第10話 ゼノン

 天志はリンがゼノンと呼んだ男が去ってからも、そこから動けないでいた。


 しばらくすると天志の呼吸も大分落ち着いてきた。

 何だったんだよ今のは、恐怖が形を持ってるみたいだった、あれが見たら死んでるってレベルの化け物か?動けなかった、呼吸すらできなかった、本当に何もできなかった。


「テンテン大丈夫?」

 あの気にあてられて恐怖を知ってしまったら、もう戦えないかもしれない。


「バカ全然大丈夫じゃねぇよ、なんだよあの化け物は?」


「今のはゼノン、このグリーフから北へ行くと氷の地ヒエリアになるんだけど、ヒエリアを北東に行ったところに魔の地デストがあるんだ、ヒエリアの国土の4分の1くらいがデストだと思ってくれればいいよ、ゼノンはそこの双子の王子様だね、双子のお兄ちゃん」


「王子様とかお兄ちゃんとか、そんなかわいらしいものじゃねぇだろ、あんなもの恐怖でしかねぇわ、どっかに閉じ込めとけ恐くて外にも出れねぇわ」


 やっぱり恐いよね。

「もし、テンテンあいつと戦ってって言ったらどうする?」


「ハイ無理です」


「だよねっ、普通無理だよね」

 無理なお願いだってわかってる、わかってるけど。


「でもよー、ゼノンって言ったっけ、あいつと戦えるくらいの力があったら楽しそうだよな、何つーのあの圧倒的な感じ、俺つえー系な、そうなったら楽しいだろうな」


「ふふっ、面白いねテンテンはゼノン見て恐くなかったの?」


「だからコエーって言ってるだろ、何聞いてんだよお前は、耳ついてんのか?それとリンお前初めて笑ったな、笑ってた方がお前は綺麗な気がするぞ、猫だけど」


「え!そんなことないよっ、リンはいつもニコニコしてるよ」

 テンテンはそんなとこ見てたのか、自分でも笑ってなかったなんて気づかなかったよ、焦ってたのかな

リンの未来の旦那はよくリンのことを見てくれてるんだな、何か初めて男の人を好きになりそうだよ。


「笑ってねぇよ、それに猫がニコニコしてたってわからねぇよ」


「それもそうだね、ありがとねテンテン」


「何がだよ」


「ううん、何でもないよ」


「変な奴、それより腹減ったから戻るか、色々聞きてぇこともあるけど腹へって駄目だ、話は部屋に戻ってからにするか」


「うん、とりあえず帰ろっか、コダマンは・・テンテン」


「どした?」


「コダマン寝ながら気失ってるみたい」


「マジかよ、スゲーなこいつ」


「でも、ゼノンを直に見なくて良かったかもね」


「それもそうだな、あんなもんトラウマもんだからな」


「ふふっ、そうだね」


「仕方ねぇおぶって帰るか」


「疲れてるとこ悪いけどもうちょっと頑張ってね」


「だから疲れてねぇって言ってんだろ、腹減ってるだけだ、よし帰るぞ」


「うん」


 天志達はハパールの町に戻り、ヤドリギで食事を済ませて自室に戻った。

 帰りの道中リンと話してわかったことだが、ヤドリギの女将さんがフレンドリーになったのは、リンが天志の年齢を教えたからみたいだ、年を知った女将さんは、「そんなに若いの!なら私の子供でもおかしくないわね」と言っていたらしい、それで女将さんは俺のことを近所の子供的な感じで、接してくれてるみたいだ。

 客は客だと思う人もいるだろうが、俺はその方がありがたい、何か自分の家のようで落ち着くさっきもヤドリギについたら「おかえり、怪我とかしてないかい」と優しく声を掛けてくれた。


 ちなみに、新しく樹神が仲間に加わったので部屋を移動してもらった、今は207号室の二人部屋だ。 樹神は気を失っていたがヤドリギの近くで目を覚まし、アクマンのおっぱいと一言言って今度は眠りについた、かなり器用だ。


「リン色々聞きてぇことあるんだけどいいか?」


「リンが話せることなら答えるよ」


「じゃあ単刀直入に聞くけど、お前ってこの世界の何?」


「ホントに直球できたねテンテン、う~ん何って言われてもね~」


「んじゃ質問変えるわ、お前悪魔なんだろ?この世界を壊すのが目的なわけ?でそこに俺は力を貸せってこと?」


「リンは悪魔だよ、でもこの世界を壊すのが目的かって言うと、壊す気は全然ないよ、むしろ壊したくないと思ってる」


「なんだ壊さねぇのか、俺はそれでもいいと思ったんだけどな、じゃあイイモンのほうか」


「イイモン?」


「何、イイモンしらねぇの?漫画とかで正義はイイモン、悪はワルモンって使わなかったのか?」


「リンは知らないよ」


「そっか、まぁ別にいいんだけどよ、リンは悪魔だろ、悪魔って言ったらワルモンじゃん普通、お前と契約した時にそういう事させられるのかなって思ったわけ、俺は何でもイイモンよりワルモンの方が好きだったんだ、だから一度死んでるし、前はどうだったかしらねぇけど、ワルモンでもいいかと思ってよ、まぁ何が言いてぇかって言うと、俺はお前に全部やったんだからお前の好きに使えってこと、何か話がわかんねぇ方いっちまったな」


「ありがとねテンテン、リンがテンテンの言うイイモンかワルモンかわからないけど、やろうとしてることは間違ってないと思ってる、だからテンテン力を貸して、詳しいことは他の子達をみつけたら話すから」


「わかったよ、とにかく他の連中見つけねぇと話にならねぇってことだな」


「話すとすごーーーく長くなるからね、一度にすませちゃいたいの」


「はっ!自分が面倒くせぇだけかよ」


「へへっ」

 みんな集まったらちゃんと話すから、ちゃんと謝るから、もう少しまってテンテン。


「それじゃ今日は最後の質問な、ゼノンみたいな奴って他にもいるの?」


「うんいるよ」


「マジか・・・」





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