秘密

「ところでお主、今日からどうするんだ?」

とベロウニャが心配そうに聞いてきた。


「どうするかと言いますと?」


「今日からノルマが二倍となるのじゃぞ?普通なら絶望するところじゃ。」

何を暢気そうにと言う顔をベロウニャはした。


「まあ、何とかなります。」

と俺は答えた。

(余裕はあまり無いがなんとか行けるだろう。)


ほんとか?という顔でベロウニャはヤルとゼリスの顔を見た。

二人は顔を見合せた後、頷いた。


「だとすると……厄介だな。」

とベロウニャが言った。


「厄介ですか?何とかこなせると思うのですが?」


「こなせるから……逆に厄介なのじゃ。

赤チョッキはワシらからの嘆願と代官よりの命令で、直ぐにお前の命を断つことは出来なかった。

やつとしては口惜しく思っているに違いない。まあ、やつの性格からして、口惜しいの比ではないだろう。


そして今、公に断罪出来ないと知ったやつは敢えてこなせない量の仕事をお前に与えることによって、その歪んだ欲望を満たそうとしている。

早晩、お主が音を上げて死ぬだろうと考えている筈じゃ。


一度お主を助けたことで代官への筋は通っておる。


あとは『お主に生き延びるチャンスは与えたが、その後そのチャンスをお主が生かせたかまでは知らん』で通せば良いと考えている筈じゃ。


話を戻そう。もし、お主が音を上げず、淡々とノルマをこなしたとしたらやつはどう思う?」



「まあ、面白くないでしょうね。」



「粘着質なやつのこと、まあ腹が煮えたぎるぐらい怒るだろうな。そしてどうすると思う?」



「ノルマを3倍にするとか?」



「恐らくそんなバカなことはしないだろう。そんなことをしたら流石にワシが怒るだろうとやつは計算する筈だ。やつは、歪んではいるが馬鹿ではない。」



「では?」



「難癖をつけお前を殺そうとする筈じゃ。皆の前で公開処刑と言う形でな。」



(なるほどあり得そうだ。)



「数日ほどでお主が音を上げなければ、何らか動くに違いあるまい。

何か理由を付け、処断をする方向へと話を進めるだろう。

おそらく、次の奴隷への、見せしめ役として散々いたぶって殺すのではないか?」



「だとすればいつ頃でしょうか?」



「奴隷市が立つのが7の月の頭のはずだから、その月の中盤前後となるだろう。」


(あと、3か月弱の命ってところか。)


「それまでワシも可能な限り動いてみるが

奴の性格を考えると事態をひっくり返すことは多分出来まい……

もしお主が最後の最後を自由の身で全うしたいと思うなら、最後の薬を用立てするが……」


「薬ですか?」


「薬はあくまで最終の手段だ。

少なくとも身体中をかきむしるような痛みは感じずに済む。」



「…………」

重苦しい雰囲気が辺りを包む。



「必要ありません。」



「そうか。」



「…………」



ここまで話してベロウニャの人となりが

大体分かってきた。


(ベロウニャは信頼できそうだ……。

ドワーフの中でも、それなりの発言力もありそうに見える。よし、賭けてみるか。)



「もし……」



「ん?」



「『もしも』ですが……

あの虫より解放される術(すべ)があるとしたら、どうされますか?」

そう俺は訊ねた。



ベロウニャは一緒ポカンとした顔を見せた後険しい顔をし、殺気を放ってきた。明らかに怒っているのが分かる。


(殺られる……)

一瞬そう感じられるほどの殺気であった。

背丈は中学生程度とは言え、腕の太さは若木並みにある。殴られてただで済むとは思えない。


「ここで、その手の話をするな。あまりにも不用意過ぎるぞ。例え仮定の話だとしてもだ。」


俺は必死に頷いた。俺の必死さが伝わったのか


「分かったな。」

それだけ言うとベロウニャは睨みつけるのを止めた。


その途端一瞬でその場は元の空気に戻った。


(こぇえ…)


殺気を込めたのはあくまでも俺に対する警告に過ぎなかったようだ。


(でもベロウニャは何故、ここまで怒ったんだ?)


