アヤカシ喰い依子さんの非常食
ここは拙作「アヤカシ喰い依子さんの非常食」の解説とか、裏話をぶっちゃけます。
多分にネタバレを含みますので、本作を読み進めていらっしゃる方、もしくはこれから読もうと思っている方は後で読んだほうが楽しめるかもしれません。
既に読み終えた方はもちろん、途中でもネタバレオッケー!という方はどうぞご覧くださいまし。
事の発端は何気ない夫婦の会話からでした。
嫁「SFとかファンタジーの設定考えるのはいいんだけどさー。もっと大事なものがあるでしょう。それに気を使ったらどうなの」
僕「ほう、言うではないか。申してみよ」
嫁「偉そうだなおい。まぁ言ってみれば、恋愛?」
僕「れんあい」
嫁「そう。古今東西の誰もが興味を持ち、何千年も前から物語にされてるのが男女の営みじゃん。現代だってそこは変わらないって」
僕「むう」
嫁「そういうさ、胸が苦しくなるようなキュンキュンするラブストーリーが貴様に書けるのか?」
僕「できらぁ!」
そんなわけで作り上げたのが「アヤカシ喰い依子さんの非常食」でした。
有言実行できたと思います。焦れったくて時にすれ違いながらも深まる二人の甘く切ないらぶ……らぶ、すとーりー? 的ななにかが!
正直、レーダーチャートで表すと恋愛とかギャグとかよりもデンジャラスがばびゅーんとぶっ飛んでる作品になっておりますし、第一話をご覧になった方はラブストーリー?と首を傾げられること受け合いの本作ではございますが、これも一つの恋愛の形、ということでなんとかご納得いただければ喜ばしい限りです。
さて解説など。
本作は当初、第一部のみで完結する予定でした。途中で第二部に続くことになったのですが、まずは第一部について。
テーマは「究極の共依存」。
共依存とは「愛情という名の支配」ともいわれ、「相手から依存されることに無意識のうちに自己の存在価値を見出し、そして相手をコントロールし自分の望む行動を取らせる状態」を指します。
甲斐甲斐しく世話して面倒をみて依存させ、相手の心身を自分のモノにするってことですねー。「あの人は私がいないと生きていけないの」という台詞がたぶん一番正鵠を射ているでしょう。
読んで分かる通りこれは心の病です。真似しちゃ駄目です。
ただ、好きな人を繋ぎ止めておきたい、という切実な想いは多かれ少なかれ誰もが持っているものだと思います。その方法の一つとして、愛情を与える、というのは束縛にもなるし救いにもなる。難しい反面、書き甲斐のあるテーマでもある。なのでこの愛情による支配というものを取り上げて考えてみることにしました。
既にラブストーリーから脱線気味? ハハッキニシナイ。
で、どうせ共依存を取り上げるならと、究極の形はどんなものか考えてみる。
おそらくそれは「自分の全てを捧げること」。文字通り肉体すらも相手を繋ぎ止める手段にしてしまうことではないか、と思いました。
快楽目的ではなく、相手が自分の肉体に執着する理由は、もう生命に関係することしかない。
つまり「食べなければ生きていけない」。
この「自分がいないとあの人は生きていけない」という関係を元に生まれたのが、本作主人公のたーくんと依子さんでした。
当初は「冬の山に住まう鬼と、鬼を食わなければ死んでしまう巫女」という筋書きを考えていましたがあまりにも文学的になるのでボツ。
もう少し現代よりにして、主人公も鬼ではなく半妖にして、孤独な青年にします。
次にヒロイン。この子が主人公に依存するわけですが、それだけじゃ面白くない。
むしろ主人公も彼女に依存して「両者それぞれ互いがいないと生きていけない」くらいの激重関係にしてやると面白いのでは?と閃く。
そして生まれたのが依子さんでした。
彼女は主人公太一のことをたーくんと呼び、彼の事情や感情などお構いなしに振り回し、あまつさえ彼の命すら握ってしまう。あまりにも凄まじい、というか破綻している性格と行動力の持ち主です。
依子さんに支配されたたーくんは、彼女のご機嫌を取らないとあっという間に殺されてしまうし、何ならいつの日か「非常食」として食われてしまうかもしれない。
明日をもしれぬ身のたーくんは、一方でこうも思うわけです。
「こんなに必要とされたことはなかった」と。嬉しいかもしれないと。
何言ってんだおめーばりの変態的な感覚ですねハイ。
ただ天涯孤独で愛情に飢えていた青年は、依子さんという少女が向けてくる一方的で偏執的な愛情と、太一の全てを求めてくる底なしの渇望にくらっときてしまうわけです。
依子さんも同じく、理由があってひたすら愛情を求めている。
いつ死ぬともわからない日々の中、まともな恋愛はできず、さらに言えば普通の人間とどこか違うせいで満足もできそうにない。焦りと飢えばかり募る。
だから支配できる男が必要であり、求めれば必ず応えてくれる男を欲したわけです。半妖だったから非常食にもできるし、というのはまぁ建前というか、本音では歪んだ性癖もあったんだろうとは思いますが、これはどうなんでしょうね。内緒です。
そういうわけで依子さんの原型ができました。内面に凄まじい獣を秘めた女子高生。表向きはクールながら、己の歪んだ愛情をぶつけられる相手を探している肉食女子として、ヒロインは姿を表しました。
あとは好き勝手やらせました。
互いの利益や保身で保たれていた関係に別の感情が足され、やがて互いの存在が心から必要になってしまう。自分の身を犠牲にしてでも相手を守ろうとしてしまう。そういう変化が起こって帰結するのが第一部の予定でした。
でも誤算があったんですけどね。依子さんのキャラクターからして、当初考えていた選択肢を選ぶはずがないと思ってしまったんです。
これが第二部を生み出すきっかけになってしまいました。
ネタバレですが、第一部の終わりは二人で逃亡した後、物語内で出てくる解決方法によって普通の人間に戻り、ひっそりと暮らす、というものでした。
しかし依子さんはもう依子さんとして確立したキャラクターになっていました。彼女らしくない行動はさせられません。
というわけで、第二部を捻り出すことに……!
