第17話、遠退く初登校日

〈爽side〉


あれから3日が経った。


同室者の奥ヶ咲がかなりの怪我を負ったもんだから自宅で療養というびっくりな展開になり、ただ今部屋には俺一人という寂しい事態。


俺は学園の生徒の陰陽師についていった罰として、南雲は一般生徒を無理矢理現場につれていった罰として、寮で3日の謹慎を言い渡されました。


もう一度言います。寮で3日の謹慎を言い渡されました。


………


………………


「初登校いつになんだよぉぉぉぉぉ!!!」


両手で顔を覆い泣きっ面で机に突っ伏す俺の姿がありました。


まじでなんなの!?目に見えぬ嫌がらせか!?いじめか!?運命のいたずらとかかあ!!?


誰もいないことを良いことにおうおう泣きまくる。


駄目だ、一人興奮しちまった。落ち着こうか。


それにしてもびっくりだよなぁ、うん。奥ヶ咲ん家って陰陽師の由緒ある家だったなんて。和装の人達が車からぞろぞろ出てきて奥ヶ咲のことを「坊っちゃん」って呼んでたし。金持ち陰陽師かよって思ったわ。南雲もそうだけど陰陽師って皆金持ちなんかな?すげえ。


別に俺だけ無一文だってこと気にしてる訳じゃないからね。ジェラシィとか思ってないからね。


ただね、思うわけよ。


入学式が終わっちまってることはまあ致し方ないとしよう。


だけど、偶然に偶然が重なって待ちに待った初登校日がどんどん遠ざかるのは気にくわない。


いやまあ確かに最初は初登校日が来なきゃ良いのにって思ってたよ?嵐武様と白狐と離れたくなかったし、初めての学園生活で不安だらけだったし、今も不安は拭えてないけれども。


けど、それと同時に楽しみでもあったってのも事実で。


「今日で謹慎が終わる……明日にはちゃんと登校できるよな?変な邪魔入らないよな?」


まあ南雲も今回のことで反省はしていたし、次はないな。


ゴロゴロ……………


ようやく泣き止んだ俺の耳に入ってきたのはどこか懐かしい雷の音。思わずぽろりと本音がこぼれた。


「……皆、大丈夫かな」


神様達の大きな争いに少なからず中級以上の神様が関わるって嵐武様も言ってた。


それはつまり俺の知り合いの神様ほとんどが戦に関わるということで、戦ってんだから当然怪我人も出る。


嵐武様も中位の神様だし、大怪我してないか心配だ。


ピシャアアァァァ!!!


窓から刺すように溢れる雷の眩しい光。部屋の明かりがあっても薄暗いこの空間に光と影がくっきりと現れる。


外はビシャビシャと雨音がうるさく、止む気配が全くない。


昨日から雷は鳴っていたけど、豪雨にはなってなかったのに……人間界にまで影響を及ぼすほどの激しい戦が繰り広げられてる証拠かな。


「白狐、元気かなぁ……」


神同士の戦に神使は同行できない。となると嵐武様の屋敷にいるのは白狐だけ。


一人で寂しくないかな。


病気になったりしてないかな。


いや、神使とはいえ妖怪だしそれはないな。


離れてからまだ1週間も経ってないのに白狐や嵐武様や皆のことを心配しちゃうなんてなぁ……早くもホームシックか?


ソファで一息ついていると共同スペースのリビングからレンジのチンした音が聞こえてきた。


「あ、もうできたのか!文明の利器はすごいなぁ」


ウキウキしながら立ち上がり、リビングへと向かう。


レンジの中にはほかほかに温められた冷凍食品のご飯とハンバーグを取り出す。うん、良い匂い。


良かったー、南雲に色々買ってもらって。色んな食材買ってもらったけど俺料理できないからこの三日間ずっと冷凍食品とカップ麺だったよ。


しっかもなんだこれ!めっちゃ旨い!たったの二分温めただけなのにこんな旨いもんなの?


ああ、この感動を是非南雲や奥ヶ咲と分かち合いたい。あ、でも南雲達は俺と違って人間界にいたし文明の利器は当たり前な存在かも。南雲も平然と使ってたし。


となると嵐武様と白狐しかいないな。この感動が分かるかな。チキショー会いてぇな。


腹の虫を抑え、昼食を自室でがっつく。そしてすぐに完食する。


「ごちそうさま!」


容器をごみ箱に入れ、自室に戻る。


この三日間ほとんどダラダラ過ごしてるけど太らないかな。



――――――――――



翌日。


俺と南雲は無事謹慎がとけた。


「あー、やっと自由だぁ!」


伸びをしながら南雲を見る。なんか、凄い疲労が溜まった顔してるけどなんかあったのかな。


「ようやく学園長から解放された……」


「え、学園長?なして学園長!?」


「謹慎中ずっと学園長室で学園長とゲームをやらされたんだ……食事と睡眠時間以外ずーーーっと、な」


地獄からの帰還でしたか。


あれ結構神経使うし目ぇ痛くなるし嫌だよね。それを延々とやらされるなんてマジもんの地獄だねきっと。俺なら耐えらんない。南雲すごい。


それぞれの校舎は途中までは同じ方向なので一緒に行く。


てか、あれ?今日は授業サボらないのかな。


「今日は大変だな。午前はテスト尽くしだから」


幅の広い長い道を歩き続け、中心にある噴水までたどり着いて普通科の校舎のある右側へと身体を傾けたとき、唐突に言われた。


振り向き様に聞き返した。


「は?テスト?」


「学園長からチラッと聞いたんだ、今日は普通科も霊能科も抜き打ちテストがあるからそーくん大変だね~、と」


「勉強してないんだけど!?」


「だから大変だなぁって言ってるんじゃないか」


「マジかよぉ~……」


がっくり項垂れる俺の肩に手を置き「まあ頑張れ」とエールを送られた。まあ頑張れじゃない!抜き打ちかよちくしょう!こんなんだったら謹慎中ゴロゴロしないで勉強してれば良かった!


「じゃあ僕はこっちだから。初登校なら自己紹介とかあるだろうし、緊張しすぎるなよ」


あああぁ!そーだった、自己紹介!初登校!すっかり頭から抜けてたわ!!今更ながら緊張してきたよどうしよう!どうしようもないけども!!


かったるそうな足取りで霊能科の校舎に向かって歩きだす南雲を見送ることなく普通科の校舎へ歩を進める。


………とりあえず、職員室に行こう。



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