ドワーフ隊

さらし場でボックと別れた後、鉱山へ入り、今日のノルマに取りかかる。


身体にオドを取り込みマナを回転させ、

気配察知で障害物を避けながら一気に野営地まで駆け抜けた。

(オーガ討伐で階位が上がったせいか…身体がマナの回転についていっている。

荷物を背負って5キロを数分で走破……

異常だろ異常……。)


以前に比べるとあっという間にノルマは終了する。少しの休憩を取った後、俺は小部屋へと向かった。


隠し扉を開け、小部屋に滑り込む。


(床に何かいる)

そう思って目を凝らすと……

なんとボロスが暇をもて余し寝ていた。


俺の気配に気付いたのか、目を擦り立ち上がってきた。


「ようっ」

俺が手をあげるとボロスも手を上げてきた。


「早いな。ノルマはもう終わったのか?

もう少し寝れるかと思ったんだが……」

そう言いつつアクビを噛み殺した。


「まあ、いい。隼人、来て早速だが頼みがある。」

とボロスが話を切り出した。


「なんだ?」


「これからくるうちの氏族のもんに、闘い方を教えてやって欲しい。」


「闘い方?構わないが、俺で良いのか?

刀回しなどはミュルガの方が適任だと思うが。」


「普通の敵ならそうだが、今回は…」

とボロスは言い澱む。


(と言うことは、あれだな。)


「もしかしてターゲットはオーガ…か?」


「ああ、そうだ。なのでお前の奇策を覚えさしたい。」


「ふむ。で、いつから教えたら良いだ?」


「実は間もなく来る。」

そう言ってボロスは笑った。


「まったく俺が承知するのが前提かよ…」


そう話していると12名ほどのドワーフがやってきた。


6名は武器、残り6名は袋を抱えている。


(しゃあないな。)


「攻撃メインはボッタ、ボロ、ボン、ポメリ、ボンツ、ポイ」

6人が頭を下げた。


「残り6名はサポートだ。ボル、ボスト、ボク、ボツリ、ボイソ、ボルトンとなる。」

残り6名が頭を下げた。


「俺は隼人。よろしくな。」


「お前ら分かっているかと思うが、隼人の命令は族長の命令だと思って従うように。」


「おすっ」

と声が響く。


「魔石の数集めはどうする?それとこんなに人数を寄越して鉱石屑ノルマは大丈夫なのか?」


「ミュルガ、ヤル、ゼリス、それに俺でゴブリンドームは充分だろ?


鉱石屑の採掘ノルマはお前に心配されなくても大丈夫だ。貯蓄(たくわえ)がある。


何事にも余裕を持って物事を進めるのが我々ドワーフ流だ。」


「心配無用って訳だな。」


俺が言うとボロスは大きく頷いた。


「では……まず作戦会議といこうか。

その前に……サポート役が抱えているのはなんだ?」

とボロスに尋ねた。


「魔石とミスリル屑だ。好きに使ってくれ。」

しらっとボロスが答える。


(こりゃ作戦もある程度部下に説明済みって思って良さそうだな。まあ、でもし過ぎて困るってこともあるまい。)


「すでにボロスから説明を受けていると思うが、念のため作戦の手順を説明する。

作戦は全部で4フェーズに分かれている。


第1フェーズは敵の『釣り出し』

これは俺が『おとり』となってオーガを一匹ずつ引っ張ってくるつもりだ。お前達は離れたところで待っていて貰う。」

みな黙って聞いている。


「上手く『釣り出し』が出来たら第2フェーズに移る。第2フェーズは敵の機動力を奪う事を目的とする。」


「具体的には?」

ボンと呼ばれたドワーフが聞いてきた。


「通常俺が戦う時は相手の足の腱を断ち切り機動力を奪うのだが、お前達もそうするか?」


皆大きくかぶりを振る。

(そうだろうな。腕力はありそうだが、敏捷性はなさそうだ。)


「ならば、オーガの足下に土魔法で穴を空けてくれ。」


「どのくらいですか?」

またもやボンが聞いてきた。

(こいつがこの集団のリーダーか?)


「相手の腰が埋まるくらいで良い。腰位置がこれぐらいで、相手の横幅はこの位だ。」

手で高さを示し、地面に胴の断面図を描いた。」


「因みに一日何回位この大きさの穴を掘れるもんだ?」


「三回程度です。」


(単純計算で36匹は狩れるという計算だな。)


「ありがとう。なら今日はオーガ討伐24匹を目安としよう。」


「……」


(少なすぎた……かな?まあ、初日だしこれぐらいで良いだろう。)


