Damn this radio

姫百合しふぉん

クソガキ

「Damn this radio, why they don't hear me!」毎晩布団に入っては全く眠れない日々を過ごしながら私はこう叫んでるんですよ、別に恵まれない人生ではないはずだし成功者の部類に入っては居ることは良く知っている、年齢別の年収で見てみても自分は優れている、マシ、もっと下のやつらが居るって、そう言い聞かせながら暗い部屋で焼酎を飲み、瞼の裏に刻まれた奇妙な秒針の煩さに怒り、明るさが私を急かしてもそれに逆らい身体を強張らせているんですよ。嫌がらせをされているって、ガラスを震わせ割ろうとする防災無線に腹を立て役所は監視団体に屈するな、洗脳音波攻撃をやめろと抗議の電話を掛ける。まだ年齢は三十に差し掛かったばかり、それなりの年収でその外面を整えることが出来ても過去の情熱の残滓と博士という肩書を杖にしなければ歩むことすらかないこの心、言える考えてみれば愛知県の北の平野の中の田んぼに囲まれた街で生まれ育った私は別に恵まれていないわけではない、何せ祖父の頃からの持ち家があって、高卒の工場勤務の親父と小学校教諭の母の間の二人目の子供として生まれて、二人とも酒も煙草もやらない真人間なわけ。高校の時は夏までスポーツをしていてその後は怠惰な日々を過ごし、その後は同級生と麻雀などをしつつとくに勉強(笑)をせずに入れるような大学に入ることになった。恵まれてるって感じはその時からあって―――黄金のすべり止めセットの私立大学に入学金を払った訳だけど、特に一つは偉い人の名前の付いた授業料減免の方で入ったんだけど国立のほうがそれでも安いと最終的には東京の国立大学に入った。高校時代の事なんて頭の中で書物の様になっていてどんな感情を持って過ごしていたかもまともに覚えてないのだけど、いやその頃から面倒な性格は始まっていて体育会系の部活に入っていながらもこんなトレーニングで強くはなれないとか思っていながら筋肉量が増えていくことに達成感を覚えていたとかそういうのは覚えているけど―――最終的になんか卒業式で「早稲田に受かった子がいるんだって。」という噂話を聞いたと母が嬉しそうに話していたのは何となく頭から離れない、悪意はないんだろうけど条件付きの愛なのではと思ってしまったりもした、ただもちろん感謝はしているわけで兄は高卒で反社に属していたりはしていたもののちゃんと親父が手切れ金払ってカタギにはなっているようだし、安心してスネを齧れるというようなことを感じることは出来ていた。とはいってもあのクソほど高い入学金はどうも祖母の貯金を使ったらしいが。まぁそんなことは置いておいてもやっぱりなんとなく閉塞感を感じていたあのクソみたいな地方を―――別に悪くはないんだろうけどイキった私は何となく変わりたいと思っていてそんな下らない夢を叶えてくれる東京に行くことになる。世間も知らずに腐敗臭のする奴隷牧場から抜け出したと思い込んでいるクソガキ、大学に入ったらやってみたかったのはバンドで、親父は酒も煙草もしなかったがギターが好きで、その影響を受けた訳では無いのだけどヘヴィーメタルという好きな人が少なそうな音楽を高校あたりから好むようになっていて、隠れて―――別に怒られはしないし、勝手にギターを弾いたりしていて―――触ったら拭いておいてくらいしか言われなかったかな、そんなこともあってバンドサークルに一目散に入ったのを覚えている。自己弁護のために書いておくが何となく子供のころから科学者というもの、実態も知らずに何となくかっこいいと思っていた、そんなガキの憧れのようなものがあって学問も頑張るつもりはあって前期の頃は成績が優秀だったわけだが酒を飲みメタルのコピーバンドをするという自由なような他人の轍に沿って歩くような事に傾倒し始めた。その頃はヘヴィーメタルのイコンとなるような人たちの芯のある高音を出すことが出来ずないことのもどかしさはあったもののそれなりにギターが弾けて―――なんだかよく分からないけど子供の頃は兄が習っていたというのもあってピアノを習っていたことが影響しているかどうかなんてことも全く分からないがそれなりの楽器への造詣が、あ、思い出してみると小学生の時の鼓笛隊でトランペットもすんなりと、とかまぁよく分からないがギター自体はそれなりに弾けるようになっていたと思う。一年目が終わりそうな春の頃にはあの力強い高音を自分の喉から発することが出来るようになってはいたのだけれども、その能力の代償ではないけれども酒のためか、性能も良くないノートパソコンで始めたMMOのせいかは分からないけど履修はするが単位はとれない、というか期末試験に行かないこともあり平均点の悪化が表れ始めていた。その大学は二年時に学科配属で、やっぱなんだろうか物理学というものに憧れを抱いていたわけだが優秀な、自分より優秀な人間達に枠を埋め尽くされ応用の学科に配属されることになる。