鍛錬
ゼリスの位階が上がり、格段に周回が早くなった。魔石のノルマはすでに終わっており、がつがつと狩りを行う必要は最早ない。
そこで二人と相談し、お互いの能力を向上させる為に修行の時間を取ることにした。
最初は俺が講師となることにした。
「俺が習得した武道は基本4つの要素からなっている。」
「4つとは?」
興味津々といった感じでヤルが聞く。
「捌き、崩し、極めの3つに『乗せ』だ。」
「『捌き』というのはそうだな。」
言いつつヤルを見る。
「そのナイフで俺を切りつけてみてくれ」
「良いのか?」
「ああ。」
ヤルが躊躇(ちゅうちょ)なく俺を切りつけてきた。
俺は右足を前に半歩踏み込み、半身になり攻撃をかわす。
そしてすれ違いざま右腕でそっと背中を押す。
「とっととと」
ヤルは勢いのあまりスッ転ぶ。
「どうした来いよ」
そう煽(あお)るとムキになって切りかかってきた。
数度俺に切りかかったものの、当てられないと分かったのか、降参だと手を上げた。
「この様に相手の勢いを反らすことを『捌き』って言う。」
「『崩し』はそうだな。ゼリスちょっとここに立って踏ん張って見ろ。」
ゼリスを立たせ踏ん張らせる。
「よっ」
ゼリスは
「あっ」
と膝をつく。
俺がやったのは所謂(イワユル)「膝カックン」だ。
「踏ん張っている力の向きをこのように崩すと脆いもんだろう?」
と笑う。
「まあ、今のはお遊びみたいなもんだ。
力に対し、真っ正面から力で受けたらダメージを受ける。」
「力の入っている中心点を意識的にずらしてやれば簡単に相手のバランスを崩すことができる。これが『崩し』だ。」
「悪いがヤル、俺の後ろから思いっきり締め付けてくれ。俺が抜け出せないようにな。」
「思いっきりやって良いのか?」
「ああ。」
顔を真っ赤にしてヤルは締め付けてきた。
「いいか?見てろよ」
ゼリスが見逃すものかと言った感じで凝視する。
「はっ」
と言う掛け声とともに俺は抜け出した。
「何故だ?」
「力の向きを崩した。」
キョトンとした顔をヤルは浮かべる。
「いいか?今ヤルは締め付けようとした時、右腕と左腕どちらに力を入れた?」
「どちらもだな。同じ位に力を込めたと思う。」
「そうだな。力の向きは左右で均衡している状態だった。」
「俺がどうしたかと言うと、抱きすくめられている両腕のうち右腕に力を入れ、左腕の力を抜いたんだ。そして腰を落とすことで抜け出たんだ。」
「物は試し、実際にやってみろ。」
そう言い俺はヤルを後ろから締め付けた。
「先ずは両腕に力を入れて抜け出れるかやってみろ。」
勿論ヤルがいくら力をかけても抜け出ることは叶わない。
「じゃあ今度は右腕だけ力で抗い、左は力を抜け。そして腰を落としてみろ。」
やった途端ヤルは俺の拘束からスッと抜け出る。あまりに簡単に抜けでれたことにヤル自身がびっくりしていた。
「これが『力の向き』を『崩す』だ。他に『相手の重心』を『崩す』などがある。」
「次はゼリスだ。来い。」
「俺もやるのかよ?」
「当たり前だ。」
筋が良いのか、ゼリスはすぐ感覚的に理解した。
「次は『極め』だな。人間の身体には間節と言われる骨と骨をつなぐ場所があり、一定の方向に曲がる様になっている。」
そう言って肘や手首、膝の関節を指で差し示す。
「ここをこのように捻ると、力を入れなくとも……」
「あいててて。」
ヤルが涙目になる。
「効率的に破壊することが出来る。これを『関節』を『極める』と言う。」
「最後に、『乗せ』だな。これは簡単に言うと自分の体重を有効的に使う事を言う。
女性やゼリスみたいに非力な子供だと、体格の良い男には力ではまず敵わない。なので自分の体重を上手く攻撃に載せることによりカバーをするんだ。体重の乗せ方については後でレクチャーする。」
実際元いた世界だと、武術に限らず介護などの現場でも体格の良い老人を非力な女性が自分の体重を使い、ベッドから起こすなど行っている。
「説明はこれで終わり。後は練習だ。」
「まずは基本の構えからだな
足を肩幅より少し開き、爪先を外にむけ腰を落とす。力は全体的に脱力するように。これを自然体と言う。」
やってみろと言うと二人は意外と素直に従う。
「ああ、そうそう。ヤルは足をちょっと開きすぎだな。ゼリスは形はオーケーだが全体的に力が入り過ぎる。重心は真ん中で良い。」
手取り足取り、矯正する。
「これがすべての立ち方の基本となる、自然体だ。」