「すまん、そいつには悪気はない。『迷い人』だからこの世界の常識が無さすぎるだけた。許してやってくれ。


それと隼人、何か話す時は、良く考えて話せと言っただろうが。」

とヤルが口を開いた。


(俺としては良く考えた末の発言だったのだが……)


「良く分かっていない面をしてやがる。

しかたがない。ベロウニャのじい様、

ちょっと時間を貰えるか?」


ベロウニャが頷き、そして俺達は移動することとなった。


◼️□◼️□◼️□◼️□


カチリ……

『秘密の小部屋』の前まで移動し、

ドアを開け、全員で中に入る。

ランプを点けたところで


ベロウニャが

「おおっ」

と声を上げた。


「ここでなら、まあ聞かれる心配はねぇ。」

そう言ってヤルは俺の頭をポカリと殴ってきた。



(???)



「ポカンとした顔しやがって……

ホント自覚の無い馬鹿につける薬はねぇな。


後で詳しく説明してやる。

その前に……

ベロウニャのじい様。先ほどは悪かった。」

そう言ってヤルは深々と頭を下げた。


「いや、ワシこそその男が『迷い人』だとすっかり失念しておった。すまぬ。」

とベロウニャも頭を下げた。


「隼人理由を説明する前に、お前に質問だ。

この鉱山の支配はどうやってなされている?

そして何故俺達は赤チョッキに従わなきゃならないんだ?」

とヤルは問うてきた。


「この鉱山の支配は寄生虫による恐怖支配によってなりたっているんだろ?

そして俺達が赤チョッキに従っているのは赤チョッキが俺達の殺生権を握っているからだ。」


「そうだ。どうやらそこまでの馬鹿では無さそうだな。」

嫌味を込めてヤルは言う。


(そうか。寄生虫を身体から排除できるってことは、赤チョッキの支配を根幹から崩すもの……。そうか……)


「奴隷の中に、もしかして内通者がいるのか?」

そう俺は質問した。


「お前……今さらその可能性に気がついたのか?」

そう言ってヤルは凄く呆れた顔をした。


「お前が元いた世界ってのは、よっぽどお目出度い所だったんだな…………


内通者なんているに決っているだろうよ。

ここでの待遇をほんの少し良くしたいが為に仲間を売るやつなんぞ、そこら中ゴロゴロいるわ。


大体『ばくろう』なんて美味しい役目を

赤チョッキが設けたのか、考えたことはないのか?」



「無い。」

と俺は素直に答えた。



「そんなもん、裏切りを推進させる為に決まっているだろが」

そう言ってヤルは頭を抱えた。



(元の世界でも、つい近年まで近所同士の密告を推奨する制度を取っていた国もあったな。子が親を密告するよう学校で洗脳していた国ですらあったと聞く。)


「まあ、いい。お前でも分かるように教えてやる。」

多少偉そうにヤルが話始めた。


「お前がやろうとしたことを簡単に言えば……


『どこの誰が聞いているか分からない場所で、ドワーフの重鎮相手に反乱を持ち掛けていた』ってことだ。

こういうことは、実際『計画していた』かどうかじゃない。

例え噂であろうと、『リスクがある』と赤チョッキが判断すれば、関係者全員の皆殺しを決断するだろうよ。


それをドワーフ一族を纏める五体老の一人、ベロウニャじいさんに持ち掛けるなんぞ

『どこの気狂いかってことだ。』

もし密告でもされてみろ、

お前だけじゃねぇ。ベロウニャのじい様の一族全員が処刑されうる話をお前はしたんだぞ。」


(流石にそんなバカなことはしないんじゃないか?


鉱山の働き手の中でも一番重要な『ドワーフ』を一族郎党抹殺するなんて……)



(何か腑に落ちない……。

もしかしてヤルはまだ全てを語っていない?


そんな気がする……)



