猫川神社の沙介くん
あきよし全一
第1話 猫好きな彼女と、猫嫌いの僕
――長生きをした猫は、猫又と呼ばれる特別な存在になり、人間と同じ姿が取れるようになる。
それは猫川町では誰もが知っている「常識」。
しかも猫川神社では、歴代の猫又がまつられているだけでなく、当代の猫又が住み着いているという。
その姿を見た者には……特に何のご利益もない。マジで。
* * *
「猫又もさ、全国的に知名度を高めるときだと思うのよね。町おこしも兼ねてアイドルデビューするの」
楓は、どんぐりのような目をキラキラさせながら熱く語る。僕はそれを、適当に聞き流す。
今はちょうどお昼休み。僕と楓は猫川神社の社務所で、いつも通りくつろいでいた。
「沙介はどう思う? 猫キャラで町おこし」
「いいじゃん、売り出さなくて。僕、猫嫌いだし」
「言うと思った。沙介、猫嫌い直しなよ。せっかく猫川神社に住んでるんだから」
出た、楓の「猫と仲良くなろう」アピール。僕は適当に受け流す。
猫川楓は、猫川神社を仕切るのを仕事にしている。具体的には、巫女服を着て掃除から参拝者への対応、野良猫の世話まで全般をこなす。
見た目は高校生くらいだが、正確な年齢は分からない。ボブカットに巫女服が似合っている、と思う。自分の美的センスにイマイチ自信がない。
一度、楓に「本当は何歳なの?」と聞いてみたら、真っ赤になって怒った。以後、聞かないようにしている。
「沙介? ねえ聞いてる?」
テレビではお天気お姉さんが「今日は五月晴れでしょう」と言っている。僕は冷蔵庫から、よく冷えたスプラウトを取り出した。
「ん、スプラウト苦い……」
「あーっ、またそうやって誤魔化そうとする! だいたい沙介はねぇ……」
楓がなおも食い下がろうとしたとき、社務所の入り口で「ごめんください」と声がした。
楓はすぐさま立ち上がり、「はぁい」とよそ行きの声で返事をする。僕も、のそのそと彼女に続いて立ち上がった。
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