「そしてここから、右足を前に出し。身体を相手から見て斜めになるようにする。顔は常に真っ正面な。」
「これは半身と言って捌きの基本となるからしっかり覚えろ。」
「なせ自然体じゃなく、半身が捌きの基本となるんだ?」
ゼリスが尋ねる。
「それはだ。この体と」
右半身にする。
「この体」
引いて自然体となる。
「攻撃する側だとどちらが当てにくい?」
「なるほど。」
とゼリスは頷く。当てる面積は半身だとその名の通り半減する。
「足の重心はどこに置くんだ?後ろ?前?」
とヤルが聞いてきた。
「右足だ。踏み出す方に軽く重心を置く。」
剣道等と違ってうちの流派は後ろではなく前に重心を置く。
「これを右半身と言う。逆に左足を前に出したら左半身だ。右半身から自然体、自然体から左半身。これを繰り返し練習だ。」
「ああ。(はいっ)」
と二人から声が飛んだ。
◼️□◼️□◼️□◼️□
「なあ、隼人。これをいつまで続けるんだ?」
修行をはじめしばらくしてから、ヤルが音を上げた。ゼリスは黙々と続けてる。
「飽きたのか?」
「いや、ちょっと、いつまで続けりゃ良いのか先を知りたくってな。」
「そりゃ身体に完全に馴染むまでだ。」
そう言うとやれやれという顔をされる。
(この世界は加護だの位階だの簡単に強くなる方法が多すぎる。それだけで良いところまで行けてしまうから、基本が疎かにされ易いんだな。ある意味しょうがない……か)
「よし、じゃあちょっと練習方法を変える。ヤル、ゼリスこの位、拳より少し小さめの石をなるべく多く集めて来てくれ。」
そう言った。
目先が変わると思ったのかヤルは嬉しそうだ。
俺は道場で子供らを教えていた時にやっていたミニゲームをすることにした。
(もっとも通常は石ではなく、テニスボールだが。)
30分後、結構な石が集まったので、
新たな練習を開始する事にした。
「はいっ」
「はいっ」
「はいっ」
とテンポよく、ヤルに向かって石を放る。
左右に振り分けてだ。
「この程度なら余裕よ。シーフを舐めるな」
「分かった。ちゃんと半身を保てよ。」
そう言いつつスピードを上げた。
「ちょっ、ちょっまて。待てって。痛い、痛い……」
すぐに音を上げはじめた。
「敵は待ってはくれないぞ。石一粒、一粒が敵の拳だと思え。
それにしゃがんで避けるな。
あくまで、半身で避けろ。」
泣きが入ったので、それから暫くして止めた。
「次はゼリスだ。」
ゼリスはヤルほど位階が上がっていない為、緩めにする。
「隼人、手加減するな。ヤルの兄貴と同じようにしろ」
「分かった。ただ泣き事は言うなよ。それと自分の実力を見定め、無理だと思った時は止めろ。」
結局、ゼリスは自分から止めるよう泣きつくことはなく、途中でヤルが止めに入るまで続たのであった。
「この練習を毎日数時間二人で練習してくれ。」
そう言ってこの日の練習を終わりにした。
■□■□■□■□■
それから数日二人きりの練習が始まった。
二人ともシーフである為、敏捷性や器用度が高く習熟のスピードは早い。
(時々覗くだけで暫くは良いか…)
そう思ってノルマの合間あいまに二人の様子を覗く。
彼らが練習場所としてるエリアでは今日も朝から騒がしいやり取りが聞こえた。
もっとも騒がしさの源はほぼヤルだが。
「おいゼリス、ちったあ手加減しやがれ。俺はお前らのように特攻なんてしないんだからよ。」
「兄貴ここは迷宮だ。例え特攻しないにしても安全な場所などないと思う…
後ろから攻撃を受けるとか予想外のことだってあり得ると思う。せめてこれくらい躱せるようになるまで頑張ろう。」
そう言ってゼリスがヤルを励ましている。
(どっちが年上なんだか。。。)
ヤルも言うだけ言った後はおとなしく練習に励み始めた。
それだけ見届けると俺は俺で自分の課題に取り組む為、別の場所へと移動していった。
ーーーーーーーー
遡ること数日、俺はヤルにシーフの技のレクチャーをお願いした。
「勿論オーケーだ。約束したしな。ただ前にも言った通り、加護関係は俺は習得するのは無理なんじゃないかと思ってる。
だから少しでも出来たら『めっけもん』だと思ってくれ。」
とヤルが言った。
「ああ、 勿論習得できなくても文句を言わない。ただ、一つ 聞いていいか」
「 何でも聞いてくれ」
「『シーフの加護』に『風魔法』があると言っていたが、シーフ以外には風魔法は使えないのか?」
「そんなことあるはずないだろう?
