旅立ちの日

アイツはいつも、私の一歩手前を歩いていた。高校時代の全国模試も、大学の首席争いも、会社に入ってからの売り上げ競争も。私はいつでもアイツに負けた。


悔しいと涙を流す私の頭を撫でながら、アイツはいつもこう言った。

「お前はいつも俺に負けてるって言うけど、俺の方が負けっぱなしだよ」

微笑むアイツの優しさが、心の底から憎かった。アイツは私にとって、越えるべき対象でしか無かったのだ。




それなのに、どうして。

「どうして……っ」

零れ落ちた涙が頬を伝い、真っ白なアイツの瞼に落ちる。



"人を愛せる喜びと悲しみを、人は一体いつの間に学ぶのだろうか。"


少なくとも私は今この瞬間、であったのだろう。アイツは今日、とうとう私の届かないほと遠い場所まで行ってしまった。


大切なものは失ってから気づくもの。誰かが言ったそんな言葉が、ひどく胸を締め付けた。


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