最後の夏

@lost_nd_xxx

最後の夏になるとは、思いもしなかった

 最後の夏になるとは、思いもしなかった。

 言いたいことを言うのは難しい。自分が何を言いたいのか、それもわからないのに。

「久馬さんってさ」

 いつもの保健室、窓から斜めに茜の光条が差すころ。

 教師はおらず、久馬さんはベッドに座って本を読んでいて、ボクは椅子から外の空を見ている。

「ボクのことなんだと思ってるの」

「逾夜さん、って以外のどういう答えがあるのかな、それ」

 久馬さんは本に目を落としたまま。つまり単刀直入に言えと。

「久馬さんは、家に帰りたくないがために、ボクを利用してるんでしょう? 知ってるんですからね」

「藪から棒に。知ってるって、何を?」

 ようやくこちらを見てくれる。動揺した様子もなく。久馬さんはいつも通り。

「先生に、ボクと友達になってくれ、って言われてましたよね」

「他人がどう言ったかで人間関係変えるタイプだっけ、逾夜さん」

 いいえ、とボクは首を横に振る。

「それだけじゃ俺にはわからないよ」

「可哀想なボクと友達になる、っていう口実を、部活もなしにここに居座る大義名分にしてるでしょう、って話ですよ」

「……そうだとして、それが何か?」

 首を傾げ、久馬さんは問うた。

「何かって、」

「その大義名分は逾夜さんへのものではないし、そういう人間が嫌なら逾夜さんは俺を見限ればいいんだよ」

「……それは、ずるいですよ」

「何か問題でも?」

「フェアじゃない、って言ってるんです」

「お互い様、じゃない?」

 それは、ボクの見る世界の醜さの話をしているのか、と言いかけてやめる。

 トートロジーだ。

 あなたは醜い、ボクの見るすべては醜い。ボク自身を含めて。

「……ボクが、どれだけ久馬さんを好きか、知らないでしょう」

「他に選択肢がないのは薄々」

 そういうのでなく。本当に。

 ボクにはもう、きっと、あなたしかいない。


end


2017年1月6日

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最後の夏 @lost_nd_xxx

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