第2話 僕も手伝わないとダメですか?

僕らを訪ねてきたのは、佐々木のおばあちゃんだった。

熱心な猫川神社の信者で、いつもお参りに来たり、ゴミや落ち葉を掃いたりしてくれる。僕のことも子供のように可愛がってくれて、とてもいい人だ。


……大の猫好きであることを除けば。


「楓ちゃん、大変なの! うちのミーコが行方不明になっちゃったの!」

「だってさ、楓。探すの手伝ってあげて」


全ての話を聞き終える前に、僕は回れ右して社務所の奥に引っ込もうとした。

しかし後ろ襟をつかまれ、引きずり戻されてしまう。


「沙介も佐々木さんのお話を聞くの!」

「はいはい……わかりましたから子猫をつかまえるみたいな持ち方するの、止めてくれませんか」

「ありがとう、猫又さま!」


佐々木さんは両手を合わせ僕らを拝んだ。


佐々木さんから聞いた話は、ざっとこんな感じだ。

二か月前、飼っている三毛猫のミーコが子供を産んだ。

子どもたちは三毛か白で、順調に育っていたが、ある日佐々木さんが異変に気付いた。

三毛の子猫の中に、雄が混じっていたのだ。


通常、三毛猫は雌しか生まれない。雄が生まれた場合、それは突発的な遺伝子変異であり、愛好家に売れば一千万円以上の値をつけることもできる。

そのくらい珍しいことなのだ。


「それでね、私、知り合いのブリーダーさんに子猫を預けたの。変な評判が立って、怖い人が誘拐目的でやって来たら嫌でしょう?」

「ええと、ミーコちゃんはお母さん猫なんですよね? いなくなったのに関係がありそうですか?」

「そうなの。ミーコったら、子猫を預かってもらって以来『にゃおん! にゃおん!』って探し回っていて……ふいっと居なくなったきり、もう一週間も帰ってこないのよ。私、ミーコに酷いことをしてしまったわ」


そんなことはない。子猫を預かってもらったのは、いい判断だと思う。

外部者におびえて暮らすより、しかるべき場所で保護を受けたほうが全員にとって幸せだ。

――これ、人間の価値観が混ざっているだろうか。


「それで猫川神社に来たの。楓ちゃん、沙介くん、ミーコを探してください。お願いします、猫又さま!」

「ちょっと、佐々木さん、お顔を上げてください!」


親子ほども見た目が違う佐々木さんに神仏のごとく拝み倒され、楓が抱きしめて安心させようとする。

――あーあ、こうなるとなし崩し的に引き受けるな。

僕は、猫という種族と関わるハメになったことに、かなりの憂鬱をおぼえた。

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