擬人物が擬人化する。

齋藤 龍彦

第1話【夏、蚊が部屋から消えた日】

 いつの間にか部屋が夏になってきた。〝ぷーんぷん〟と耳障りな音が鳴り始める。ばふっと枕をぶつけてももちろん効果など無い。朝起きると腕だとか腿だとかが薄い円墳状になってしまい痒くて仕方がない。

 夜中じゅう電気蚊取りでもつけとけばいいものをなんとなく空気が悪くなるような気がしてなにもしていない。部屋に飾っている美少女フィギュアにも影響が出るような気がしている。


 そのせいで〝ぷーんぷん〟と蚊が我が物顔でこの自分の部屋を飛び回っている。


 ところがいつの間にか蚊の羽音が部屋から消えていた。それを不思議なことだとはまったく思ってはいなかった。『用が済んだからどこかへ行ったんだろ』くらいにしか思っていなかった。



 〝このところ蚊に刺されなくなったなぁ〟と、掛け布団を蹴飛ばしまどろんでいた或る日曜の朝、枕元にその人は立っていた。

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