バカにしていたのだけど単純に能力が足りないのではと思い始めたのは二年生になってからかな、解析力学の単位が取れないんだよね、これとか量子力学とか、統計物理なんてものが結局ちゃんと分かるようになったのは後々に研究を始めてから、というよりは数値的にゴリ押しをするある種エレガントさに欠ける―――これへの言い訳は今日も学生に「世の中で解析的にとけるものは少なくて教科書で与えられた難しそうな問題を解いているのも天下り的にできるものを与えられているだけで世の中の現象は数値的に解くことしかできないことに溢れている」とのたまって来たように数値解法を生業とし始めてからは―――いや結局私は自分のexspertizeも下賤なものだと思ってるのかな。例え正しく、というよりは影のHamiltonianがだとかSymplecticなことが、とかの証明が過去の偉人によって為されているのに、突き詰めると、ああもう分からない、多分口から出るのはPeter Hohenbergがノーベル賞を取れなかったのは陰謀だとか、カルト宗教の―――今となってはバカに出来ないがAnother Testamentとか言い始めたやつらを信じたHenry Eyringが、と常に言い訳を重ねるたびに私の価値が落ちるような気がする。まぁ自分を卑下しても始まらない、知っていても理想の自分との差が広がるたびに私の事を誹謗中傷する私が居て―――でもまだInnocentな若者だった私はまだ気づいていなくて、単純に、寧ろ応用の分野のほうが自分の好みだったのではないかと、その学科の優秀な学生となり始めていく。統計物理学の理解が浅い、とは卑下したものの、Annealing Machineのあの人の授業はちゃんと理解してそれなりの成績を取り学科の専門科目は良くできた、イキってた頃は―――のちにRefuseされる訳だが指導教員にEinstein、今でも私はどうも多体系での業績を信奉しているわけだが、逡巡するごとに記憶が曖昧になる、きっと私が記憶修正主義者だからだろうか。そんな訳で最初は不満だった応用の学部で学業的にも満足しつつ、より音楽にその精力をつぎ込んでいくことになる。いつだっけな、多分一つ上の先輩たちが同人シューティングゲームが好きでそれのアレンジをやり始めることになる、何といってもLunaticをやると音楽と後々に眺めたリプレイのSinergyがすごいから、世界観も好きだったと思う、誤解を恐れずにここに記すのならば無性の世界で無性の存在同士の同性愛にも魅力を感じるようになっていた、それで、あまりそれは関係なく持てるギターの技術で―――金銭面には恵まれなかったわけだが自分の二次創作が評価されるのはうれしかった、結局後々に分かったのは自分自身は何も作れないと言う事だったけど。学部三年、それなりに、それなりに生きていたと思う。レザーと鋼を纏いステージに立ち、汚い部室で酒を飲み、学業もそれなり―――後々に分かることだが多分私は数学が浅い、今でも二つ前の職場のとこの学生が群論の論文を書く際に証明の穴が無いことは、というか穴を埋めてあげることが出来ても新しい何かを言ってあげられる人間ではない、それは今も。とはいっても応用の分野ではそれなりで良くて、学問の方では後々学科の総代になってるから卑下するほどでもないんだろう、趣味の方ではギターをかなり速く弾くことが出来るようになり、大岡山のKai Hansenといわれるくらいに下手くそなりに声は出るようにも―――彼の若いころのような、魔女のようなと評されるくらいの感じにはなり、人生を謳歌し始めた。楽しかったと思う、大学に入ってからその挫折は―――くだらないことだけど物理学科や数学科でなければ学問ではない、から離れることができてごく単純に、壁があれば周りこめばいいいと思えるようになっていた、恐らくこれも他人を自分より下と見る癖がつき始めたことの証左だったんだろうな。このころだったっけ、初めて異性と性行為をしたのは―――同性間は高校生の時からだったような気もするが、両性愛者(?)としては割とこの頃は自分を正しく評価することは出来なかったと思う、たまたまとかそんなこと思ってたのかも。まぁでもあまり世界と私の間に違和感もなく過ごしていた、このことは私にとってとても重要だったように思う、輝かしい過去だと思う。それなりどころか恵まれた環境で趣味に傾倒できて、今から比べれば浅いものの学問にも打ち込めた。そして研究室に配属される頃、私が待ち望んだ深淵をその縁から覗き込み始める頃がやってくる。体力も十分で、精神面の強さも、頭脳面でも冴えていたとすら思う。別にこれ以降の出来事、ひいてはScienceに真正面に立ち向かう存在になる事自体が悪いと言っている訳では無い、だけれどもきっと私は―――とりあえず身体を起こそうか。

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