銀翼を求める空の英雄

空桜歌

序章 黄昏時の黎明

前世の夢




 ――――夢を見る――――




 見渡す限りすべて青。下を見れば遠い大地。




 ――――遠い記憶――――




 俺を背に乗せ風を切り、共に空から世界を見ているのは、銀翼のドラゴン。




 ――――戻りたい、でも戻れない――――




 いつも共にいた大切な相棒の背を撫でると、こちらを見て幸せそうに笑う。




 ――――楽しかった、幸せだった――――




 大切な相棒であり愛しい彼女。




 ――――ずっと一緒だと思っていた――――




 幸せな時間、それは突然終わりを告げ、世界は闇に包まれる。




 ――――それは異なる世界、異なる人生――――




 人々は戦うも、世界は終わりへと向かう。




 ――――唯一の希望、人々の願い――――




 ――――求められた犠牲――――




 俺は最期まで共にと願った彼女を置いて、一人、世界から消えた。




 ――――忘れられない、彼女の涙が、彼女のすべてが――――




 闇は消え、世界に光が戻り……――──……俺はその時目を覚ます。






 涙が頬を伝い枕に染み込む。一度目を瞑れば溢れ出す感情と記憶。

 そのどれもが俺にとって何よりも大切な物で、何よりも執着している物だ。

 忘れる事の無い感情と記憶が、今日も俺が【俺】だった事を俺に示してくれる。



 俺、「御影(みかげ) 響夜(きょうや)」には前世の記憶がある。

 自分の命と引き換えに世界を救って死んだ【ジーク】としての記憶が。


 世界を救うためだった、覚悟もしていた。

 それでも、一つだけ気掛かりなことがある。大切な相棒であり最愛の妻、カリアのことだ。



 カリアは銀色に輝く体に虹色の瞳のとても美しいドラゴンだった。

 彼女と出会って俺は幸せだった。

 けれど俺は最期、共に逝くと言ってくれたカリアを残して、一人で死んだ。



 カリアは生きていてほしかった。

 それは俺の最期の願いであり、あの世界のためだった。


 あの世界にとって最善の選択だった。

 そうする事を求められていた。

 そうわかってはいるのだが、ずっと俺には心残りがあった。



 ──彼女は俺が死んだ後の世界でどうしているのだろう?




 泣いていないだろうか。

 怒っていないだろうか。



 ──幸せだろうか。




 確かめたくても俺は前世とは違う世界で生きる今、確かめる術は無い。

 魔法の代わりに化学が発展しているこの世界ではどうすることもできなかった。


 ぼんやりとしている間にも時間は進み、目覚ましの音が部屋に鳴り響く。

 ジリリリと騒がしく鳴る目覚ましを止めてベッドから起き上がると、クローゼットに掛けている高校の制服が視界に入った。



『ジーク、今日は街へ行くのだろう? 早く起きて行こう』


「……カリア」



 学校に通っていても、友人と話していても、授業を受けていても、何をしていても……ふと、カリアのことを考えてしまう。



 もう一度君に会いたい。もう一度共に空を飛びたい。


 おそらくその願いは叶わないのだろう。叶わぬ願いだとはわかっている。

 それでも願わずにはいられない、諦めることができない。




 愛する存在の居ない世界で、俺は今日もカリアのことを思いながら御影響夜として生きている。

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