忠義って?

馬丁から水を貰った後、帰路に着くことにした。


(季節は春に向かっているな。こんな日はノンビリと行くか。)


風も仄かに温かい。

町で買った串焼きを口に頬張りながらゆっくり歩く。


(こいつらにも、もう少しゴブリン魔石をやるか)


首筋を撫でながら雌のスレイブニクスに魔石を与える。

よっぽど腹が減っていたのか、凄い勢いでがっついた。


その様子を雄がじっと見ている。


「ほらよ。焦らした訳じゃない。お前も食え。

名前が無いと不便だな。お前は今日から『シュバルツ』だ。

そしてお前は……『ロート』だ。」

雌を見て言った。


両馬とも心なしか嬉しそうに見えた。


(少し休むか。)

木陰に入り目を瞑る。念のため木に2匹を結わえつける。


(良い買い物だった)


暫くの間俺は眠りへと落ちた。



◼️□◼️□◼️□◼️□


一時間ほど眠ったのだろうか?

ふいにバルバレスより呼び掛けが入る。


『主、主、主』


『なんだ?』


『気付いていると思うがお客だ。』


気配察知をかけると総勢7名ほどの団体が俺に近づきつつある。


軽く気配を殺しているのが5名、堂々と歩いているのが2名だった。


念のため俺はスレイブニルを木より放つ。


(いざという時、こいつらも戦力になるだろう)


「俺が合図するまで動くなよ」

そうそっとシュバルツとロートに話かけた。


大きなアクビをしつつ俺は立ち上がる。オーガの魔石を左手に持ち、マナの回転を徐々に上げる。


「そろそろ戻るか」

敢えて大きな声を俺は上げた。


「やあ、そこにいるのは先ほどのお客さんじゃないですか。

間に合って良かった。」


そう言って声をかけてきたのは先程の店主だった。


「どうかされたんですか?」


「いやね。実はこの馬に先約が入っていたのが分かりまして。


よりによってこの馬丁が伯爵家より頂いていた注文を失念していたのですよ。」


「俺には関係無い事だが?」


「伯爵家ですよ?あなた様のお仕えしている貴族家の位は知りませんが、いらぬ波風を立てられない方が賢明かと……。

折れて頂けたら……そうですね。

白金貨4枚、いや5枚と交換しましょう。それならもっと価値ある馬を購入することも可能ですよ。


元々金貨50で手を打ったものなんだから、大出血サービスです。」


(何か気に入らないな……)


「悪いが断る。お前の態度が気に入らない。

それに……二人で来たのならまだしも七人で俺を囲ってどうするつもりだ?」


「ちっ、下手にけちったのが悪かったか……。全く役に立たないクズどもだよ。」


「それに、お前程度にこいつを抑えることができるものか?」


「ふん、元々誰が捕まえて来させたと思っているんだい?」


(何か方法があるのか?)


「先生方、やってしまって下さい。いざとなれば伯爵様もついています。」


その一言と共にチリンと言う音が聞こえた。

(不味い。これは精神魔法か……?

この世界に来たのばかりの頃、これで眠らせられた記憶がある。)


『主、この程度の魔法なんぞ屁にもならんぞ……』


(こっちにも先生がいた……。ただ、シュバルツとロートは大丈夫か?)


横目でみると、変わらず元気そうである。


(前の時はなんらかの理由で弱っていたんじゃろうな。今は魔石を腹一杯食って元気ハツラツじゃ)


「おい?もう用が済んだのなら帰らして貰うぞ?」


明らかに戸惑いを感じた。


(その前に……この気配は……

覚えがあるな……)


俺は大声を上げた。


「そこに隠れているお前ら、

大人しく帰るなら今回は見逃してやる。

ただ、どうしても戦うと言うのなら

そこのスレイブニルを容赦なくけしかけるからな。」


「スレイブニル?地獄馬だと……そんな話聞いていないぞ……」


声があちこちから漏れる。


「眠らせられるならともかく、元気なこいつらを無傷でお前ら捕まえられるのか?」


「張ったりじゃ、張ったり。仮にスレイブニルだとして、この家令程度に抑えることが出来るまで弱っているんじゃ。アサシンギルドの先生方なら抑えることなぞ簡単だろうが?」


(良い度胸だ。)


「シュバルツその木を押し潰せ。」

そう俺は指図した。


「それとだ……俺は二度目の裏切りを許すほど甘かねぇ。黙って去るならよし、オーガのように叩き潰されたいのなら襲ってくるが良い。手加減はしない。」


『バリバリバリバリバリ』


俺が先程寝ていた大木がいとも簡単に

倒されたのが見える。


「本物だ、本物のスレイブニルだ。

店主の野郎何が誰でもできる簡単な仕事なんだよ……。騙しやがって俺達を殺すつもりかよ?」


周りを囲っているやつらが動揺しているのが分かる。


(駄目押しするか……)


俺は息を吸い込みエネルギーを乗せ、店主に向かって叫んだ。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……………………」


店主は目から血を流し倒れ込んだ。

(鼓膜もいってしまっただろうな)


それを見て、影に潜んでいたもの達は

一斉に逃げ散って行った。


(奴も消えたな。

ふん。鉱山で一緒にやってきた仲だ。命ばかりは取らないでいてやる。二度と俺に手を出してくるんじゃねぇぞ。)


「さてと、俺はお前さんについては恨みも何もない。町に帰るなりなんなりするが良い。

こんなクズ相手に振り回されて大変だったな。

ここに放置しておけば夜にでも魔獣が片付けてくれるだろう。」

そう俺は馬丁に言った。


「こんな男でもご主人様はご主人様です。捨て子であったあたしをここまで育ててくれた恩を忘れる訳にいきません。どんな悪い男であったとしてもです。」


「そうか……なら勝手にすると良い。ただな、そんな男であっても大切だと思うなら、時に諌めるのも部下として必要なお務めだと俺は思うぞ。」


頭を垂れている馬丁を横目に俺は屋敷へと向かったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る