起死回生の英雄
貴乃 翔
プロローグ
まるで地球が始まったばかりのようにプレートがひとかたまりとなっている世界。それがテクトニクスだ。その大きな大きな大陸の周りは海に囲まれている。だが、陸と海のあるこの世界に、一つだけ地球と違うところがあるとすれば、それは果てがあるということだろう。昔むかし、多くの人間に信じられてきたように、ここ、テクトニクスは海に出て一直線に進むと崖になっている。底がどうなっているかは誰も知らない。そもそも底があるのかさえ、不明確だ。あるものはそれを地獄への奈落と言い、あるものはそれを異世界への扉だと言った。
だが、それはさしてこの世界に住む者達にとっては関係がない。なにもそこまで危険を冒して航海することもないからだ。この世界の住人は海などなくとも、何不自由なく暮らしていくことができる。
その原因は何か。それは今後の物語に関わっていくので説明しておこう。
まず、人々はそれを魔術と言う。それだけ聞くと、奇跡の技や神秘の秘術のようなものを想像してしまうかもしれない。だが、この世界で言う魔術はそんな大それたことではなく、もっと身近にあるもの。例にあげるとすれば地球の我々がよく使う、というかなければならない電気のようなものを思い浮かべてほしい。それがこの世界における大まかな魔術の位置だ。
さて、テクトニクスの基本的な知識はこのあたりにしておき、次は歴史だ。
魔術とは先人達が生活の中で何気なく発現していたものが伝えられたものだ。狩りでこうしたらもっと良くなる、そんな風な願いを持っていたらいつの間にかできていた、と言えばこの偶然性がわかりやすいか。
かくして、テクトニクスには魔術という技術が広がっていったわけである。
そして古代の人類は豊かで穏便、まさに最高の暮らしを享受していた。
だが。
そんな平和がいつまでも続くなんてことはありえない。
人間とはそういう愚かな種族なのだ。力を持つと、いつしかその力をなりふり構わず振るうようになる。たとえ、どこまでも平和な日々がそこにあろうとも。
一度誰かがやってしまえば、あとは早かった。憎悪に憎悪、やり返しの繰り返しでどす黒い思想はどんどんテクトニクスにまんべんなく蔓延していく。これが、後に第一次テクトニクス大戦と呼ばれることになる、世界規模で行われた戦争だ。この戦争は半世紀ほど続き、それは危うくテクトニクスが沈みかねない惨さだった。
だが、往々に人類史を眺めていくとわかるように、そのくすぶる憎悪の思想も、いつしか少しは落ち着くようになる。
戦争の休息。全くもって聞こえはいいが、それはただの休息であって、終了などではない。いつ、どこで、どこの国がまた戦争を始めるかわからない。
――と、ここまでがテクトニクスの辿ってきた道、そして現状だ。現在もまだ争いは起こっていない。が、だからといって必ず始まらないとも言いきれない。
そんな小康状態の世界の中、一人ふらりと世界各地をめぐる放浪者がいた。
その者は独裁政権になっていた国をまるまる救った功績があった。女帝を傅かせるなんてこともしていた。
これは、そんな英雄の戦記であり、伝記であり、神話である。
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