第4話、ゲーマー学園長登場

そんな二人のやりとりを知るよしもなく、俺は今普通科の校舎一階の学園長室前で足を止めていた。


「ウッソ……もうついちゃったの?」


二人と別れていくつかある校舎とにらめっこした末にこの校舎にしたのだが……


ぶっちゃけ言うと、本来なら校舎間違えたり迷ったりするのが普通だよなぁって思ってたんだよね。だってマンガじゃ、そのおかげで出会いとかがあって物語が進むー的な話になってるし、期待しちゃってたんだよね。


つまり一言で言うとですね。



なんでこんなあっさりついちゃうんだよ俺の馬鹿!



そりゃ急いでたし早くついたほうが良いって頭では理解してるけどさぁ!でもやっぱり何かしらハプニングとかあったほうが楽しいというか……とにかく、マンガみたいな展開を予想(期待)してたのに!!


マンガマンガマンガってお前はマンガオタクか!と突っ込むのはやめて下さい。参考資料がそれしかなかったんです。


と、とにかく、来ちまったもんは仕方がない。よし、腹括ってしまおう。入ろう。こんな所でうろうろしてたら怪しまれるからな。


「すぅー、はぁー………」


深呼吸して落ち着きを取り戻し、ドアノブに手をかける。



ガチャ………



「失礼します。本日から編入してきた、柳 爽です」


扉を開いたその先には誰もいなかった。


少し広い部屋の奥にある窓の真ん前に学園長用の値段が張りそうな机と椅子があるだけ。


「あれ?誰もいない?」


学園長室間違えたとか?いやそれはないな。プレートにしっかり「学園長室」って書かれてたし。じゃあなんで誰もいないんだ?


ふと壁にかけられてる時計を見やると時刻はなんと10時35分。


「ノォォォォッッ!!!!2時間以上も過ぎてるぅぅぅ!!!」


思わず叫んでしまうほどにショックを受けた。まさかそんなに時間経ってるとは思わなかったし!!


学園長って忙しい立場なのは知ってる。俺1人のためにこんな長時間待ち続けるとは思えない。実際いないし。


この現状を見てわかること。それは



「挨拶……明日に決定だわ」


ただそれだけだった。



だよなぁ、2時間も待つとか拷問だよなぁ。ここにいないってことは仕事で出張とかに違いない。


こんだけ待たされたら迷惑にも程があるよなぁ……


反省して嘆いても何にもならないし、とりあえずは寮に行こう。自分の部屋で落ち着きたい。そう思い閉じた扉を開こうとドアノブに手を近づけたときだった。


「ふっ……くくくっ………ああ駄目。キミ面白すぎ!」


上から声が聞こえてきたため上を見上げると、何故か白ワンピースを着た紫頭のツインテール美少女が天井に張り付いていた。


「ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!!!??」


勢い良く壁にドンッて背中押し付けるぐらい後ずさった。


て、天井に!天井に人が!!


「あははっ!そうよその反応を期待してたのよ!あーツボったわぁ。楽しませてもらったし、そろそろ良いかな」


目を白黒させてる俺の真ん前にストンと華麗に降りてきた美少女。もう、びっくりさせんなよもう!!心臓破裂しそうなくらいびっくりしたんだけど!!


華麗に降りてきた美少女は俺を真っ直ぐ捉えた。


「さっきはごめんね。キミがどんな反応するのか見てみたくてイタズラしちゃったわ」


まずは謝罪し、一礼してきた。そして顔を上げ手を握る。


「白帝学園の学園長、神ヶ原 ノアよ。ピチピチの25才でっす☆」




………



……………



「はいぃぃぃぃ!!!?」


目ん玉飛び出そうってくらいびっくりした。


なんなの?なんなの!?学園長ってもっと年老いた人しかなれないんじゃないの!?マンガでは学園長=年寄りだったのに!


つーか25歳って若っっ!!そんな年で学園長とかなれるの!?すごいな!!


……って、俺も挨拶しなきゃ。


「あ………柳 爽です!遅れてしまってすみません。これからよろしくお願いします!」


目上の人には敬語!


ここだけは鍛えられたからな……嵐武様に。


「あー良いの良いの!雑務のほとんどは秘書に任せてるから~!いっつも嫌がるけど最終的にはやってくれる心優しい人だから~!」


ん?押し付けてるの間違いではないでしょうか?


