皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~
網野 ホウ
プロローグ
オワサワール皇国。
この世界の一番広い領土と、一番強い国力をもつこの国は古来から、自然に出現する魔族達の標的となった。
魔族とは、それぞれが持つ特徴ある能力でこの世界の住人たちの命を蹂躙し吸収。そして自らの命を長らえる者達の総称である。
この皇国をはじめとするこの世界の国々の住民達は、この世界、そしてそれぞれの国で平穏に暮らすことを願い、繁栄に貢献する者達。そしてそんな魔族には抵抗する術はない一般人。そんな者達の命を食らい生活を脅かす魔族を放置すると国どころか世界を破滅させてしまいかねない。
もちろん世界は手をこまねいているわけではない。
自分たちの暮らしを、命を、ひいては国や世界を守るためにそんな魔族を退治、討伐するために立ち上がる者達もいる。
人力による武器の扱いに長けた者や、魔力魔術に優れた者達で編成された国軍やそれに参入する冒険者達である。
しかし彼らも住民達の抵抗に怒りを露わにする。彼らにとっては住民達は食料以外の何者でもないからだ。
次第に増えつつある魔族は、元々は意思統一の下で集団行動をとることは滅多にない。しかし何百年かに一度、魔族の数がとてつもなく増える時があり、そんな時に自ずと集団を組み、住民達に襲い掛かる。
そこで魔族と世界の戦争が起きる。
決して分かり合うことがなく、接点のない両者。
だがごく稀に奇妙な存在も現れる。
魔族側からの一方的な暴虐の結果、魔族と住民の間に子供が出来ることもある。
住民が母親の立場になると、生まれてくる子供はどんな種族であろうとも、必ず全身が青い皮膚に覆われている。
その子供達は混族と呼ばれ、生まれた直後に処分される運命にある。
しかしそんな数少ないケースでも処分が見逃されることもあった。
住民達とは違い、生まれ持った奇異な能力を有しており、成長するに従いその力も如実に表れる。
その能力を恐れる住民達は、赤子の手をひねるように処分するという訳にはいかない。
その者達にはそんな意識は全くないようだが、住民達は逆に返り討ちに遭い命を落とすと思われていた。
だからせいぜい迫害や追放、爪はじきなどで彼らを遠ざける。
心も体も追い詰められた混族はやがて生命力も衰えていく。自分の青の宿命を呪いながら自然の中でその屍を晒すこととなる。
この魔族の力は相当高く、兵士や冒険者の力量を越える者も大勢いる。
この世界の住民の人口が次第に減っていく。
世界が滅亡してしまうかもしれないと思われる事態となるのだが、どこからともなく世界を救わんとする存在がいずこから現れ、魔族を次々と討伐していく。
世界が救われたと思われる辺りで、彼らはいずこへと消え去る。
何百年ごとに起きるこの世界のそんな危機。その度毎に一斉に現れ、目的を果たしてから立ち去る救世主たち。
この世界の国々は、忌まわしい存在であるはずの彼らを畏敬の思いを込めてこう呼んだ。
青の一族 と。
なぜそんな一族が生まれたのかは、この国の皇族の一部の者しか知らない。
その一族の直系にしか言い伝わっていない伝説。
しかし何万年も経った今でも、その伝説が裏切られる事態に陥ったことはない。
これは、その伝説の始まりの物語である。
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