さ出来そうに無いし良いんじゃないかと」


「そうだな、それだけ噛めればそのうち満足するだろう」


「マロの首輪と紐を作りますかの」


 若干どうでも良さそうな2人にノリノリのセグさん。リード期待してるよ。


「マロ、一緒 宜しくお願いします」


 居候なのに突然ワンコ拾ってきてごめんよ、これからも宜しくね。


 ちゃんと説明出来た気はしないけど、取り敢えず皆納得してくれたみたい。

 隠遁もマスターした筈だし、ちゃんと学校にも行けるね。パールパーティの皆モテモテだけど、後で試さないとね。


 風呂敷を踏み越えて堂々とテーブルの上を移動し、カイくんの目の前で何かを言い募るラティファ。何を言っているんだろう。

 イシャルはミリィアさんに捕まってるし、ムスターファはフィナちゃんの元に居るので私の所に居るのはラド1人だ。今は手に噛み付こうとするマロを盾でいなしてくれている。


 カイくんに伝わらなかったからか肩を落としたラティファが私の前にやって来てた。何か言っているので、顔を近づけて耳を傾けてみたけどやっぱり聞き取れない。顔を戻してラティファを見ると、頷いてカイくんの元へ戻って行った。

 うん? なんの返事もしてないけど、今の分かった!みたいな頷きは何ですか?


 目で追うとカイくんに向かって杖を振り上げるラティファが······。


 ――あ、消えた。


 なるほど私もこんなふうに消えたんだね。って、ラティファ?!


『ちょ、ラティファがカイくん消したけど?! カイくんの影に入ったって事? 皆、追いかけて連れ戻して!』


 固まる人間達をよそに素早く反応したパールパーティはあっという間に影に消える。

 シーンとしたダイニングにマロのか細い声だけが響いていた。

 

こ、この影って人間サイズでも入れるのかな?



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