第28話

 さっきのがメインストリートなのか、かなり大きな市場のようだ。食べ物から生活用品まで、色んな種類の屋台が並んでいる。

 さて、どこから聞き込もうか?

「姉ちゃん、さっき手押し車引いてた姉ちゃんだろ?喉渇いただろ?新鮮なフルーツはどうだい?」

 赤ら顔の獸人が声をかけてきた。果物屋なのか、屋台には色んな種類のフルーツがギッシリ詰め込まれている。

「これ、どうやって食べるの?」

 刺々のついたフルーツを指差す。

「こいつかい?これは皮をむくのさ。ほら、試食があるから食べてごらん。」

 大きな葉っぱの上に切られたフルーツが乗せてあり、食べてみろと目の前に出された。

 一口頬張ると、甘さの奥にわずかに酸味があり、後味が凄く良かった。

「美味しい!」

 果物屋の店主は、ニカッと笑うと、色んなフルーツを切って出してきた。

「だろ?!うちのは新鮮なんだ。ほら、こっちも食べてみてくれ。」

「そんなに…。そうだ、熱出した病人がいるんだけど、なにかいい果物あるかしら?」

「熱ね、熱のときはこれだよ。ちょっとすっぱいから、砂糖と一緒に煮て、飲ませるといいよ。皮は、干してから煎ると熱冷ましの薬になるんだ。」

「これで買えるだけちょうだい。」

 あたしが金貨をだすと、店主は手を振った。

「こんなにあったら、屋台の果物ほとんど買えちまうよ。釣り、釣り銭あるかな?」

 布袋いっぱいの銅貨を渡された。

「これっきゃないんだ。そうだ、姉ちゃん、あんた住まいはどこだい?代金分の果物、毎朝届けてやるよ。」

「しばらくはサラの宿屋にいるわ。そこ入ったとこの赤い屋根の宿屋よ。」

「わかった。俺は果物屋のガッシュだ。この市場の元締めやってる。入り用のものがあったら言ってくれ。だいたい調達できるだろう。」

「元締めってことは顔広いわよね?」

「まあ、この市場の中ならな。」

「じゃあ、ユウっていう人間知らないかしら?黒髪黒い目で、男の子だけど女の子みたいに可愛いの。年はたぶんあたしくらい…もしかしたら年とってしまっているかもしれないけど。」

 ユウの写真を見せた。

「凄い精密な絵だな。本物みたいだ。この子を探しているのかい?」

「青木ユウっていうの。彼を知っている人でもいいの。」

「…わかった。俺は知らないが、市場のもんに声かけてみるよ。人間なんて珍しいから、噂でも聞いたことないか聞いてみりゃいいんだろ?」

「お願いします!」

 あたしは頭をおもいっきり下げた。

「おう、任せとけ!そうだ、市場はあと二つ大きいのがあるんだ。この市場はザイール国のもんばっかで中の市場。ライオネル国とアインジャ国の奴らが仕切ってる西の市場と東の市場が、それぞれ西通りと東通りにある。そっちにも声かけみるといい。」

「ありがとう!行ってみる。」

「ちょい待ちな。」

 再度頭を下げて走りだそうとしたあたしに、ガッシュはなにやら紙に走り書きをして渡したきた。

「西の市場は加治屋のマオだ、東の市場は髪飾り屋のワカ。彼らがそれぞれの市場の元締めだから、話しを通すといいよ。こいつは俺からよろしく書いといたから、渡すと話しが早いかもしれない。」

 あたしは紙を受けとると、ガッシュにバグした。

「重ね重ねありがとう!マオとワカね。訪ねてみるわ。」

 ガッシュは赤ら顔をさらに赤くしながらも、まんざらでもないようにへらへら笑うと、果物を詰めた袋を指し、後で届けるよと言って手を振った。

 

 あたしは、ガッシュに教わった通り、西の市場と東の市場へ行き、マオとワカを訪ねた。ユウのことを聞くと、二人とも知らないとのことだったが、仲間に聞いてみると約束してくれた。

 とりあえず、自分でも東の市場を中心に聞いて回った。

 ライオネル国はあまり人間が流れてこないと言っていたし、ザイールの役所にもユウらしき人間の情報がないから、アインジャ国が一番可能性が高いかなと思ったからだ。

 

 夕方まで聞いて回ったが、有望な情報は得られず、疲れきった足でサラの宿屋へ戻った。

「ただいまー。」

 入り口を入ってすぐ、食堂になっており、飲み物を飲んでいるポーとホランが座っていた。その横にはサラがお盆片手に立っている。

「お帰りなさい。今、食事用意しますね。」

 サラが厨房に引っ込む。

「これ、花梨姉さんが買ってくれたんだろ?果物屋さんが届けてくれたんだ。身体が凄く温まるよ。」

 ポーが飲んでいるのは、ガッシュが持ってきた果物を煮たものみたいだった。ホランは、お酒…たぶんエールを呑んでいるようだ。すでにかなり呑んできているようだが、顔色はさっぱり変わっていない。ただ、酒の匂いは凄くするけど。

「中の市場と東西の市場を聞いて回ったけど、収穫なしだったわ。」

「俺は酒場を何ヵ所かと、賭場に声かけたが、ユウって人間を知ってる奴はいなかったな。なんでも、ライオネル国との境の砂漠に、最近妖魔が住み着いたみたいだって話しで持ちきりだったな。」

「妖魔って?」

「化け物だよ。獸人を食うんだ。あと、竜巻が大量発生してるとか。妖魔と竜巻のせいで、ライオネルとの貿易が滞っちまって、かなりな損害がでてるって話しだ。」

「それ、僕も聞いた。少し前だけど、誘拐した子供達をライオネルの貴族に売ろうとしたんだけど、砂漠は妖魔がいるから通れないって。少し遠回りして海沿いをいかないと駄目で、運搬に費用がかかるって言われた。最近、ライオネル国に妖魔が増えているって噂もあったよ。」

 荷物の運搬の話しのように、さらっと話すポーだ。

 通常穏やかで、人が良さそうに見えるから忘れてしまいがちだけど、そういう黒い一面もある奴だったっけ。


 ホランとあたしには、かなり心を開いてくれたと思っているけど、実際はどうなんだろう?

 

 あたしは、ジーッとポーを見つめた。

「どうしたの?」

「いや、別に。ところで、あんた熱は下がったの?」

 ポーが、心から自分のしたことを悔いるのは、ままだ先のことかもしれない。色んな人と関わって、初めて気がつくこともあるだろう。

 あたしは、ポーの話しに深く突っ込むことはせず、さりげなく話しを変えた。

「もうかなりいいよ。花梨姉さんの果物のおかげかな。」

 そこへ、サラが夕飯を運んできてくれ、あたし達は食事を食べ始めた。

 サラはかなりの料理上手みたいで、食材はごくありふれた物だったが、一手間かかった物ばかりで、久しぶりに食事を食べたという満腹感に満たされた。

 また明日からも頑張れそうだ。


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