野球と彼女@大阪編

青獅子

交流戦

2018年4月、俺は父親の転勤のため大阪の高校に転校した。突然の転校で、広島の友達とは急に別れることになったが、新しい学校にもようやく慣れた気がする。




そして6月。俺は京セラドーム大阪にいた。京セラドームを訪れるのは初めて。俺自身は広島出身ということもあって、熱烈なカープファンだ。今年こそは日本一になってくれると信じている。そして、この日はオリックス対広島戦を観戦。そう、今は交流戦の真っ只中なのだ。




・・・しかし俺が座った席はライトの上段外野席。理由は単純。この日、そこしかチケットがなかったのと、高校生でお金がなかったためだ。三塁側・レフトはカープファンの熱気で赤く燃え上がっているが、一塁側は寂しい。それでも俺は高校の制服から赤いユニフォームを着込み、赤いメガホンを両手に持って声を上げる!




「ったく、広島ファンってなーんでいっつもホーム側に座ってんのよ。ここ、オリックスの応援席やで?」




カープの攻撃中、後ろの席に座っていた女の子が俺に声をあげてきた。こっちは声を出して応援しているんだぞ。歳は高校生くらい。俺からすれば同じくらいか。制服にユニフォームを着込んでいるようだ。ちなみに着ているユニフォームは金子千尋。身長は150cm台半ばで、肩甲骨のあたりまであり、綺麗に整えられた黒髪と眼鏡姿が特徴の美少女だ。




「下の応援席じゃねぇからそれくらい我慢しろ!」




カープの攻撃が終わると、俺はその少女にこう言葉を返した。そして、




「球団は他球団のパクリグッズ作るわ、ファンは我が物顔で一塁側やライトスタンドに座るわ、ほんまこのチーム大嫌いやわ」




試合中、その少女の愚痴が止まることはなかった。しかも俺に向けて言っているような気がするし。でも彼女はバファローズの攻撃中、誰よりも大声を上げて応援している。で、試合はカープが残念ながら敗れた。福井が踏ん張れなかったのがなぁ・・・俺はカープが負けたせいか、傷心の気持ちで帰路につく一方、彼女はバファローズの勝ちを誰よりも喜んでいた。そして、お互い同じ地下鉄に乗り込んだ。




「あんた、どこで降りるん?」


京橋きょうばし


「最悪。一緒や」


「悪かったな。ところで君は高校生?」


「うん。都島東みやこじまひがし高校」


「一緒や」


「げっ、マジなん?最悪や」




地下鉄に乗ることおよそ20分。その間、2人で自分のことについて話していた。あ、でも名前とクラス聞いてなかったな。まあいいや。そして京橋きょうばし駅に着き、彼女は「ウチ、あっち側に住んでるから」といい別れた。そして程なくして、俺は自宅マンションにたどり着いた。




翌日、俺はクラスメイト・川端誠治かわばたせいじに昨日の話を振った。ちなみにこいつは熱狂的阪神ファン。平日だろうと甲子園に行く筋金入りのトラキチだ。




「あいつか。桂木陽菜かつらぎひな。3組の」


「わかった。昼休みあいつに会いに行く」


「そうか、気ぃつけてな」


「はいはい」




昼休み。食事を済ませると、俺は3組の教室に行った。すると例の彼女・桂木陽菜かつらぎひなが先に俺に話をかけてきた。




「あんた、昨日の広島ファン!」


「おっす。桂木」


「何でウチの名前知ってんのよ。まさかあんた、ウチのストーカーなん?」


「違うわ!クラスメイトから名前聞いただけだ」


「あっ、そうですかー」


「流すんかい!」




で、結局桂木とはお互い自己紹介した。あいつとは色々話せそうだ。




「改めて自己紹介するわ。ウチ、桂木陽菜かつらぎひな


「俺は上田雄一うえだゆういち。親父の転勤で広島からこっち来たんだわ」


「ほう、そうなんや。じゃあ、改めてよろしくな。広島人!」


「ああ。俺こそよろしく、関西人!」




この日も桂木とは京セラドームでかち合った。そして翌日もかち合い、カープが3タテされたため、贔屓の3連敗に涙目となった俺が、桂木に食事をおごらされたのは言うまでもない。

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