第34話、響く突っ込み、深まる誤解
「柳ーーーーっっ!!!!」
「貼り付いてくんな気持ちわりぃ!!」
授業で妖怪討伐があった日の南雲は毎回こんな感じだ。野郎にへばりつかれて非常に気持ち悪い。
「久々の激しい運動で明日には筋肉痛だ……なんだってわざわざ森の中に入って討伐しなくちゃならないんだ……僕のやり方のほうが効率が良いだろう……というか朝っぱらから妖怪がごろごろいるかってんだ……」
筋肉痛て。お爺ちゃんじゃないんだから。
「クソッ、こうなったらやけくそだ。柳、今日はビシビシいくぞ。覚悟しろ」
「八つ当たりすんなよ!」
ええええぇ…………こんなん初めてなんですけどー。
よっぽど嫌なことがあったらしく、かなり不機嫌なご様子。終いにゃ八つ当たりしやがって。
真面目なだけなら普通に良いやつなのにこういうところがすぐ出ちゃうから周りに色々言われるんだよ。
ーーーー周りに色々言われる。
その言葉で、昨晩のイオリちゃんとの会話を思い出した。
『………あの人…………人殺し、だから……』
思い出してしまったとたん、南雲が食べてるのと同じBランチの生姜焼き定食を自然と口に運ぶ手を止めていた。
南雲は人殺しなんてしない。
非常識なことをやってのけるやつではあるけど、非情なことをやるやつではないと信じてる。
それだけは断言できるくらいには、南雲のことを知ってるつもりだ。
でもイオリちゃんが嘘をついてる風にも思えない。
歯車がかけ違っているかのようなこの違和感はいったい…………?
「おーい、柳?どうした?」
箸を持つ手が止まっている俺を見て頭に?を浮かべて手を振っている南雲。それを見て我にかえり、なんでもないふうに装った。
「ああ、ごめん。ちょっとボーッとしてた」
「睡眠不足か?お肌に良くないぞ」
「女子か!」
ときどきコイツのキャラが分からなくなるんだけど。
と、そのとき、遠くから視線を感じて辺りを見回した。
「…………気のせいかな」
辺りには普通科と霊能科の生徒で埋め尽くされていて、どこから視線を感じたのか分からないほどだ。
気のせいじゃないとしたらイオリちゃんの視線かな。昨日のこともあるし。南雲がいるから近くに来ないだけで、視線で昨日のことを訴えてるのかも………うん、ごめん。後になって反省してる。女の子に対してあれはないよな。次会ったときに謝ろう。
キョロキョロしていた瞳を前に戻し、久々に早起きしたからか睡魔に襲われ欠伸をしている南雲に話をふる。
「今日の訓練はちょっと厳しくするぞ」
昼休みと放課後しか会えないのに、いきなり放課後にこれ言うのもなぁと思って昼休みの今言った。
いきなりの話題に南雲はキョトンとしている。
「厳しくって……何をどう厳しくするんだ?討伐依頼を増やすのか?」
「まあ普通で考えたらそう結びつくよな。けど違うんだなぁこれが」
話し込んでいたからか、かなり時間が経っていたことに気づいて二人そろってトレーを返しにいく。
南雲はまるで分からないと言いたげに首を傾げている。
そんな南雲を見ながら唇の端をつり上げ、南雲が予想もしなかったであろう言葉を投げかけた。
「今日一日だけ雷系の術禁止」
数秒後、南雲はこの世の終わりとでも言いたげな顔で頭を抱えた。おいやめろ、周りの視線が!
「そんな………僕が日頃使ってる術を取り上げるのか!?」
今にも泣き出しそうな南雲。おいだから周りの視線が!!俺が南雲いじめてるみたいな構図になっちゃったじゃんか!泣くな!この場では泣くな!!
「雷以外にはほとんど使える術がないと言っても過言ではないというのに!その僕に!雷以外の術を使えと!?」
「いやいやおかしいだろ!雷以外の術も普通に使えるじゃん!使う頻度は限りなく少ないけども」
「普通じゃ駄目なんだ!強力で完璧な術じゃないと親にどやされる!」
はたと見れば焦りが伝わるほどの緊張した面持ちな南雲がいた。
「南雲流の術を受け継ぐ者は『常に完璧であれ』というのがしきたりなんだ!この学園に入学させられたのも僕が完璧に術を使えないからだと父様が仰っていたからで………だから、全て完璧にこなさなくてはいけないんだ!それに……っ」
なんかのスイッチがONになったのか、急にペラペラ話し出す南雲。溜め込んでたものを吐き出してるのかな。それに……の続きが気になったが、それ以上言葉は続かなかった。
てか、全ての術を完璧にしろって言われてるんなら俺の出した課題に一致するんじゃん。
南雲は雷系の術はピカイチだけどそれ以外は一般的だ。普通に出すのは問題ないけど術の威力・展開する速さを見たら雷の術に比べてイマイチ。
だからとにかく雷系の術と同じくらい速く展開できるように、威力が増すようにしなくちゃいけないんだ。
そりゃ人間だし、全部完璧に~なんて絶対無理だけども。なんでも努力はしなくちゃね。
南雲の家のしきたりがおかしいんだと思うけど、その点についてはなにも言わないでおこう。
「南雲、ハッキリ言わせてもらうけど、南雲の日頃使ってる術は偏りすぎてるんだよ。結界と雷系の術、あとたまに霊能力を具現化して攻撃する特殊な術しか普段使わないだろ?それだと、結界が破られた場合や雷を栄養とする妖怪と対峙した場合に困るだろ。だから今のうちから練習しなきゃ駄目なんだよ」
暗い表情に微かな怒りの色を帯びた瞳を向けられる。
「……柳まで父様と同じ意見なのか?」
「違うって!完璧にしろなんて言ってないじゃん。人間、誰でも完璧になんてなれないんだから。ただ、完璧まではいかなくてもそのための努力はしようなって話。………あ、予鈴なってる。じゃあまた放課後に!」
軽く手を振りながら普通科の校舎に早足で行く。廊下は走っちゃ駄目なので早歩きね。
もう南雲に背を向けていたので分からないが、予想では完璧になんてなれないという言葉に目を見開いているんじゃないかなぁなんて。
そして一部始終を見ていた周りの人達の会話も知るよしもなかった。
「あのカッコイイ男の子、南雲 清流を泣かせてなかった?」
「あの学園きっての問題児を泣かせるなんて、いったい何を言ったのかしら……遠くからだと会話が聞こえてこなかったわ」
「まさか南雲 清流を降伏させたとかじゃないよな?」
「まっさかぁ!普通科の生徒みたいだしそれはないでしょ」
「最近一緒にいるのをよく見かけるけど、親しげだったよ」
「うっそ!?あの南雲 清流と友達なの!?あの人と関わらない人間嫌いな南雲 清流と!?」
「あの子すごいね……どうやって友達になったのかな」
もうすぐ授業が始まるというのにザワザワと騒ぎ出す一同。
騒ぎの原因は南雲と俺。
だがそのことが尾ひれがついた状態で俺達の耳に入るのは暫くあとだというのをこのときはまだ知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます