第21話

12月

夕食の後、美香が嬉しそうに何か持ってくる


「お母さん、少し早いけど、クリスマスプレゼント」


「美香、これは?」


「たまには、ゆっくりして来てよ」

旅行のチケットを渡された


「1人で行くの?美香は?」


「お母さん、私には隼斗がいるのよー」


「あっ、そうよね。でも...」


「私のプレゼントなんだから、行ってきなよー」


「そうだよね。せっかくの美香の気持ち。有難く頂戴するね」


「うんっ」



イヴの夜

空港に降り立つと、雪が深々と降り積もっていた。

美香が予約してくれたホテルは目映いほどのクリスマスイルミネーションが飾られ、とっても素敵なところだった


(クリスマスに1人でこんなところ、ちょっと淋しいなぁ)


フロントにチェックインの手続きに行くと…

「藤咲様、本日2名様、ご1泊でご予約承っております」


「いえ、何かの間違いです。私1人ですが…」


「間違いありません。

先程、お連れの方、お着きになられましたが、お客様がまだ来られていないということで、しばらく、雪景色を見てきますとお出かけになられました。

あっ、戻ってらっしゃいました」




「嘘??祐太??」



真っ直ぐに近付いてきた男性は紛れもなく彼だった


「薫」


懐かしい声

愛しい声

大好きな声


「どうして?どうしてなの?

私…夢を見てるの?」


「夢なんかじゃないよ」


「だって…」


震える身体を彼の大きな胸に抱きとめられた



「薫…ずっと、会いたかった」



私の首元に顔を埋めている彼も泣いているようだった


「祐太、ほんとに祐太なの?」


腕を緩めて微笑んだ彼

10年もの歳月が流れたと思えないほど変わらない笑顔だった


「ハハハ、そうだよ。ほんものだよ。

美香ちゃんが俺達にクリスマスプレゼントをくれたんだ」


「信じられない」



私は祐太からことのいきさつを聞いた


美香が彼をずっと、探していたこと、

祐太の友達と美香が私達を会わせてくれたこと

そして、この10年間のこと



「薫、遠回りしたけど、やっぱり、また巡り会えただろ」


「祐太…幸せになってって、言ったのに…」


「俺は薫とじゃないと幸せになれないんだよ。もう、俺のこと忘れてた?」


「そうねぇー、忘れてた…かな」


「あっそ、じゃあ、その指輪捨ててくれよな」


「ごめん、嘘です」


真っ赤になって、俯く彼女の手を引いてエレベーターに乗った


「ちょっ、ちょっと、何処行くの?」


「早く2人っきりになりたいだろ」


「もう、祐太…変わらないね」


「薫もな」


「そうかなぁ、私、老けちゃったでしょ?恥ずかしい」


「じゃ、確かめさせて」



部屋に入るなり、彼女の唇を塞ぎ、息をつく間もないほど求めた


思いを確かめるように

言葉を交わすように

大切に抱き合った


薫が手を伸ばして昔のように手を握ろうとする。

俺はそれを遮るようにきつく抱きしめた


「もう、何も心配しなくていい。

絶対、離さないから」


彼女は返事の代わりに背中にしっかり手を回した




いつも、さよならする時間が近付くと不安になって、彼の手をギュッとしてた。

…けどこれからはずっと一緒なんだね。


もう少し…と願わなくてもいいんだね


強引で、優しくて、あったかい

全然変わってない


彼の温もりに包まれながら、眠りについた。

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