「あっ……」



そこまで考えて、

俺はこの問題の核心に気付いてしまった……




「すみませんでした。」

俺は改めて頭を下げた。


「急にどうした?」

とベロウニャが驚く。


「俺が話した事がどんなに危うい内容なのか、今さらわかったんです。


この『寄生虫による支配』は、この鉱山だけで行われていることじゃない……んですよね?」

と俺は確認した。


「そうだ。やはりそんなことも知らなんだか……」

とベロウニャが溜息をついた。


「この世界に落ちてきてすぐ役人によって鉱山(ここ)へ送られた為、いろいろ常識が欠落しているのは自覚しております。」


「まあ良い。知らぬのであれば今から覚えていけば良いのじゃ。

『その駆除方法を知っている者』、若しくは『知っていると思われる者』の存在を帝国は許さない。

この国では、そのような者がいたって話だけで地図上から消えた都市もあるくらいだからな。」

とベロウニャは先程とはうって変わった

優しい口調で語った。


「まあ、大都市の近くなら『疑いがあるだけ』では即抹殺とはならないのだが、

ここみたいな所ではそこの責任者の考え一つに委ねられている。言わば赤チョッキの胸先三寸で決まるってことだ。」

とヤルが続けた。


「考えが浅いと言われてもしょうがない

。すみませんでした。」

俺は再び頭を下げた。


「『知らなかった』で許されることも確かにある。でもな。『知らなかった』では済まされないことの方がこの世界では多くある。だから死にたくないのなら頭を使え。

『知らない』はここでは『罪』

その代償は時に命で払う事になる

と覚えておけよ。」

とヤルは普段とうって変わって

真面目な口調で語った。



(この世界の常識、少しでも覚えていかねばな。)



「ヤル、一つ教えてくれ」



「なんだ?」



「何故、大都市では『疑いがあるだけの者』はすぐに断罪されないのだ?」



「分からない事を知ろうとするその姿勢は良いことだが……」



「『自分で考えろ』ってか……」



(…………)



「ヒントをくれ」




『はあっ』とヤルはため息をつき、ヒントをくれた。


「お前がこの世界に来て初めてあった者は誰だ?騙されたんだろ?そいつらに。」



(あああっ)



「心読み(ヒュプノス)か。」



「そう。『心読み』と『蟲使い』この2つを上手く利用して帝国はその広い領土を支配しているって寸法だ。」


(成る程な……)



「で?……だ」



「???」



「ここには身内しかいねぇ……。

さっさとしゃべりやがれ。」

ヤルが焦れているのが分かる。



「それは……」


「まて……。お主はその『蛭の退治方法』を本当に知っておるのか?」

黙っていたベロウニャが突然口を挟んだ。



「はい。多分…………」



「だとしたら軽々しく話すべきではない……

このメンバーのうち誰かが、例えばワシがお主を殺して秘密を一人占めするとは考えないのか?

それだけの価値がある情報だぞ。」



「これっぽっちも考えていません。」

と言って胸を張った。



「俺が信頼すると決めた方ばかりです。それで裏切られるなら、俺に見る目がなかったまでのこと。



それに……。

ここにいるメンバーは言わば命の恩人です。

その恩人を信じられないのなら、他に誰が信じるに値するのかってことですよ。」



「だとしても、知っているものの数は減らした方が良い。」



ヤルも頷いた。

「そうだな。ゼリス席を外してくれ。」



ゼリスはそれを聞いて渋々といった感じで部屋を退席した。

ゼリスが小部屋を出たのを確認した後、俺は話始めた。



◼️□◼️□◼️□◼️□


「今現在俺の身体から寄生虫はいなくなったと思う。」



「何故『いない』と断言しないんだ?」

とヤルが突っ込みをいれた。


「それは、おれ自身で体内から出た蛭を見ていないから……。見ていないものを断言するほど自信家じゃない。でも……」



「『いない』と信じるに足る根拠が何かあるのじゃな?」

とベロウニャが助け舟をいれた。


「俺を助けてくれた恩人が、『体内から這い出てきた蛭を気持ち悪かったので踏み潰した』と言っていた。」


「そいつは何者だ?何か理由があってお前を騙しているとかないのか?

普通、奴隷をただで助ける『奇特なやつ』なんていない筈だ。」


『薄気味悪いぜ』とヤルは言った。


「それはない。というより、奴隷なんかを騙して得する理由なんてないだろう?」


「確かにねぇが……」


「大体俺が話すまで蛭で俺達奴隷が使役されていることすら知らなかったし。

『山蛭だと思ったので潰しました』

これが俺の体内に巣くっていた蛭を潰した時の彼女の言葉だぜ?」

と俺は笑った。


「彼女?女なのか?

お前が居なかったのは、せいぜい1日ちょっとだよな。この世界でお前に面識がある奴がいるとは思えんし……

知り会って間もない筈なのに、何故そんな簡単にその女を信じられるんだ?

