学舎の下でー技術学園執行部総務課ー

明智 一

プロローグ ようこそ、国立高等技術学園へ

 最寄駅からバスに乗り込んで30分。周りから建物が消えて久しいその時、車掌のアナウンスが車内に響く。

「次は国立高等技術学園前。国立高等技術学園前……」

 ボストンバックを担いでバスを降りる。国立高等技術学園……日本に唯一存在する、5年制の学校である。その名の通り、学園では技術分野の講義が多く開講されている。笹原洋介は一般高校からこの学園に編入する男子学生だ。

「ここが技術学園か」

 唯一の乗客を降ろしたバスは足早に去って行った。笹原がバス停からしばらく歩くと、学園の校門にたどり着く。すると、校門の前に立っていた年配の男性が笹原に声をかけた。

「君が、今日から制御科の4年生に編入する笹原君かな?」

「はいそうです」

「よかったよかった。私は学生主事の高柳です。これからよろしくね」

 男性は優しく微笑みながら笹原に歩み寄る。

「早速で申し訳ないんだが、もうホームルームが始まってるんだよねぇ。だからまずは、このまま教室まで先に案内するよ」

 さぁさぁ、と高柳に案内され、笹原はボストンバックを抱えながら教室へと向かう。校門を抜けるとレンガ造りの遊歩道とも言える広い道が長く続いていた。赤茶色いレンガが、萌える若葉の緑を映えさせる。暫くしないうちに、学園の校舎が姿を現す。高柳が校舎をひとつひとつ指しながら笹原に説明していた。

「一番手前に見えるのが管理棟。先生たちがいる建物だよ。その奥に見える高いのが講義棟。ここで授業が受けられるよ。研究棟では上級生達が教授と一緒に研究をしてるね」

 管理棟を越えた笹原の目の前に大きな噴水が現れる。まだ授業中のせいなのか、噴水の周りには誰もいなかった。その後ろには五角形の講義棟が大きくそびえたつ。1,000人を超える全校生徒の大半を収容し、かつ体育館等の諸施設も併設している8階建ての巨塔はまるで学園の象徴のように敷地の中央に鎮座していた。講義棟に入ると、笹原はエレベータで4階に案内された。エレベータを取り囲むような形をしている講義棟の廊下は整然としており、笹原と高柳の足音だけがこだまする。すると高柳が扉の前で立ち止まった。ここが制御科の教室のようだ。すると、高柳は扉の窓を覗き込むように教壇に立っている若い男性に目で合図する。合図を横目で確認した彼は教室の学生達に向かって切り出した。

「よし、最後に今日からこの制御科に編入する新しいクラスメートを紹介するぞ」

 高柳が扉を開け、笹原を教室へと送り出す。笹原は教室の教壇へと登ると黒板に自分の名前を書き、学生たちに向かって声高に挨拶した。

「笹原洋介です。都立工業高校から編入してきました。今日からよろしくお願いします」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る