「さぁて、かなり遅れてきたから授業どうしようかぁ?普通はホームルームの時間に自己紹介して……って流れなんだけど、もうすぐ3時間目に突入しちゃうしぃ~……」


う~ん、と困ったような声をあげる学園長。そうだ、授業中にはいこんにちは柳 爽ですよろしくね☆とはならないよな。


ああ、遅れて来なきゃ今頃誰かと仲良くしたり授業中にお喋りして先生からお叱りを受けたりなんやかんや楽しく過ごしていたはずなのに。ああ、俺の青春第一歩が台無しに……


と、その時。掌に拳をぽんと叩くと、ひらめいた!ていうキラキラした瞳をこちらに向けた学園長にびくりとした。


「私とゲームやろっ♪」


「仕事どうした」


「今対戦ゲームにハマっててさー…」


「人の話聞けよコノヤロウ!!」


ものの数分で敬語吹っ飛んだわ。


なんで俺の周りには不真面目なひとが多いんだろう。神様が不真面目だと人間も不真面目になってしまうのか?真面目に仕事してる人達に謝れ。


「さあいざ行かん!!パズル対戦ゲーム『パルパズ』の世界へーっ!!」


「俺やるなんて一言も……ってやっぱり人の話聞かんのかい!」


ズルズル引っ張られる俺。


有無を言わさずルンルン気分でどこかに向かう学園長。


だっから仕事はぁぁぁ!!!!??



結局昼過ぎまで対戦ゲームとやらをやらされた。


腹時計がうるさく鳴るまでひたすらやらされた。


ただでさえ歩きすぎで足腰痛めてたというのに手まで痛くなるなんて……今日は散々だよ。


「こんな時間までありがとねー!また今度違うゲームで遊ぼうねっ」


「はあ………」


くっ、断れない雰囲気……!


また俺に手を痛めつけろと?



やり終えたゲーム機などを片付ける手伝いをしていると、学園長が俺に向けてる妙な視線に気付き、振り返った。


さっきまではニコニコにぱにぱしていた学園長の表情が、なんというか、大人の微笑?に変わっていて一瞬ドキッとした。


「な……なんですか?」


「なるほどねぇ……嵐武神様の仰った通り、いやそれ以上かな?うん、大体わかったわ」


……えっ?なんで嵐武様のこと知ってるんだ……!?


人間と神様は本来繋がりを持たない。


それはつまり人間より格上の存在である神様を視界に入れることすら叶わないという意味だと嵐武様から聞かされた。


ごく稀に人間の中には高度な術で神様を人間界に降ろし、複雑な術のおかげで見ることができ、対話することができる者もいると言われたが……まさか、学園長が?


「ああ、その目は信じてないね?いいよ、タネ明かししてあげる。私は一般的な術は人並みなくせに高度な術は完璧に使えるんだよね。神降ろしの術もその内に含まれるよ。嵐武神様以外の神様とも話したことあるしね」


やはりそうだったらしい。


嵐武様は元は高位の神様。そんなひとを呼び出せるなんてな。学園長という肩書きに負けない実力者なんだな。


「で、さっきの話に戻るけど」


「あ、はい!」


改めて気を引き締める。


さっき、大体わかったと言ったのはなんでだ?何に対してそう言ったんだ?


「さっきのゲームでキミの性格は大体わかった、って言いたかったのよ」


きょとんとする俺に続けざまに言った。


「キミはさっきのゲームで言うならば、誰かの後ろで慎重に的確に攻撃する。そんで仲間がピンチに陥った場合のみ前へ出てすんごい攻撃をしてた。つまり言い換えるとね、普段は誰かを支える柱となって過ごしてて、仲間が危機に直面したときは颯爽と駆けて手を伸ばして助けるヒーロー的存在なんだよ」


一息ついて、だから、と付け加えた。


「キミは仲間想いの優しい子だって言いたかったのよ」


……なんか、俺、顔が赤いな。


どうしよう、俺は一言も喋ってないのにすんごい恥ずかしい。


褒められてるのか?優しいって、そんなことないと思うが。嵐武様には常に罵声浴びせてたし、白狐には甘えてばかりだったし。優しさなんてなかったと思うけどなぁ。


「自覚がないんだね~、そこがまた可愛いっ!」


首を傾げてると学園長が抱きついてきた。俺は座ってて学園長が膝立ちなため俺の顔は学園長の豊満な胸の中に埋まっている。


「~~~~~っっっ!?!?」


赤面しつつ顔を離そうとするが学園長の腕力は凄まじく強く、引き離すことができない。


「逃がさないぞうぅ♪」


「~~~~~~っっっ!!!!!」


ちょ、それ以上力入れないで!!


