撃ったのは…誰?

中田祐三

第1話

男が座らされている。


自身をかこむように複数の男達に時折蹴られながら悲鳴をあげていた。


複数の男達の中心には俺の親父がいる。


そして俺の母親も……。


しかし母は座らされた男の隣で同じように父に殴られ続けている。


そんな母から出される悲鳴は人が出すような音では無く、例えるならば金属が強く擦れあうような、もしくは車に潰される鳥があげる最後の鳴き声のようであった。


その光景を俺は淡々と傍観している。


おそらくその時も同じようにしていたんだろう。


目の前で起きている惨劇を無邪気な視線で夢か現実かわからないまま見ていたのだ…………。


やがて父が何度目かに母を殴りつけた後に何かを持たせようとした。


それは黒く、重厚な作りでよくテレビの刑事物に出ているのを見ている代物だった。


父は母にそれを持たせたまま、男のこめかみにつけて殺せと命令している。


母がイヤイヤと首を横に振るが、その度に部屋の中には鈍い音が響き渡っていた。


大好きな母さんが困っている。


「僕がやる!」


そう言って揉み合っている二人の間に入って指先で引き金を引く。





「夢か…」

妙にリアルな夢だった。


場所は生まれた時から住んでいる自分の家の居間で、鉄の塊の重さも意外に軽い引き金の感触も全てがリアルに思いだせてしまうほどだ。


まったく…久しぶりに帰ってきたっていうのに…。


普段は夢など見ない自分がよりによってどうしてあんなモノを見てしまったんだろう。


いや、今…だからこそか。


一度溜め息をはきだす。


父が無くなったという知らせを母から聞いたのは一昨日の夜のことだった。


すぐに直接の上司に連絡し、その後には必要と思われる物を車に詰め込んで、故郷へと帰ってきたのだ。


そしてそのまま寝ずに葬式の準備に追われ、客人が帰った後の居間に布団をしいて寝たのが深夜二時だった。


「あら…もう起きてたの?早く布団をたたんでちょうだい、すぐにお客さんがいらっしゃるんだから」


昔と変わらない快活な言葉には泣き叫んでいた母の面影は無い。


やはりあれは夢だったんだろう。


よくよく考えてみれば父は若い時は血気盛んだったらしいのだが、自分が物心ついた頃には大分丸くなっていて父があんな風に怒っている姿など見たことない。


母に促されて俺は手早く布団を片付け……ようとしたところであることに気づいた。


居間はフローリングの床なのだがちょうど自分が布団を敷いていた場所に一部床の色が違うところがあった。


まるで一度剥がして新しくつけたかのように……。


まあいい。 今日は葬儀屋との打ち合わせの後に葬式があるのだ。


来客の相手などやることがいっぱいある…夢のことなど気にかけてる場合じゃないよな。

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