「そして第3フェーズ、オーガの目の部分にミスリル屑をぶちまけてもらう。これはサポート役にお願いしたい。知っての通りミスリル銀は魔物にとって劇薬だ。


なのでオーガはかなり暴れると思ってくれ。

特に振り回される腕に注意するように。」

皆一様に頷く。


「第4フェーズは、オーガの口中に魔石を投げ込み爆発させる行為だ。大概痛みのあまり咆哮を上げているから、隙を見て放り込めば良い。」


「咆哮を上げてこなかったら?」


「そのために腰のものはあるんだろう?戦士諸君。」

俺はニヤリと笑った。


「抉じ開けてやれ」



「それではまず最初にローテーションを決める。サポート役の6人はここに並んでくれ。まず一人目『穴堀役』、二人目『目潰し役』、三人目『魔石放り込み役』とする。

この三人一組でオーガ一匹を完全に屠るよう心がけてくれ。」


「一匹倒した後は?」


「一人ずつ役割をずらしていく。すなわち二人目が『穴堀役』、三人目が『目潰し役』、四人目が『魔石放り込み役』になる。これを六人が全役経験するまで続ける。」


「了解。」


「攻撃役は何をするんだ?」


「一人一匹攻撃を行う。

オーガを倒したらサポートと同じく、次の仲間とスイッチだ。


攻撃役に頼みたいことはただ一つ

『オーガの口をこじ開けろ』だ。

繰り返せ」


「『オーガの口をこじ開けろ』」


「『オーガの口をこじ開けろ』」


「『オーガの口をこじ開けろ』」



「方法は問わない。口にナイフを突っ込んでこじ開けるもよし、ミスリルの粉を口に流し込んで開かせるのもよし、

過程は一切問わない。分かったな。」


「イェッサー」


「よしいくぞ」


「おおっ~!!」

声援が上がった。


(よし行ける!!)

そう思って階段を降りようとした時だった。


「ちょい待ち。」

後ろから突然声がかかった。

振り向くとヤル、ゼリス、ミュルガがいつの間にか小部屋に来ていた。


「隼人お前ドワーフを集めて何をおっぱじめようとしてるんだ?」


「何って?オーガ狩りだが?」


「闘いの素人をこんだけ集めてか?

オーガの討伐ランクはお前に教えてやったろう?」


「勿論承知の上だ。」


「お前一人が特攻してぶっ倒れるのはまだ分かる。ただ、周りを巻き込むのはどうなんだ?」


「ヤル、これは俺が頼んだ話だ。そしてここにいる連中はリスクを承知の上志願して集まっている。」

そうボロスが言い切る。


「……なら敢えて何も言わん。

ただな、だとしたら聞いておきたい。

お前らドワーフの本当の目的はなんなんだ?

命のリスクを犯してまで、オーガを狩るのは何も単に『魔石集め』だけが目的じゃああんめぇ」


「…………」


しばしの沈黙の後、ボロスが口を開いた。

「氏族長は何もヤルに言っていなかったのか?」


「この鉱山にいるドワーフ氏族全員が落盤で死んだように見せかける為、鉱道を崩落させるとは聞いている。

そして崩落させるに当たっては魔石を使うが相当数必要で、魔石を集める為我々の力を借りたいとも聞いていたな。」


「崩落させた後のことは?」


「崩落させたあかつきには、土魔法を駆使しここから逃げだすと聞いている。俺が聞いたのはそれだけだ。」


「その時、我らが先祖がどうやってこの地にたどり着いたかとかの話はなかったのか?」


(そうだ……確か……ロッキングチェアの男の話を聞いた時……)

彼の言葉を聞いて、俺の頭の中で話が繋がった。


「ベロウニャは確か『我らの先祖は地下を通り、リザードマンの里、オーガの砦を抜けた後、ゴブリン溜まりを越え、そして新天地へとたどり着いた。』


そう言っていた…………はず」

そう俺は呟いた。


「確かに爺様がそんなことを言っていたな。」

ヤルが思い出したのか頷く。


「初めは鉱道を崩した後、少し離れた場所まで土魔法を使って新たに道を掘るつもりだったのだが、小部屋(ここ)を教えられてから作戦を改めたらしい。」


「何故?」


「土魔法で道を掘る労力、例えそれで出口を繋げたとしてその後どうする?」


「なるほど……帝国領内を人の目を避けながら移動しなければならないか。

人数が人数だ。

並大抵の苦労ではすまないな。」

なるほどとヤルが頷いた。


「それに、知っての通りここは山の中腹でしかない。同胞の地へ向かう為には山を越えねばならないが、女子供もいるのでそれは避けたい。

ならば、大きく山道を迂回して反対側に回り込むしかないのだが、道は平坦ではないから、どの程度の旅程が必要とされるか……

兵站の手配だけとっても難問は山積みだ。ならば……」


「多少リスクを負ったとしても、過去自分たちの祖先がたどった道を選んだ方が良いと……

なるほどな。」


「ああ。だから、オーガの集落を越えるだけの能力を俺達はつけなければならないんだ。


オーガ集落を越えることが出来ればリザードマンの生息地はなんとかなるだろうと踏んでいる。」


「そうだな。討伐ランクもリザードマンはオーガより低い。」


「一方で、魔石の確保も変わらず必要だ。そちらの方は、ヤル手伝ってくれないか。」


「まあ、貰うもの(ミスリル)貰えれば、こちらとしては文句ない。


俺らはお前らの同胞の地に行く気なんぞこれっぽっちもないからな。

崩落前に稼げるだ稼がして貰っておさらばさせてもらうぜ。」


「ああ。魔石収集が終わったら地下で保存してあるミスリルは好きに持って行ってくれ。ただ……」


「ただ?」


「老婆心ながら言っておく。『あまり欲張り過ぎるなよ』」


「せいぜい聞いておくぜ。俺達も帝都に戻ってからのギルド再興資金は必要なんでな。もちろん貰う分だけの仕事はするから心配するな。」

そうヤルは笑って言った。



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