ガチで息できない!!死んじゃう!!!



なんとか包容という名のがっちり拘束から逃れた俺に口を尖らせてぶーたれる学園長。


いやまじで危なかったんだからね?


人間界に落っこちて土ん中にめり込んだあのときよりも死がすぐそこに近づいてたからね?


「まあいいや。お昼ごはんにしよっかぁ☆」


「とめどなく自由に生きるの止めて下さい学園長……」


とはいっても、さっきから腹時計がうるさいのも本当なのでお言葉に甘えて一緒にごはんを食べることとなった。



……が。



「はぁーい!元気にしてるぅ?私の可愛い生徒達ぃ!」


ザワッ……という効果音がぴったりな皆の反応。


皆ってのは学校の生徒達。


男女ともに埋め尽くされ、賑わいを見せる食堂。


なんでこんな人の多い場所に来たのか。


それは俺のすぐ横でオムライス(3人前)とうどん(5人前)と焼き肉(10人前)と餃子(50皿)を食べ終えたうえにデザートでアイスとティラミス(通常サイズ5皿ずつ)を幸せそうに頬張る学園長に聞いてくれ。


和と洋と中がごっちゃだね。しかもかなりの量たいらげたね。胃袋どうなってんだこの人って思ったのもつかの間、俺の疑問をぶつけてみた。


「なんでわざわざ食堂に来たんですか?皆学園長に釘付けですよ。俺なんかこの学園の生徒でもないのに」


「いんや、柳くんもちゃんと生徒だよぉ~!私もこの学園の学園長だし、不自然な点は見当たらないよぉ?」


「いや、まあ、そうなんですけど……」


クラスも分からないし自己紹介すらしてないし知り合いはいないし。学園の生徒だって自覚がないんだよなあ。そのせいか若干浮いてるし。皆こっちチラチラ見てるんだよ。


特に女子!俺をガン見して顔赤くしてる女子多数なんだよ。俺なんかしたかな。


「……爽…いた」


「うあおう!?びっくりした、イオリちゃんか……」


いつの間にかイオリちゃんが両手で料理がお皿にのったプレートを持ち背後に佇んでいた。気配殺してるのかなって思っちゃうくらい気配感じなかった。恐い。


「爽……うどん……」


へ?うどん?うどんがどうかした?


イオリちゃんの視線の先には俺の食べかけのうどん。ああ、うどん食べたのかってことかな。


「うどん美味しいよ。イオリちゃんは何を食べるの?」


お皿の中から湯気があがってるってことはまだ食べてない証拠。この質問で合ってるはずだ。


「親子丼とうどん……雪も」


二人とも二人前食べれるの?すごいね。


なんとなくのイメージだけど、イオリちゃんって丼食べる姿想像できないなぁ。


「あれれ?キミ達もう知り合った仲なのぉ?仲良しだねぇ~!出会い話を聞かせなさいよぅ♪」


と、ここで学園長が嫌らしい笑みを浮かべて割り込んできた。チラリと見るとデザート達は皿の上にはなく、すでに学園長の胃袋に収まっていた。


「出会い話って……森の中をさ迷ってた俺を奥ヶ咲とイオリちゃんがここまで案内してくれただけですよ」


「ん?森って、立ち入り禁止区域の?」



あっ。



気づいたときにはもう遅い。


イオリちゃんと奥ヶ咲が言ってた、立ち入り禁止区域に浸入した人は罰則があるということを今思い出したが遅い。


イオリちゃんは後ろにさがり、ちゃっかり無関係を装って席に座りうどんをすすっている。何気にひどいなあの子……


「爽くん……学園の周りの森は霊能科の子達が授業で妖怪討伐する以外には立ち入りを禁止してるの、知ってた?」


にこやかにふんわり放たれた言葉とは裏腹にブラックオーラを解き放つ学園長。その笑顔が……恐いです。


「道路がある方向の森は立ち入り禁止じゃないんだけど、さっきの爽くんの口振りから察するに立ち入り禁止区域から来たんだよね……?あっちは妖怪いっぱいいるし、どんな経緯でそんなとこにいたのかは分かんないけど」


笑顔はそのままにゆっくりと近づいて言葉を紡ぐ学園長。俺の目の前まで来て、さらに満面の笑みを見せた瞬間。


「罰則がない訳ないよねっ☆」


ですよねー。


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