FFE ~少女たちの信念~

向風歩夢

第1話カキ、ベル、リン、そしてカセン

 彼女は生まれながらにして「死の運命」を背負っていた。

 彼女は人々の平穏な暮らしのために特殊な能力を与えられて生まれてきたのだ。

 その特殊能力を使う最大のデメリット、それは使用したが最後、死んでしまうのだ。だが、彼女はそのことに不満を持ったりしてはいなかった。むしろ、人々のために、その身を捧げられるなら、それに勝る喜びはないと感じていた。



「カッキー! おはよう!」


 黒髪のポニーテールに、黄色の髪飾り、そして、燃えるように赤い作業服を腕まくりして身に着けている少女が一人……。彼女はあだ名を呼ばれて振り返る。そこには、彼女の親友が笑顔で手を振っていた。


「ベルちゃん! おはよう!」


 親友の名はベルというらしい。茶髪のショートカットで毛先が少し外にはねていて、おとなしそうな外見に似合わない活発そうな声を出している。


「最近どう? 指令部隊の方は……」

「全然、暇だよー。ていうか忙しかったら困るよ。カッキーの方も暇でしょ?」


 彼女たちは互いに自分達の近況報告をしていた。彼女たちは同じ組織「FFE」に在籍している同僚だ。といっても、部署が異なる。彼女……カッキーは実働部隊に所属する。それに対してベルは指令部隊に所属する職員になる。


「今日も二人そろって出勤か。仲の良いことだな」

「リンさん! おはようございます!」


 カッキーが礼儀正しく、挨拶をする。ベルは静かに頭を下げる。リンは実働部隊の所属でカッキーの上司にあたる。身長の高いモデル体型で凛とした顔つきをしている女性だ。リンの攻撃範囲の広さは実働部隊トップでカッキーもその能力の高さに目を奪われた一人だった。いつか、この人のようになりたいと願ったこともあった。しかし、生まれながらに授かった特殊能力が変わることはない……。彼女らの役割は変わらず、カッキーがリンのようになることは絶対にないのだ。


「良い挨拶だ! 我々の仕事はいつ出番がくるかわからない! 普段から点検を怠るな! カキ!」


 カッキーこと、カキは力強く「はい!」と答えた。リンは満足そうな顔で去って行った。


「やっぱりかっこいいよねえ、リンさん」

「うん、私の尊敬する人だからね。あーあ、私もリンさんみたいになれないかなあ……」

「あっはは! 無理に決まってるじゃん!」


 明らかにカキのことを馬鹿にするトーンで話しかける少女が一人。カキは不機嫌そうに反応する。


「なによ、カセン!」

「だって、おかしくって。実働部隊最弱のアンタがリンさんみたいになりたい、だなんて」

「なによ! 憧れるぐらい良いでしょ!?」


 カセンと呼ばれたツリ目の金髪ツインテールの少女もまた、実働部隊の一人である。攻撃範囲こそリンには及ばないが、射程距離はリンをも凌ぐ。なぜか、この少女はカキのことを嫌っており、事あるごとにカキに嫌みを言っていた。


「ま、精々死なないように、何も起こらないことを祈っておくことねー。一回限りの最弱さん」


 もうひとつ、嫌みを言ったカセンは自分の持ち場に戻って行った。


「なんなの、あいつ。いつもいつも馬鹿にして。ムカつくわね」


 カキが怒りをあらわにしていたが、ベルはカキの腕を押さえて「まあまあ」となだめる。


「駄目だよ、カッキー。カセンちゃんは先輩なんだから。呼び捨てなんかしたら」

「先輩って言っても私達より年下じゃない! この部署に所属したのが早かっただけでしょ? 私のなにが気に食わないのかしらないけど……最低限の礼儀ができないやつに敬語を使う必要なし!」


 ベルのなだめる行為に同調しようという思いはカキにはない。怒りにまかせて大声で話してしまう。カキも大概に頑固者のようだ。


「もう! カッキーも少し大人にならなきゃだめだよ!」


 ベルはカキに対してまるで自分の子供に叱るように話す。少し頬を膨らませ、眉を吊り上げるベルを見て、カキも少し冷静になったようだ。


「ご、ごめん。でも、やっぱりムカつくもん!」

「なんで、カセンちゃんはあんなにカッキーにきついんだろうね……」

「知らないわよ。まともに話したこともないのに……」


 そう、カキに心当たりなどなかった。実働部隊に所属した初日に挨拶をした後、すぐさま、公然と嫌みを言われ始めたのだ。挨拶が気に食わなかったのかもしれないが、理不尽にも程がある。


「じゃ、ここでお別れだね。今日も頑張ろう!」

 ベルの言葉にカキは「うん、それじゃ、また」と挨拶し、自分の持ち場に向かっていった。

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