第六天魔王ノブナガ、魔界へ参る
大澤聖
第1話 魔界での戦い
――魔界
化物たちのすえた匂いが戦場に漂っていた。敵方には見渡す限りの化物がいる。いわゆるゴブリン、オーク、オーガなどだ。これに対するは少数の人間たち。兵士たちの身なりはみぼらしいが、少数の指揮官たちは華美な鎧を身に着けている。
「カズマス、物見せい!」
最高指揮官らしき男が
「は、ただいま!」
カズマスと呼ばれた男は軍の前方へと駆け出していった。
「ふふふ、この
男は戦場の緊張から、肌がざわめき立つ感覚に襲われていた。それは男にとって決して不快ではなかったのである。数から言えば、敵の方がかなりの多勢であり、戦は人間側が不利とみえた。
「殿っ! 敵はおよそ2000かと」
カズマスが前線から帰ってきた。
「2000か……、我が軍の4倍だの」
「はっ。しかし敵軍の多くは緑色の肌をした小人で、質の良い兵とは思えませぬ。殿の指揮があれば必ずや勝てまする!」
「ふむ……」
男は頬杖をついてしばし何事か考えていた。
「ノブナガ殿、魔王と恐れられた貴男とも思えませぬ。早く敵将の首をとってきてくだされ」
男の側にいた美しい女性がそう呼びかけた。
男の名はノブナガといった。異界の「日本」で、第六天魔王と恐れられた武将、織田信長である。外見はまだ若く、
「ふふふ、キチョウ。おぬしも相変わらずよの。おなごなら控えておらぬか」
「嫌でございまする! この世界では男も女もござりませぬ」
「それもそうよの。ではキチョウ、戦いの
「そのお言葉、待っておりましたわ」
キチョウは破顔して、そう応じた。
キチョウは両腕を天へ向け高くかざす。彼女の周囲に風が渦巻き、大気が鳴動する。
――やがて、キチョウの両手の先に火球が2つ、いや3つ現れた。一つ一つが巨大な大きさである。キチョウは敵軍を見渡すと、その中央へ火球を放った!
ゴゴオウウウウウン!
辺りに爆音が鳴り響いた。火球によって敵の兵士が吹き飛び、敵軍は大混乱となっている。
「こんなところで宜しかったでしょうか?」
キチョウが挑戦的な笑みを浮かべている。
「ふっ、言うわ、おなごが……」
ノブナガは
「よし! これより出陣するぞ! 先陣はカツイエ。トシイエ、ナリマサ、ジュウベエが後に続け。
「はは!」
諸将が命に従って各々の陣に戻っていく。ノブナガの軍は全部でおよそ500。それもこの魔界で自軍に引き入れた兵が大半であり、充分に働けるか少々心もとない。
先陣を仰せつかったのはカツイエ。かつての「日本」では柴田勝家と呼ばれた男である。カツイエといえば、「かかれ柴田」と呼ばれた猛将である。見た目は25才ほど、ちょうど壮年期を迎えているようだ。
カツイエは兵を率い、大混乱に陥っている敵陣に襲いかかった。カツイエ軍は文字通り敵を蹴散らしていった。敵軍のゴブリンはかなり弱く、オークでほぼ人間と同等のようだ。巨大なオーガはかなり強いが、数は少ないのでカツイエ自らが討ち取っていく。
カツイエに続き、かつての織田家の猛将たち、トシイエ、ナリマサ、ジュウベエなどが
「ふふふ、この体、若い体というのはやはり良いものだの!」
カツイエがオーガに斬りかかりながら、近くに居たナリマサに言った。
「さようでござりまするな! これで心から戦を楽しめまする。この世界に来たのも、まんざら悪くありませぬ!」
「おうよ! ここはまだ切り取り放題だからな!」
トシイエがこれに続いた。
「みなさま、ご油断なさりませぬな。ここは我らが知る世界ではありませぬぞ。我々が“特別な力”に目覚めたように、敵将にもどのような力があるか、分かりませぬ」
これはジュウベエ、かつての明智十兵衛光秀である。戦も強いが、政治や外交もできる名将であった。
「分かっておる、ジュウベエ。しかし、このような現実離れした状況にいては、楽しまねば損というものじゃ!」
カツイエは心から戦を楽しんでいた。彼ら織田の諸将は若き頃から戦に明け暮れていたのだ。今まさに、その若き頃をもう一度やり直しているかのような感覚に襲われていたのである。
この怪物と戦っている彼ら、織田家の主従が魔界へと飛ばされてきたのは、今から約一ヶ月前のことである。
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