『 高崎駅のホームで待ち時間が暇なので書いてみた』
高崎線の始発電車内はまばらだった。
最寄り駅から乗り込み、普段とは逆方向へと向かう電車に揺られながら流れる景色を見ながら何度目かの欠伸が出てくる。
理由はわかっている。
楽しみすぎてろくに寝れなかったからだ。
俺は小学生か?
というセルフツッコミはカーテンの隙間から光が入ってくるまで何千回も繰り返したのでもう十分だろう。
電車は坊主頭のガキ大将がキャラクターの誕生地を過ぎて厨二病チックな振る舞いをするリーディングシュタイナー持ちの男のような駅を越えて停車する。
電車のトビラが開くたびに車内の温度が確実に下がるのを感じた。
去年の今頃と比べると今年はやはり寒い。
この調子では目的地ではもう一枚着こむことになるだろう。
ふと車窓を見上げると家を出た時には濃黒だった空は淡いオレンジ色の朝陽によって薄紫にされていて、睡眠不足の眠気を少しだけマシにしてくれた。
当たり前のことだが朝は必ずやってくるのだなと、かつて震える母親に抱かれながら橋の下で迎えた光を思い出す。
電車は群馬県との境目を走っていた。
やがて新町なのに決して新しくない町並みを抜け、目的地の高崎へと到着する。
電車の到着時間を知らせる電光掲示板を見上げつつ私は軽く舌打ちをした。
別に新幹線の到着時間まで40分弱あることではない。
確かに目的地までに降りる駅は調べていたが電車の時間までは見ていなかった。
どうりで到着時間を見た時にあれ?こんなに時間かかったっけ?という気もしていたけれど……。
まあそんなことは瑣末なことだ。
私が舌を打った理由。 それは私がいま持っている旅行用バッグの中身の一つだ。
執筆活動の相棒のノートパソコン(通称 二代目富士君)がそれだった。
よ~しオジさん旅先で色々書いちゃうぞ~と一人盛り上がっていたのはいいが、一つ大事な物を忘れていたことに気づいたのだ。
電源ケーブルだ。
人類の全てをこめた最終決戦兵器もアンビリカルケーブルが外れてしまえば数分しか戦えないように、持ち運び出来るノートパソコンの欠点であり文字通りの命綱ともいえるそれを忘れてしまったのだ。
しかも私の相棒は充電が切れても暴走と言う名の再起動どころか、ケーブルがなければ十秒で「お腹が減って力が出ない」状態になってしまう。
よって私の宝物であり、大切な戦友はいまでは無駄に筋力トレーニングを促してくれる重り……いやバーベルと同義になった。
自身の愚かさを溜息とともに嘆くが既に遅い。
仕方なく私は身体を右に傾けながらやってきた新幹線に乗りこむのだった。
これからの数日間のトラブルを予想しながら……。
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