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 うん、そういうことか。

「狭いところだけれど、どうぞ」

 そう言って促されたのは座敷の近くに置いてあるベンチだった。多分、井戸端会議用だと思う。きっとお友達とお話しする時に使うに違いない。

 本日定休日、と書かれた看板の先。通されたのは昔ながらの駄菓子屋だ。お婆さんは駄菓子屋の女将だったらしい。

「お兄さんはもう駄菓子なんて食べないかしらね」

 出された麦茶は涼しげな籐のコースターに乗せられていて、それだけでなんだかノスタルジックだ。

「いえ、好きですよ。今でもたまに食べます。おつまみになるようなものも多いし」

「ふふ、そうね。好きなものを食べて頂戴。お礼だと思って」

「そんな大したことしていないのに」

 この暑さの中、良く冷えた麦茶を頂けるだけでいいくらいなのに。

「いいのよ。何が好きかしら?」

 なんだか楽しそうに店内を探す姿を止めるのがはばかられて、もう任せてしまうことにする。「本物は吸ってもらえないから」そう言って手渡されたのはタバコのように見えるラムネ菓子。懐かしい、昔はいかにタバコっぽく咥えながら食べられるかを試したもんだ。

「実はこれね、孫娘の為に買ったのよ」

 甘く煮付けられたイカの駄菓子を食べながら振り返ると、先ほど受け止めた袋の中身を広げてお婆さんが言った。

「半年後に結婚式を挙げるの」

「そうでしたか、それはおめでとうございます」

「ふふふ、ありがとう。これからこのレースに刺繍をしてベールにしてあげるの。もう結構なお婆さんだからたっぷり時間に余裕をもって作ろうと思って」

 広げたレース生地は真っ白でそれだけでもとても綺麗なベールに見える。それに刺繍をするくらいなんだからきっととても素敵なベールになるに違いない。祖母が孫娘の事を想って一針一針刺繍をしていくのだから。

「私も昔ね、そうやって私のお婆さんからベールを貰ったの。あの頃は宗教の関係で教会で結婚式を挙げられなかったけれど、とても嬉しかったから。私も孫娘にしたかったのよ」

「そうなんですね」

 祖母から孫へ受け継いでいくなんて、なんか凄くいい。ちょっと羨ましいくらい。男だったらそういうのないもの。

「二人がいつまでも幸せでありますようにってお祈りを込めてね。喜んでくれるといいんだけれど」

「ふふ、大丈夫ですよ。きっとお孫さん、喜ぶに違いありません。世界に一つしかないとても素敵なベールなんですから」

「ふふふ、そうだといいんだけれど」

 ぎゅっとベールを抱いて彼女は微笑む。そりゃもちろん喜ぶに違いない。だってこんなにも愛されているのだから。

「そうそう、お願いがあるのだけれど」

「え」

 なに、急にどうしたの?

 立ち上がったお婆さんがにっこりと微笑んだまま一歩近づいた。

「そこに立ってもらえる? うちの孫、とても背が高くて、丁度あなたくらいなの」

「え、えぇ!?」

「ベールの長さをざっくりとでいいから決めたいのよ。ちょっと手伝って頂戴」

 そんな顔で言われても・・・いや、いいでしょう。素敵なベールを作るお手伝いが出来るのなら! 御安い御用ですとも!

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