それに……いくら山の中とは言え、ここは帝都から僅か10日程度のところだろうが。

蛭の事についてまるっきり知らないなんてこともあり得ねぇ。明らかに不自然だ。」


(『自分と身内以外信じるな』って言うのがこの世界の流儀だったな。ヤルの反応の方が普通か……)


「彼女が『迷い人』だったとしてもか?」

俺が言葉を足す。


その瞬間ポカンとした顔をヤルはした。


そして

「それを早く言え。」

と突っ込みを入れてきた。


「お主が、口を挟める間もなく、話してたように見えたが……」

横でベロウニャは呆れ顔をした。


「ともかく彼女は『迷い人』だった。しかもおそらく俺と同じ世界からの……。

子供の時分に転移して来て、下の村の住人に拾われたと聞いた。

その後良いように使役されてきたみたいだがな。

俺はそこの家の者によって代官に密告されたんだが捕縛される際、彼女が『迷い人』だと証明して保護してもらったんだ。」


「そのタイミングでお前自身も『迷い人』と話して保護して貰うとか、蛭から解放されたんだから隙をみてその場から逃げるとかすれば良かっただろうに……」


「まあ、確かにそれも一瞬過(よぎ)ったが。」

と俺は笑った。


「実際、ここに連行される間にも隙はいくらでもあったしな。ただ……

ただ、世話になったお前達を置いて一人だけ逃げるのも違うと思ったし……。

せっかく退治方法が分かったのだから、ここの皆を助けてやろう思った。」


「本当、お前ってやつは…大馬鹿野郎だな。」

そう言ってヤルは何とも言えぬ顔をした。


「でも、お前の話が事実だとしたら……

不味いぜ、じい様。」



「ああ不味いな。」

とベロウニャも頷いた。



(何か不味い事を俺は言ったか?

追加で話した内容と言えば……

助けてくれた相手が同郷の者だったってことと、彼女が蛭を潰したことか? 


あっ…)



「確かに不味い。彼女を助けにいかないと……」

と俺は言った。


「ああ、お前にも分かったみたいだな。

彼女は意識せず爆弾を抱え歩いているようなものだ。そしてそれが爆発したとしたら、我々も一蓮托生となる。」

とヤルが言った。


「彼女の為にお主が『良かれ』と思ってした善意の行動だったのだし、彼女が蛭が抜け出るタイミングに居合わせなければ、ベストの選択だったんだろう。

少なくとも村の共有奴隷として使い潰される未来よりはマシだったはずだ。だから気に病むことではない。」

とベロウニャが慰めてくれた。


「幸い自分が見たことの重要性を理解していない分、すぐ断罪されるリスクは低い。都に着くまではまず問題はないだろう。


後は……心読みによる審問がどのタイミングで行われるかだな。

蟲使いによる「蛭移し」直後であれば、

彼女の意識が嫌がおうでも蛭に向いているだろうし、そうなった時にはお前の事を思い出すやも知れん。

万が一、審問を上手くすり抜けられたとしても、『迷い人』の周りには心読みが必ず配置されると聞く。


秘密がバレるのは時間の問題だと思って動いた方が良い。」

と冷静にヤルは分析した。


「時間が惜しい。

『駆除方法』をこれから教えるから、それぞれで実際にやってみてくれ。

俺は彼女の後を急いで追う……」


『パシン』

ヤルに横っ面を張られた。


「落ち着け。気持ちがはやるのは分かる。

ただお前、都へ行けたとしてどうやって城門をくぐるんだ?


そして一人でどうやって彼女の居場所を探す?


もし上手く彼女をそこから連れ出せたとして、逃げる当てはあるのか?」


「俺自身『迷い人』として保護を求めれば都入りは上手くいくかもしれない……

それからは……」


「確かにその手はあるな。で……?

肝心の『心読み』はどうやってクリアするんだ?

『やましい事や隠し事がないか?』

と聞かれて蛭のこと隠し通す事が出来るのか?


彼女を助けにいった挙げ句、共倒れになるのが落ちだと思うが。」


「それなら今から代官達を追いかけ、都に着くまでに彼女を確保する。」


「まあ、その方法も否定はしねぇ。でもお前土地勘あるのか?試しに都の方角指してみろ。出来るか?


