霞む先の君

カゲトモ

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「おっと」

 最近物を落とす人に良く遭遇するな。この間は若い男性で、今日はお年を召したご婦人だ。

「大丈夫ですか?」

 間一髪で袋が地面に落ちる前に受け止めることが出来た。丁度すれ違う時でよかった。これが不幸中の幸いってやつだよな。

「あらあらあら、ごめんなさい」

「いえいえ」

「いやね、歳を取ると物を持つのもままならないなんて」

 少しだけ曲がった腰に柔らかい笑顔。結構な歳だとは思うけれど、しっかりとメイクしてあって恰好もおしゃれで、とても綺麗なおばあ様って感じ。

「とんでもない、落ちなくて良かったです」

「ごめんなさいねぇ」

 ゆっくりと伸ばされた両手に、抱えていた荷物を手渡す。そこには真っ白な布が畳んで入ってあった。確かに裁縫とかとても上手そうに見える。

「あなたこれから時間あるかしら」

「え、僕ですか」

 まぁ今日は定休日で仕事がないっちゃないけれど・・・うーん。

「私、この近くに住んでいるの。良かったらお茶でも飲んで行って頂戴な」

「や、でもそんなわけには」

「良いのよ、本当に助かったのだから。これを落としてしまっていたら大変だったのよ。だから、ね。お婆さんの相手をすると思って。ちょっとだけ」

 そう言ってにっこりと微笑む。ちょっと断るのも引けるような、そんな純な微笑み。

 けど、そんな人様のお家にお邪魔するわけには・・・

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