第9話、早速巻き込まれる
南雲にとっては良い、俺にとってはあまりよろしくない展開になったところで電子レンジのタイマーが鳴り響き、良い具合に温められた弁当2つが顔を見せ、南雲と一緒に俺の部屋で食べようと話していた通り部屋に弁当を持って行く途中、大きな変化は突如訪れた。
《こちら立ち入り禁止区域S地区、一人では討伐不可能の妖怪が出現!至急応援要請を頼む!》
声が聞こえてきたのではなく頭に直接響いてきた。誰の仕業かはわからないが、叫ぶように放たれたと見て緊急時だということはすぐに理解した。
「な、何今の?テレパシーみたいに頭の中に響いてきたんだけど……」
「念話だ。一人では討伐不可能な妖怪が学園に迫ってるとき、霊能科の者、または霊能科の教師に送るはずなんだが、よほど焦ってるということか……」
はじめて見る南雲の渋い顔を横目に、なにやら騒がしくなっている部屋の外に足を運ぶと、廊下にすごい数の人が溢れていて、そのうちの一人に話をきいてみた。
「なあ、どうしたのこの状況?」
「ああ……なんか、普通科のやつらにも念話が届いたみたいで、軽くパニック状態らしいよ。といってもそれは女子だけの話で、男子寮では霊能科の代表数人向かうことになったけど」
一瞬だけ「誰だコイツ?」みたいな眼差しを送られたけど応えてくれた。
「という訳だ。行かなくちゃな」
俺の背後で弁当を貪り食っている南雲がこちらに歩きながら言う。苦虫噛み潰した顔で。
……そうだった。こいつ一応学園で最強の陰陽師なんだった。そりゃ代表になるよな。力量を知らないから半信半疑だけど。
「なっ……南雲 清流!?」
勢いよく口に放り込んで頬張っている南雲を見て驚愕の顔をする男子。その瞳には畏怖の感情がこもっていた。
「いかにも、僕が南雲 清流だが?」
平然と、だがどこか凛々しく感じる声色で応えた南雲はというと、食べ終えた弁当の容器を捨てようとゴミ箱を探していた。
瞳に恐怖を滲ませている男子生徒。最強と言われる南雲に対して、だろうか?南雲ってそんな悪いイメージしかないのか?それがこの学園の常識なのか?
確かに俺も最初は性格がちょっとアレだなって思ったけど、さっきの一連のやり取りで分かってきた。
根は良いやつなんだよなー、わりと。
平気で授業サボったりピッキングして勝手に部屋の中に入ってきたりと問題はあるけど、その実、真面目な部分もある。
普通科で、しかも編入したばかりなうえに出会って間もないときだったのにアドバイスをきちんと受け取った。なんの警戒もなく練習していた。
だから俺が思うに、本当なら真面目な良いやつなんだけど色んな要素がそれを隠しちゃってる、みたいな?
とにかく俺は南雲がなんで嫌われてるのか理解できないってだけ。いつかは知れる日がくるのかな。
とか思ってたら弁当の容器をプラスチックゴミ箱に入れて戻ってきた南雲の口から目が点になることを言われた。
「じゃあ行こうか柳」
「おう!……は?俺も?」
なして?俺霊能科じゃないよ?
「ピンチになったときは必ず守る。だから、また術の指導をしてほしい」
「霊能科しか行っちゃ駄目なんじゃないの?俺普通科なんだけど」
「そ、そうっ……ですよ!霊能科の厄介事に普通科の生徒を巻き込むのは校則で禁じられてます!」
なんで敬語なんだろう?と思ったけどナイス。さすがに校則違反になるようなことは……
「それがどうした。僕は連れて行く。罰則なんて屁でもない」
する気満々でした。
そうだよ、平気でピッキングするような奴だもんな。校則違反なんて朝飯前!とか思ってんのかも。
てか、このまま南雲について行ったら俺も罰則くらうのか?
男子生徒も怯えた表情でそれ以上は何も言ってこない。……って、そこは怯えるんじゃなくて呆れ顔とかだよね普通は。
「よし、この男子生徒の了承も得たことだし、すぐにでも行こう」
了承はしてないだろ。
「でもさ、あんな森の中で応援要請してきた人と、その討伐不可能妖怪探すのって骨が折れそうだよね。俺本当に何もできないよ?ただの足手まといだよ?」
だから一人で行ってきて。と言外に加えて言ったのだが、そんなことは虚しくも南雲の耳には届かず、俺の手を強引に引っ張って寮の外に行く。
俺の腹の音をガン無視して。
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