それに帝都までの道も途中からいくつか分岐する。お前にどの道で行くのか分かるというのか?」


そう言われ、俺はぐうの音も出なかった。


「ふん。俺達をもっと頼りやがれ。こっちのケリがついたら、全面的に協力してやるよ。俺のギルド総出でな。」

そう言ってヤルが笑う。



「じゃあ蛭退治をさっさと終えて皆で自由になろう」



「おう。」

俺たちは頷きあった。



一旦休憩を挟んだ後再び話を始めた。


「実は最初に一言言っておかなきゃならない事がある。」


「なんだ?」

ベロウニャとヤルが揃って聞いてきた。


「蛭の駆除についてだが…

実は大きなリスクがある。」



「どんなリスクだ?」

ヤルが『やはり』と言う顔をし、先を促した。



「……死のリスクだ。」



「多少のリスクは取らなきゃならないと想像していたが……」

とヤルは渋い顔をした。


「ワシは構わんぞ。かまわないから教えてくれ。」

とベロウニャは言った。


「お主は『迷い人』故(ゆえ)にこの地の歴史に詳しくなかろう。

どれだけ我らドワーフがこの蟲よりの解放を望んできたか……


鉱山(ここ)にいるドワーフで死を恐れる臆病者はおらん。

卑劣にも王の一族を人質に取られ、この地をゼイザックへ明け渡すことになって早200年。


我らが耐え忍んだこの屈辱が晴れるならば、命なぞ喜んで我らが神『へパス』へ供するぞ。」



(決心は固そうだな……)


「退治に必要なこと、それは『低温の水に浸かり、体温を死ぬ極限まで下げる。』

これだけです。」

俺は言い切った。


「なんと……    

そんな簡単なことで、退治が出来るとは……」


「おそらく、生体反応がなくなった時点で宿主が亡くなったと蛭が勘違いし、新しい寄生先を求め身体から這い出て来るのだと思います。そこを駆除し、蘇生作業を間髪おかず行えば……駆除できる筈です。


この時期の山水は春先とは言え温度は低い。まだギリギリ駆除は可能だと思います。

ただ心肺停止ギリギリまで体温を下げる必要があるので、蘇生のタイミングによっては……」


「『死ぬ可能性も有り』……という訳じゃな。

まあ、良い。今夜より早速決行じゃ。

まずワシから行って士族の者に範を垂れることとしようぞ。

そうと決まれば……準備じゃ準備。

忙しくなるぞい。結果については3日後、この場所で……」

そう言ってベロウニャは駆け出していった。


「おいおい、600人からのドワーフ鉱夫すべてを3日間で終えるつもりかよ……。」

『すげぇな……』とヤルは呟いていた。


「ヤルの仲間はどうするんだ?」


「恐らく、その方法を聞いてすぐ踏ん切りがつく奴が2割。時間を置いて後4割が追随ってところか。あと2割はまあ、ドワーフの成功率次第ってところだ……。」


「残り2割は?」


「場合によって、俺達を裏切るかもしれない。」


「何故だ?」


「まず『死ぬかどうかの賭け』をしなきゃならないってのがある。

その上、自由になってどうする?当座の金もねぇ。仕事は?

シーフに戻っても苦労するだけだ。


鉱山労働は確かに嫌だが

俺達を売って『ばくろうにでも取り立てもらおう』って夢見るやつはまあ、出てくるだろうな。」

とヤルは答えた。


「『蛭の退治方法』を知った奴を生かしておくほど赤チョッキは甘いのか?」


「俺の仲間が全て賢い訳ではない。

『もしかして?』って思う余地があるだけでも飛び付きかねない奴もはいるってことだ。」

とヤルは言った。


(いずれにせよリスクは残るってことか。)




「で、ヤルはどうするんだ?」




「俺はドワーフ共の結果を見てから動くさ。『勇気』と『蛮勇』は違うからな。」

(ヤルらしいな…。)



「どうせメンバーのグループ分けは、頭の中で済んでいるんだろう?」


「まあな。ドワーフ共の結果次第で、すぐ動けるようにはしておくつもりだ。」


「そうか。それまでは?」


「お前はノルマにかかりっきりになるだろうから一緒に動けないだろ?

俺はゼリスと共に武術の練習でもしておくわな。」



「そうか……」



「精々ノルマがんばれよ。

俺はちょっと寝てくるわ。誰かのおかげで昨日殆ど寝てないからな。」

そう言って手をフリフリ振りつつ奴は消えていった。





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