週末は王都で水屋さん

TKSZ

第1話 水屋の一日

朝6時、店の入り口に「営業中」の札をかける。

「お、やっと開店だね」

「おはようございます、ライトさん」

私はこの店で美味しくて安全な魔法で作った水を売っている。

店があるのはアクア王国王都ブルー。

国の名前も王都の名前も水を連想させるが、残念なことにこの都市の水は不味くて安全とは言えない。

料理や飲み水に使う時には煮沸することがお勧めだ。

王都内の各家庭や工房や商店や宿屋には上水道がきており、下水道も整備されているのだが残念なことだ。

井戸のある所もあるがそちらもまずい。

この世界には魔法があり魔法が使える人は5割、魔法で水を創れる人はそのうち2割程度だ。

その2割の人もほとんどが1時間ごとにコップ1杯の水が作れる程度だったりする。

1時間に1Lの水を創れる人は優秀だ。

1時間で10Lならば貴重な人材だ。

中には1時間で100Lの水を創って魔力切れでぶっ倒れた魔術師もいるようだ。

魔法で創った水は安全だ。

そのまま飲むこともできる。

不味いというほどではないが美味しくない。

理由は簡単。

純水だからだ。

不純物がない水は美味しいとは言えない。

美味しい水を飲みたければ200km離れた山沿いの村に出かけるしかない。

もしくはそこから5日かけて運ばれてくる水を買うか。

美味しい水も5日も馬車に揺られて運ばれてくれば加熱殺菌をしていない水は悪くなってしまう。

王都は美味しい水に飢えていた。


そんな王都に20年前にできた店が「水屋」だ。

初老の男性が一人で始めた魔法で創った水を販売する店だ。

「美味しい水」と表現できる水を豊富に提供してくれるので王都で有名になった店だ。

ただし営業するのは7日に原則2日。

店主の気まぐれか3日連続で営業したり、1日だけ営業する日があったりする。

時には9日連続で営業ということもあった。

この世界の1年は360日。

ひと月が30日。

週という考え方がない。

5年に一度ぐらいのペースで閏月がある。

1日は24時間、1時間は60分、1分は60秒だ。

何故か使われて文字と言語がこの世界共通で日本語だった。


「水屋さん、美味しい水を20Lお願いな。この瓶に入れてくれや」

「はい、200円です」


ここでは美味しい水が1L10円だ。

大銅貨2枚を受け取る。

この世界の通貨の単位は「円」。

鉄貨が1円。

小銅貨が10円。

大銅貨が100円。

銀貨が1000円。

金貨が1万円。

小判が10万円。

大判が1000万円だ。

平民なら4人家族で月5万円で生活できる。

瓶に水を少し入れて中を洗ってから20Lの水を入れてライトさんに渡す。


「もうお店には慣れたかい」

「はい、おかげさまで」


私がこの「水屋」の店長になったのはふた月前。

店を始めた先代の店主から引き継いだ。

その経緯は後程。



ライトさんのように食べ物屋を営業している人やお屋敷の使用人が朝早くから多くの水を買っていく。

そして、

「タカシさん、おはよう」

「姫様はもう少しお淑やかにできませんか?」

学校に持っていく水袋に水を入れるために来る学生たち。

水袋は皮でできた水筒だ。

皮の臭いが移らないように魔法処理を施してある。

「今日も1Lでいいですか」

「うん、よろしく」

アクア王国第1王女ユキノ様は営業する日には朝と晩に必ず水を買いに来る。

「タカシ様。王宮用の水がいつもの通り10Lの瓶4つとユキノ様の水1Lで410円をお納めください」

王宮などのお得意様からは瓶を事前に預かっているところもあり、水を入れて用意している。

空の瓶と水の入った瓶を交換することで時間の短縮を図る。

王宮では「水屋」から水の納入がある日にお茶会が開かれるらしい。


朝5時から用意した水は6時から9時の間にほぼ売り切れた。

9時から11時は休憩してその後30分で水を用意する。

11時半から1時半が昼の営業だ。

3時半から水を用意して4時から7時が夕方の営業だ。

ユキノ王女は3時半ごろから学校帰りに寄って私の作業を見ていることが多い。

ユキノ王女は氷属性の魔法が得意だそうだ。


1日の水の販売量は6000Lぐらいだ。

先代の2倍の水を販売できるようになっている。

水の味も先代より高く評価してもらっている。

営業中に足りなくなって追加することもあるが。

水の準備時間は1時間+30分+30分で合計2時間。

1時間で3000Lの水を創りだす計算になる。


1日の売り上げは6万円ぐらいになる。


営業する日にはそんな1日を過ごしている。

もう少し余裕のある日々を過ごしたいのだが。

使用人でも雇うか。


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