第6話 ナンパ師

「ふぁ~よく寝たな」


 天志は初めてだらけの一日に疲れていたのか、お昼前まで眠っていた。


 あれ、リンがいない、どこか隅で寝ているのかと見回してみたが姿がない。

 どこ行ったんだあいつ、まっ、どっか行ってもあいつの方が俺よりこの世界は詳しいんだから心配ねぇか、それより飯だ寝すぎて腹減った、一泊二食付きって朝晩だけとかあるよなきっと、最悪外で何か食べるか、それから修行だ。


「女将さんおはようございます」


「あら、今お目覚め?疲れてたのね」


「はい何か寝すぎちゃったみたいで、あの一泊二食付きって一日二食ってことじゃないですよね、やっぱり」


「いっぱい寝たからお腹空いたんでしょ?普通は朝晩なんだけど、残り物でよければ食べる?」


「すいませんお願いします」


「ちょっと待っててね」


「はい」

 何か昨日よりフレンドリーだな、その方が話しやすくて助かるけど。


「はい、おまたせ、いっぱい食べるのよ、天草さんは見たところ冒険者でしょ、食事も仕事みたいなものなんだから」


「冒険者って言っても駆け出しですけどね、それと天志でいいですよ、その方が俺も楽なんで」


「わかったわ、天志ちゃんね素敵な名前よね、祈りたくなるわ」


「どうも、でも祈ってもいいことないと思いますよ」


「いいのよ、祈りは捧げるものなんだから、それじゃ食べたらそのままにしといていいからね」


「はい、すいません、いただきます」


 女将さんは忙しそうに奥の方に入っていった。

 忙しいのに悪いことをしたなと思いながらいただきます。


 料理の方は、何魚かわからない焼き魚とサラダとお米とスープ、おいしくいただきました。

「ごちそうさまでしたっ」、と誰もいないが女将さんが入っていった方に向かって言うと奥の方から「は~い」と女将さんの返事があった。


 リンはいないがちょっと魔物でも狩りますか。

 そう思いながらヤドリギを出る。


「おねぇさんトレンディだね、コダマンといいとこ行かない?コダマンいいお砂場知ってるんだ、どぉ?」


「ごめんねボク、おねぇさん今日はちょっと忙しいのまた今度ね」


「ウンわかった、また今度ねばいば~い・・・・チッしっぱいか、今日もマリーに泊めてもらうか」


 なんだ?あのパンダのニット帽かぶってるお子ちゃまは、ナンパか?トレンディってのがもうダサくねぇか、かかわらないようにしねぇとな、そうじゃなくても寝坊して修行出来てねぇんだ。


「あ!お兄さん」


 ついてねぇなチクショウ


「ん?どうした?迷子か?」


「お兄さん昨日ギルドでにゃんこと一緒にいた人だよね」


「にゃんこ?ああ、リンか、そうだけどどぉした?」


「ねぇあのお話しするにゃんこ、コダマンにちょうだい」


「いきなりちょうだいって、誰かさんみてぇだな、ごめんな、何とかマン、あの猫はあげられねぇんだよ」


「え~なんでぇ?昨日彼女にギルドの方でカワイイ話す猫を見たって聞いて、急いでギルドまで行って陰から見てたんだ、でね一目惚れしたの、だからちょうだい」


「彼女、一目惚れ、マセガキだなお前」


「へへっ、コダマン、マセガキなんだっ」


 ちょうどその場にリンが帰ってきた。 


「「「あ!」」」


 二人と一匹の声がそろった。


「話すにゃんこだ」


「リンどこ行ってたんだよ」


「ちょっと情報収集だよテンテン、それにコダマンこの町にいたんだね」


「リンこのお子ちゃま知ってるのか?」


「にゃんこコダマン知ってるの?」


「テンテンこの子は樹神(コダマ)、リンの見つけた九人のうちの一人だよ、コダマン私だよアクマンだよ」


「え!アクマンなの?アクマンにゃんこに変身したの?」


 説明するのが難しいと思ったのか、それとも面倒臭いと思ったのかリンは樹神に話を合わせた。


「そう変身したんだよ、今はアクマンじゃなくてリンって言うんだよ」


「ふ~ん、リンか、アクマンの方がカッコいいのに」


「ごめんね、で、コダマンはラインでこのお兄ちゃん見つけたの?あ、このお兄ちゃんは天志君だよ、テンテンって呼んでね」


「らいん?なにそれ?コダマンはにゃんこ探してただけだよ、テンテンねっわかった」


「リンがあげた本読んでないの?もしかしてなくしちゃった?」


 樹神は背負っていたパンダのリュックから一冊の本を取り出した。


「なくしてないよ、ほらっ」


「コダマン持ってるじゃん、読まなかったの?」


「アクマンじゃなくって、リン、コダマン何歳だと思ってるの?6さいだよ、こんな難しいの読めるわけないじゃん」


「あ!・・・・・ごめーんコダマン、本当にごめんね、そうだよねっ読めないよねっ、リンも時間なくてあせっててそこまで気が付かなかったよ、ホントごめんね、ケガはない?大丈夫だった?」


 リンは自分の選んだ子達にガイドブックのような手作りの本を、一人づつ渡していたらしい。

 このエレクシアに一人で来ても慌てないように、迷わないように、まず何をすればいいのかを丁寧にまとめて渡したらしい、ただそれを樹神は読めなかった。

 樹神を見れば読めないことくらい想像できると思うがリンも相当あせっていたことがわかる。

 ちなみに俺はそのガイドブックを貰っていない、なんでだ。


「うん、コダマン強いからね、それにこの町のおんなが優しくしてくれたから全然大丈夫だよ」


「リンお前こんなちっこい子一人でここに飛ばしたの?やっぱ鬼だな、よし樹神これからは俺達と一緒だ仲良くやろうぜ」


「ホントごめんねぇ」「うん、悪いのいっぱい倒そうねテンテン」


 リンは本当にへこんでいたので少しかわいそうになった、もうこのことでからかうのはやめてやるか。 そして新しい仲間が一人、こんなに小さい子で大丈夫なのかと不安になるが、リンの選んだ子だ、子供じゃなく仲間としてやっていこう。


「ねぇコダマンまだスキルブック持ってないでしょ、今日はコダマンのギルド登録から始めよっか」


「リン、コダマンスキルブック持ってるよ、ほらっ」


「「!!」」


 スゲーなコダマン何者だよ!

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