うさぎと僕と。
大田口宇佐美
第1話 出会い
5月20日 朝6時30分
目覚ましが鳴る少し前に目が覚めてアラームを止める。
変わらない目覚め方。
布団から出るのを少しためらいながら、布団を律儀にたたむと洗面台へと向かう
この習慣も変わらない。今時ベットじゃないの?なんて女子によく言われるが、どうでもいいだろうそんな事と心で思いつつ笑顔で布団の方が安心するんだよと笑顔で応えるのだ。
優しいよね、うん。優しさの塊。黒糖みたいに甘い。なんか違う。
歯磨きをしながら台所に戻り小鍋に湯を沸かして適当にきのこを入れて弱火にして身支度を整えて、また台所に戻りふつふつとしてきたら火を止めて味噌をとき入る。
味噌は沸騰した中に入れると風味が落ちてしまうから必ず火を止めてから入れるのよと母から教わった方法を守り続けて早何十年…。
1kのマンション。バストイレ別、都市ガスタイプの北窓で2階に住んでいると言うと平凡さ。
初めまして。荒本亨太31歳独身です。
スーツに着替えて味噌汁だけの朝食でいつもと変わらない朝を過ごしています。
そう、変わらない毎日なのだ。
変わるのはなんだ?
カーテンを開けて窓から見上げる空だろうか。自分の心だろうか。
「今年で…いくつになるんだっけ?」
誕生日をたまに忘れるのは1人暮らしだからか友達が少ないからか自分に興味がないからか。誕生日を祝うという習慣は高校を卒業してから終わったっけ。
ふと、腕時計を見ると自分が決めた出勤時間10分前だった。味噌汁茶碗を片づけると部屋にある姿見鏡でスーツの身だしなみを整え髪型を整えビジネスリュックを背負い家を後にする。
これも、変わらない。
変わらない事は悪い事じゃない。悪い事じゃない…悪い事じゃないのになぜこんなに寂しいと感じたり何かが足りないと感じてしまうのだろう。
朝7時25分
自分と反対方向へと向かう人、同じ方向へ向かう人を見ていると皆同じ顔をしているように見える時がある。この感覚は自分だけなのだろうか。
無機質というかなんというか。
当たり前。
そう、当たり前なんだ…。働いて賃金を得て生活して、生活するには金が必要だし金の為には働いて働くためには学校に行って、知識を学んで、勉強して、なんちゃらこんちゃらって…日本だしここ。
そうだよ。ここは日本だから、日本の基準という物があってだな日本の規律というものが日常の流れを作って…。
ドンッ。
「あ、すみませ…」
ぶつかる肩同士。舌打ちされるか、向こうが謝るのが先かこちらが先かどちらかでもしくは無視されるのがオチだ。
今回は舌打ちだったが…。
「おい」
街のざわついた音、話し声、靴音、ヘッドフォンから漏れ流れる音楽、信号機の音にまじって声が聞こえた気がした。
「おい、荒本」
「…」
自分の苗字だが、後ろを振り返って人違いだったらどうしようと不安と、知り合いかもしれないという微妙な心境が心をざわつかせていた。
「聞こえねぇのか!荒本亨太!独身!!!!!貴様!噛み付くぞ!!」
「ごめんなさい!!!!」
殺気に満ちた声に振り返るとそこにいたのは真っ白な毛並みで青い目をしたうさぎだった。
ふわふわしてそうな毛並みにおもわず胸がときめいてしまった。
「あ…」
触りたい。いやまて、うさぎ?
「うさぎってしゃべりましたっけ?」
思わず目の前にいる、うさぎであろう動物に聞きながらも後ずさりしている自分がいる。動物が話す映画は見たことはある。確か洋画だったよなとか自分の頭がおかしくなって動物に友達を求めたのかなとか頭が久しぶりにフル回転していた。
そして、うさぎは口元をすんすんとさせながら言った。
「うさぎはしゃべるんだ。安心しろ」
「…いや、え?」
「うさぎはしゃべらないと誰が決めた?」
「いや、その…しゃべった所見たことないし…ここ現実?え?異世界?」
「人間がうさぎはしゃべれない、動物はしゃべれないと決めただけだろう。しゃべった姿を見たことないから俺ら動物はしゃべらない生き物だと認識しているだけだろうが!馬鹿め!!」
「なるほど、いやいやいやいやいやいやいや!!常識でしょ!うさぎは!もふもふ!」
「セクハラか!!」
「はぁ?!」
こんなやり取りをしているのに、道行く人は自分とうさぎを避けて通り横目でちらちら見てクスクス笑うだけで特に気にする様子もない。
「まぁ、俺は特別なうさぎだからな。安心しろ」
「何にですか!!」
「俺にだ!」
「はぁ?!!」
うさぎの青い瞳が自信満々にキラリと光った。そして腕時計を確認すると出勤時間を大幅に過ぎている事に気付いた自分は背中といわず全身から冷や汗が出る感覚に陥った。
-遅刻だ!
「ぼ、僕!行きますから!」
「あ、待て!逃げるのか貴様!」
「知りませんよ!僕は会社に行かなきゃ行けないんですよ!!」
「どうして行くんだ?」
「はぁぁああぁああ?!!!」
走りながら交互に何故か会話を続ける人間と動物を周りの人にはどう見えるのだろう。いやむしろ何かのパフォーマンスに見えるのだろうか。
後ろから四足で付いてくる姿はやはり動物じゃないかと思いながら、何処か胸が痛かった。
どうして行くんだ?どうして行くんだ?どうして行くんだ?
繰り返される、その言葉。
「仕事だから行くんですよぉぉぉおおお!!!!」
そうだよ!仕事だから行くんだよ!仕事で生活してるから生活の為に会社に行く!
間違ってない!
全力疾走しながら、どうして自分の名前を知ってるうさぎがいるのか、何故しゃべれるのか、頭に次々と浮かぶ疑問を必死でかき消しながら目視できる位置まで来た会社へと走り続けた。
「荒本亨太!!」
「なんですか!」
「お前死ぬぞ!!」
「そうですか!!!」
え?
突然の言葉に体が止まれと命令した。止まったとたん体は肩で息をはじめ心臓の鼓動が早く動いてるのが分かった。
息を整えながら後ろを振り返るとそこにいたのは、真っ白なうさぎで青い目をしていた…。
「俺はうさぎの宇佐美って名前だ。とりあえずお前、一週間後に死ぬぞ。どうする?あと林檎持ってないか?腹減った」
これが、突然訪れた僕とうさぎの最初の出会いでした。
荒本亨太の僕とうさぎの宇佐美と恋には落ちない運命の物語の始まりです。
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