第28話

 

 苛立ちをパワーに変えてハタキを振り切った。女の霊が掻き消える。

 外でもあの女が祓えて良かった。


 いやさ、普通朝にあんな事があった後に一人でこんな所来る?


 食後に顔を洗って身支度をしていたらカイくんが居なくなってて、ミリィアさんに聞いたら墓参りに行ったって言うから驚いたよ。

 此処はこおりの結界の外でも、サヒラーさんが術で結界を張ってるらしいけどさ。


「ちょっと待て、何故そんなに叩くんだ」


「はらう」


 別にモヤがついてるとか何も無いけど、なんか穢れた気がする。ハルちゃんもバサる。


「お家、入る。サヒラー様に女の話、する」


「分かった」


 カイくんは危機感が足りないんじゃないの? 此処は神様がいて魔物がいて呪いがある世界なんでしょ? 何がたまに見るよ。Gじゃあるまいし、実害あるでしょうが!


 ぷんすか怒りながらカイくんを食卓へ座らせ、サヒラーさんを書斎から呼び出す。


 サヒラーさんは一応毎日出掛けるけど、大体三時間位で帰ってくる。三日に一回は山登りして神社に行ってるみたいだけど、それでもお昼には帰ってくるしね。


「サヒラー様、カイ、女ついてる」


 ティネットさんにお茶を淹れて貰い、ボスに説教を促す。


「あれか、見初められたものだな。前も言ったが気にするな、視界の端に見えても無視しろ。大体、笑んでいるというだけでも、相当タチが悪いのだ。何をしてやろうなどと決して考えるな」


「大史様、今回のは違うのです」


 膝の上のハルちゃんを撫でつつボスに口答えするカイくん。


「今までは何をする訳でもなく、視界の隅に居るだけでした。ですが、今日はハルを見て何かを語りかけて来ました」


「ほう、面白いな」


 流石悪の魔導師、でもそういう事は心の中で言おうね。


「朝は驚いている様だったのに、今は怒りもあらわに手を伸ばして来たのです」


「ハルにか?」


「そうです。大史様、あの女は呪の核と言うべき存在なのですよね?だからハルに固執するのでしょうか?」


 サヒラー様は顎に手をあててうむーと唸りながら、思考の海に沈んでしまわれた。

 ちょっとボス、お説教は無しですか? ガツンと言ってくれないと困るんですよ。


「カイ一人あぶない、サヒラー様おこるください」


「ああ、そうだな。今までと違って攻撃してくるなら、無視しろなどとは言ってられぬな。残像のようなもので、すぐ消えると思っていたのだが違ったようだ。ハルの為にも気をつけた方が良いな」


 方がいいなんて弱いよ。最もガツンと言ってやって下さい。


「あの女、自分だけ置いていかれたような気持ちだったのでしょうか。怒りが勝ってるようではありましたが、悲しそうにも見えたのです」


 ほら! こんな事言ってる。悲しそうとか、完全に同情しちゃってるじゃん! 同情、絶対ダメ。


「落神にとってあの動物達は自分の一部か手下の様なものだろう、それが実態化して幸せそうにしていたら、寂しくて悲しみ嫉妬で怒り狂うのも当然やもしれぬ」


「同情だめ!」


 同情することは寄り添うこと、霊に寄り添ったら連れて行かれちゃうよ。


 サヒラー様が私をじっと見て言った。


「ユウナがあの女を実態化したらどうなるのだ?」



 いや、絶対しないし! 悪の魔術師怖っ!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る