魔法は素養さえあれば誰でも使えるってのは常識だろうが。」
「…………」
俺は黙ってヤルを見つめる。
「ああ、そうか。お前『迷い人』だったな。」
俺は頷く。
「俺の世界では魔法の技術は廃れている。日常で見る機会などほとんどない」
(陰陽とか、いろんな文献に痕跡はあるが基本無いものとされていたからな…)
「なら知らなくて当然か。シーフの神さんの風魔法の加護は『風魔法を使用する時に補正がかかる』 といった加護だ。大体二段階程度威力が引き上げられるらしい。
そのおかげで殆ど素養が無いやつでも、シーフなら小石位は飛ばせるようになる。
まあ、今まで使えなかった奴が加護を受けた途端使えるようになったりする訳だから補正の効果は大きい。」
「なるほど。素養があれば出来るなら俺にも可能性はあるってことだな。」
「ああ。」
「ならまずはじめに『風魔法』を教えてくれ。」
「『風魔法』か。『魔法』なら、俺よりゼリスだな。何しろあいつ元は…」
「ヤルの兄貴!!」
困惑した顔でゼリスがヤルを見る。
「おおっと口が滑りそうになった。すまん。隼人も忘れてくれ。」
「言いかけてそれかよ…」
苦笑が浮かぶ。
「まあ、ゼリスにはゼリスの抱える事情があるってことさ。もし知りたいんであれば本人から聞いてくれ。」
とゼリスを指す。
「必要ない。どんな事情を抱えていても『ゼリス』は今いるところの『ゼリス』さ。それ以上なんでもない。」
と俺は話を切り上げた。もっともこの時、詳しい話を本人から聞いておいたらと後で悔やむことになるのだが……
「とにかく言えるのは、奴がしっかり魔法の基礎を修めているっていうことと、俺より教え方が上手いってことさ。」
と言うことで俺はゼリスに魔法を習うことになった。
その授業はやはりというか案の定
最初から難航した。
「隼人、まずはマナ(気)を出してみて」
「マナ(気)?なんだそれは?」
「いくら辺境出身とは言え、魔道具とか使った物はあっただろう?魔道具の起動はどうしていたんだ?」
「正直使ったことはない。」
そう言うと、ゼリスの顔に驚きと憐れむような表情が浮かんだ。
「野蛮人(バーバリアン)……」
小さな呟きが聞こえた気がした。
「魔法を行使するにあたって必要なものは大体四つある」
ため息と共に説明を始めた。
「人や動物各々が体内に有している『マナ(気)』
それから世界に数多存在する『魔素(オド)』もしくは『聖素』と言われるもの。
魔法を発動させる為の『魔方陣』
最後に発動する為の『ワード』
これら4つが組み合わさって魔法は起動する。
肉体強化魔法だけは例外で世界に干渉するものでは無い為、マナだけで済むがな。」
そうゼリスは話を括った。
(まるで爆弾のようだな。)
元の世界の爆弾を思い浮かべる。
(確か爆弾も爆薬(ダイナマイトやC4等の本体)、起爆剤(爆薬に衝撃を与える為の火薬)
点火装置(サーキットとスイッチ(電池など))からなってたはずだ。
本来爆薬事態は安定的な物質だが、
一定以上の衝撃を与えると不安定になり、大きなエネルギーを発生させることになる。その仕組みを利用したのが爆弾であったはずだ。
爆弾に当てはめて考えると…
起爆剤がマナ、爆薬がオド、点火装置のうちサーキットが魔方陣、スイッチがワードって感じだな……)
「魔方陣は呪文やイマジネーションでも代用は可能だが始めたばかりの頃はきちんと書いた方が確実だ。ここまで分かったか?」
「ああ、何をゼリスが言いたいか大まかなことは分かった。」
と俺が言った。
ゼリスは本当(マジ)か?と言うような顔をしている。
(失礼なやつだ。)
「魔方陣とワードは後で覚えるとして、マナの使い方をまず覚える必要があるってことだな。差し当たり肉体強化魔法の習得からってとこか。」
要点をまとめて言ってやる。
顔を上げると、
ポカンとした顔したゼリスがいた。
(失礼な奴め。)
しばらくマナを出す練習をした後
「理屈の上では分かっても、実践は無理みたいだね。」
そうゼリスに駄目出しをくらった。
(どうやら俺はマナを上手く使う才能が無いらしい…)
「手から光が出るのをイメージして。それだけで少しはマナが流れ出るから。」
そう言われたが、そのマナとやらが一向に出る気配が無い。
(まあ、魔法のまの字も使わない世界から来たんだ。すぐできる方がおかしい…さ。)