さてここから第二部の解説。
一部で終わりとはいえ、続編があったらこんな感じかなーという妄想を考えていました。二部開始に合わせてそれら妄想と、一部で明示しなかった当初の設定や伏線などを混ぜ込み、依子さん救出劇を開始します。
テーマは「幸せのかたちとは?」。
組織に属し人間の味方をする依子さんと、半妖とはいえアヤカシ側に肩入れするたーくん。二人が結ばれるには障害も多く、また乗り越えた先にも周囲の理解は得られない。それでも二人はやっぱりくっつきたい。自分勝手だとしても、好きな人と結ばれたい。そういう欲望を貫き通す話になっています。
現実でもそうですが、男女関係で障害になるのは親族だったり人種だったり常識だったり仕事だったり、色々自分たちとは別の要因がありますよねー。
迷惑をかけるくらいなら、と別れる人達もいれば、そんなの関係ない、と強引に結ばれる人達もいます。
どちらがいいのか? そんなのはわかりません。当人たちが決めることです。
だから何が幸せなのかというのも、当人が決めることで、誰かが口出しできる話ではないと思っています。
もちろんエゴとか自分の都合で誰かを傷つけたり悲しませたりすることもあるはず。
本作でも、依子さんとたーくんは大勢の人やアヤカシに迷惑かけたりしています。
が、そもそも祝福されたいために恋人になるわけじゃありません。彼(彼女)しかいないし諦められないから、周囲を顧みず突っ走っています。
物語としては、負の側面ばかり残さずハッピーエンドに終わらせることを心がけていまして、太一らは幸せを手にしていました。ただやっぱり、人を好きになることには危うさと脆さもあり、そして尊さもあるので、そこは無視しないように書きました。
恋愛に正解はないので、まぁこういう恋愛模様もあるし僕は好きだよ、っていう作者の気持ちです。
読者の方には、色んな捉え方をしてもらえれば幸いです。
またテーマをわかりやすくするため棗というアヤカシと宗吾という男を出しました。
それぞれが太一、依子を誘惑する役割です。そちらを選べば望んでいた境遇や環境、立場を手に入れられるのですが、さて二人はどうするのか?
たーくんはアヤカシの仲間になれる。依子さんは平穏な余生を過ごすことができる。
悪い条件ではない。でもそれで幸せになれるかどうかといえば、やっぱり違うような気がします。
いい大学出て大企業に入ったって幸せかどうかは本人次第ですもんね~。
彼らが選んだのは、好きな人と生きることでした。
っていうか依子さんは迷う素振りすら見せませんでしたね、さすが。
棗さんと宗吾君には損な役回りをさせてしまって申し訳ない。
特に棗さん。彼女にはなんとか幸せになってもらいたい。具体的にはゲーマーのショタ(人間)とくっついてラブラブして欲しい(そういうスピンオフ書きたいけどどうなんでしょう?)。
テーマ以外では細かな設定とか伏線とか、明かされていないことはたくさんあるのですが、あくまでたーくん視点で語っていて重要でない部分は省きました。
たとえばアヤカシの分類や特性とか、組織の内情とか、陰陽師の力が引き継がれていかない原因とか、たーくんの母桔梗の目的と父親の正体とかとか。
ほんのり妄想を掻き立てるくらいで制御しておりますので、ここでは伏せておきます。でも質問あればお答えしますね。
本編はあくまで「半妖の青年と、戦う少女が結ばれるまでの物語」として書いていますので、キリがいいところで完結とさせていただきました。
第二部終わりからの空白の五年間のうち、二人きりの生活はどこかのタイミングで書こうとは思っています。キャンピングカーで各地を放浪しつつ、祓い屋として人とアヤカシの騒動を解決していく感じです。
それ以後は機会があれば。
長々と書きましたが、アヤカシ喰い依子さんの非常食をご高覧いただき大変ありがとうございました。皆様の記憶のどこかにたーくんと依子さんが残っていれば、とても嬉しいです。ではでは。
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