第28話、面倒くさい南雲さん

「なあ柳、少しは腕をあげれたかな?」


「その質問今日で何回目だよ」


 時間は8時少し前。そして只今俺と南雲は部屋で食事中です。そしてなにやら南雲が傷心モードに突入している模様。


「……不安なんだよ。成長しているかどうかは自分じゃ分からないから」


「友達に聞けば良いじゃん」


「だからこうして聞いている」


 そうだったよこいつ俺以外に友達いない本気でボッチなやつだったよ。忘れてたわ。


「で、どうなんだ?」


 どうなんだって聞かれてもなぁ……実のところ、成長しているかって聞かれて頷くくらいの大きな成長はしているとは言いがたいし、かと言ってそれを正直に伝えても良いものか……


 俺が挙動不審なのを見かねたのか、次々と口に運んでいた箸を置いて真剣な眼差しを向けた。


「これだけは正直に言ってくれ」


 一瞬の揺らぎもない瞳。


 だと思った。南雲ってば強さとか力とかの話になるととたんに豹変……いや、真剣になるもんなあ。


 だからかな。真剣な眼差しの南雲に中途半端な嘘はつきたくないと思ってしまうんだ、いつも。


「正直言うと、南雲は力自体は強い方。だけどまだ力のコントロールが一般的。もっと言っちゃうと、さっきの腕をあげれたかって質問の答えは余裕でNOだ」


 だからこうして正直に応えてしまうんだ。


 だがこの後が面倒くさい。


 逃げたい。南雲のうなじをチョップして気絶させて一刻も早く逃げたい。


 だけどそれはできない。生活がかかってるからな。


「なあ、柳……」


 くる!耳を塞ぎたくなるほどの南雲の言葉をご覧あれ!!


「僕なんで陰陽師なんかやってんだろう。力のコントロールが一般的ならそこらの力の弱い陰陽師とそう大差ないじゃないか。僕はアレか?ただ力が強いだけが取り柄の能無し陰陽師なのか?きっとそうだ。そうなんだ。強くなるだけじゃなくて力のコントロールも上手くなりたいのになんで上手くいかないんだろう。もう2週間も柳に付き合わせてこれじゃあ僕なんのために特訓を申し出たのかわからなくなるよもう死にたい……」


「流れるように自虐的な言葉を吐くのやめい!!」


 キターーー!南雲の自虐スイッチONになっちゃったぁぁぁ!!すんげえ面倒くさいよー!?


 南雲の真剣な眼差しには答えたい。だがその後のこの面倒な事態は御免こうむりたい。だが以前こうなったときに南雲に干渉せずひたすら無心を貫いたら食費没収されたので無視はできない。しつこいようだがとても面倒くさい。


 ほら見てごらん。体育座りして指をクルクルさせてるよ。ありゃ慰められるの待ってる体勢だよ。殴りたいな。


 でもそんなことできる訳もなく、食費云々関係なくああいう人を放っておけないタチの俺はその後結局一時間かけて南雲を通常運転に戻したのでした。


「……ったく、いつも思うけどメンタルは豆腐かよ」


「響きが悪いからガラスのハートと言ってくれ」


「いやなんでそこ拘るんだよ!つか認めちゃったよ!」


 通常運転の南雲。自虐スイッチはOFFになり、すっかりなりを潜めている。


「だが柳の言い分は至極最もなことだからな。肝に命じて精進せねば」


 そして慰めた後の立ち直りも新幹線並みに早い。毎回こんな感じ。疲れた。


「またアドバイスしてくれよ、柳!」


 懲りもせず再度そんなことを言う始末。


 男の大事な部分蹴り上げようかなって七割程本気で思ったのは内緒ね。



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