突然ですがあなたは今日から死神ですよ!?

来栖槙礼

第1話 日常からの旅立ち

「何でもない朝、何の変哲もない日常。

今日も退屈な一日が始まる。特別な事を望んで

いたわけじゃない。テレビで見るような事件は

全て他人事。学校の虐めさえ自分には関係のいこと…」



広い草原の様な場所にポツンと置かれたベンチに腰掛け、少年はヒトリゴトを言っている。


「さっきから誰と喋ってんの?あ、ヒトリゴト?……君、イタイねッ!いや、ホント!」


指輪にネックレス、鋲が付いた黒いライダースジャケットを着た男が座り込む少年の前で大笑いしながら喋っている。


「何?アレなの?俺って不幸だな〜とか思ってますぅ?正解?ダヨネ〜。」


男は続ける。先程から俯き座り込む少年は再び

ヒトリゴトを始めた。


「ないないないない…ほら、あれだ。目の前のこいつもきっと人間じゃない。夢だ。俺は普通の高校生!そうだ!日常に、あの平和なマイルームに戻ろう!」


少年は立ち上がり回れ右をすると歩き始めた。


「ストップ、ストップ、ストップ。」


ライダースジャケットの男が少年の肩を掴み呼び止める。


「あ、人間以外の人、夢の住人とはお友達にはちょっと…」


少年は肩の手を払い除けながらけだるそうに振り向いた。


「人間じゃないのは正解なんだけどねぇ…?」


はぁ〜と大きくため息混じりにライダースジャケットの男は答える。さっきまで陽気に笑っていたこの男が真面目な顔になり、ゴホンと咳払いをしてから少年に向って話始めた。


「俺は人間じゃないよ。そして、君もね?」


少年は馬鹿にした笑い顔で答えた。


「へー?そういう設定?俺も厨二病患者かぁ〜自覚はないんだけどなぁ〜」


やれやれと言った様子で男は首を横に振りながら続けて話した。


「設定とか夢と思っても今はいい。だけど現実だからね?今から話すことは君が受け入れようが受け入れまいが事実だよ?その事はすぐにわかると思うけどね。ツヅキ ミチヤ君?」


幾分驚いた顔でツヅキ ミチヤは男に質問をした。


「現実?会ったこともないのに俺の名前を知ってる事が不思議だし、見たことない場所にいるしとても…」


ミチヤの言葉に被せて男は喋る


「さっきまでは近所の道をあるっていたハズ…

こんな所にいる訳がないからこれは夢だ。実はまだ布団の中…そう思いたいんだろ?」


何か言いたそうなミチヤを男は人差し指を立ててシーッとやりながら遮り続ける。


「残念。結論を言おう。ミチヤ、君は不運にも死んでしまった。通学途中にね。そしてここは分かりやすく言うとあの世ってわけだ。」


男の言葉にミチヤは目を丸くして黙っている。

その様子を見て男はやっぱりかと肩を竦めて両手を広げるポーズをしている。


「OK。泣き喚かないだけでも助かる。ミチヤ、何故死んだか思い出せる?無理なら説明を…」


「教えてくれっ!!」


今度はミチヤが話を遮り答えた。


「教えるよ…そのつもりだからその…手を離してくれない?」


ミチヤは焦るあまり無意識に男の手を強く、熱く握りしめていた。

ミチヤは慌てて手を離す。それを見た男は握られた手を振りながら続けて話をする。


「君はいつも通り通学路を歩いている時に車に突っ込まれたんだ…」


ミチヤは俯きながら答える


「そのままはねられた…」


「はねられてないよ?何なら車には触れてもいないよ?」


男が言うとえっ?と言った顔でミチヤ男の顔を見返す。

「車は避けたよね?ほんとに覚えてないんだね!避けたあとに君がはねられたと勘違いしてショック死。いやー人間の脳ミソって凄いよね!イメージだけで君は死んだの!」


ミチヤは思い出した…そう車にはねられた。痛かった。最後の意識はそれだった。気付いた時には草原のベンチに座っていた。だけどこの男が言うには自分は車に当たっていないと…イメージ?そんなことあるのか?ミチヤは男の言っていることが本当なら情けなくて恥ずかしくてどうしたらいいのか分からなくなって頭が混乱していた。

情緒不安定なミチヤの様子を一通り見てから男は言った。


「おめでとう!ミチヤ!」


何がおめでとうなもんか!ミチヤはお前のせいだと言わんばかりの顔で男を睨む。


「勘違いするよな!悪い!でも、ミチヤは凄い事をしたんだよ!」


凄いこと?ミチヤは今度は変態を見るような目で男を見る。


「まぁまぁ、聞いてよ。イメージで死ぬほどの痛みを作り出したのはミチヤの力なんだよ?なんて言ったら伝わるかな?うん!そうだ!神通力って言ったら分かるかな?」


聞いたことのある言葉だがこれまた現実離れしている言葉にミチヤはキョトンとしている。


「つまり、超常的力に死の瀬戸際に目覚めた君はその力で死んでしまった。これ自体は人間にとっては不幸なことかもしれない。」


それはそうだ。そんな力があれば楽に人生を遅れたかもしれないのに力を得た瞬間にミチヤは死んでしまったのだ。落胆して空を仰ぐミチヤに

男は話しかける


「さっき、君も俺も人間じゃないって言ったよね?」


「分かったよ。アンタも俺も幽霊…いや、お化け何だろ?」


もう何でもいいと言った表情のミチヤがため息混じりに答えた。


「お化けか…うーん。違うなぁ。言ったよね?君の力は言うならば神通力。神の通づる力。神様の力を少し使える存在なんだよ。俺達は!」


ミチヤは慰めならいらないと言わんばかりに首を振っている。


「この力を使って神の使いとして人間界のパトロール及び神通力を悪用する人間を狩りに行く。これがこれからのミチヤの仕事だからね!」


「はぁぁぁぁぁあっ!?」


考えるのを半ば放棄していたミチヤは男の言葉に無意識に反応した。


「神様って言っても死神様だけどね〜。悪人の魂、若しくは力を狩りに行くのを代行する。死神代行業を行ないます!」


「待って!話が見えない!」


ミチヤは混乱している。同時に高揚感か込み上げていた。もしかして…


「つまり人間界の平和を守るヒーロ…」


「キターーーーーーーーーっ!!これ来たよ!特別な力があったらいいのにと思ってだけどそんなことも無くてどーせ、平凡な日々の中つまらなく死んでいくって思ってだけど…これ、キターーーーーーーーー!」


厨二病だった。結局、厨二病だった。ミチヤはそれ故に喜び叫んだのだった。

また男はやれやれと言った様子で肩を竦めた。


「改めておめでとう!ミチヤ!俺達は君を歓迎する!これから君の生活する場所に案内する!ついてきて欲しい!諸々の説明はそこに着いてから俺達の上司がする事になってる!」


ミチヤは満面の笑みで頷いた。振り向き、歩き始めた男のあとをミチヤは小走りで追いかけながら一つ質問をした。


「なぁ?ひとつ聞いていいかな?あんた。名前は?歳は?」


男は笑いながら答えた。


「ふたつ聞いてるけどぉ?そうだね、名乗っていなかったねぇ〜。俺はクロ!クロでいいよ!ミチヤ!それと歳だけどね…」


少し考えてからクロは答えた。


「そのうちに教えるよ!今は名前だけで我慢してね!」


「クロか!よろしくな!クロ!年内緒とか女子か!」


ミチヤはこれからの事に期待でいっぱいな様子だ。


最初の呆けた様子から沈んでみたり慌てたり見ていて飽きない新入りの死神代行…見習いを横目にクロは歩いた。少しの後ろめたさを困った様な笑顔に隠して…


―続く



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