ゼリスによると、体内でマナを動かせるようになるのが最初のステップでそれが出来て始めて次の段階に移れるそうだ。
最終的には外に放出する為、動かせるようになったマナを身体の中で練って出力を上げる必要性があると言っていた。
練る為には身体中にマナを巡回させる必要があり、その為にはイメージが重要だと言う。
実は俺が元の世界で所属していた流派でも
気を丹田(タンデン)に集めるという修行がある。そのおかげでお腹に気を溜めると言うイメージを持つのには違和感はない。
宇宙から気を集め吸気と共に腹に気を落とすそのイメージはすでにあるのだ。
ただ、いかんせん身体のあちこちにマナを周すと言うイメージは持てなかった。
「イメージしづらい」と言うと、
「焦らず先ずは身体の中心線を、マナが周ることを思い浮かべて見よう」
そうゼリスは言う。
「まず足下に大きな白い光球を思い浮かべて、それが上に向かって上がっていく感じをイメージするんだ。
あわせて息を吸って…
そうそう。今その光球が背中を通り……」
「??通っていないが?」
「イメージだよイメージ」
「そして頭の天辺に到着した。イメージオーケー?」
「???」
「そこから今晩は身体の前に沿って流れ落ちる感じ。ここからは息を吐いて」
「?」
「額の間を通り……喉を通り……胸……腹……
急所……足」
「これを毎日毎日繰り返せば、イメージにとともなってマナが多少なりとも動くようになるはず。イメージを自由自在に操れるようになったら言ってくるように。」
とゼリス先生はのたまわった。
その日から俺はイメージの特訓をそれこそ寝る間を惜しんで繰り返すことにした。
(魔法とやらを使ってみたいしな。)
そして1ヶ月後
俺は自由にイメージを操ることが出来るまでに至った。
「そろそろイメージが出来るようになったんじゃねぇか?」
と頃合いを見てヤルが聞いてきたので自信を持って頷く。
「身体のどこにでも、白い光球をイメージできるようになった。」
「じゃあマナが動くか試してみよう。」
とゼリスが言った。
頷く。
「どうすれば良い?」
「手に光球が現れ輝いている状態をイメージして。」
「簡単だ。」
と俺は言った。
ヤルは俺の手のひらに手を重ねた後合図をする。
「さあ、始めて良いよ。」
「おおっ」
「始めて良いってば。」
「始めているぞ。」
俺は一生懸命光球をイメージしていた。
「???」
ゼリスが首を傾げているのがなんとなく分かる。
「ヤルの兄貴ちょっと」
そう言ってヤルと交代した。
「さあ、イメージしてみろ」
そうヤルが言う。
俺は手のひらに大きな光球をイメージする。
手のひらから太陽みたいにまぶしい光が溢れヤルの手に流れていく様をイメージし続けた。
10分ほど経っただろうか。
「ストップ」
とヤルの声が響く。
(さあ、どうだ?)
うっすら目を開ける。
ヤルの憐れむような表情が
すべてを語っていた…
「残念だが、マナのマの字も感じらんねぇ。普通どんなに素質がない奴だって『フヨっ』ていうくらいのマナは感じられるっていうのに。」
「つまり素質ゼロってこと…?」
ヤルは申し訳なさそうな顔を浮かべ俯いた。
「残念だが、ダメもとでお願いしたこと。故にヤル達が悩むことはない。」
と俺は笑った。
「赤ん坊からだって、お前よりもっとマナを感じられるものなんだが。」
「一つ聞いて良いか?」
「なんだ?」
「この世界の住民は、生まれた時からマナを動かせるものなのか?」
「?」
「だって、そうだろう?赤ん坊が意識してマナを動かせるはずなんてないと思うが。」
「!!!!!!!!!!!!」
「それだ!(それかも)」
二人の声が響く。
「???」
とりあえず説明を待つ。
「こっちでは産まれてすぐに『経通し』を村一番の魔術師にしてもらう。
そうか『経通し』か……盲点だった。
『迷い人』であるお前の場合勿論『経通し』なんてしていないだろうからな。」
「『経通し』が何を意味するか分からないが、魔法に関する儀式なら間違いなくしていない。」
そう俺は答えた。
(大量の気(マナ)を身体に無理やり通し、気の経絡を開くってところだろうな。)
「まあ、だとすると……良いニュースと悪いニュースがある。」
「なんだ?」
「良いニュースはまだお前が魔法を使る可能性があるって事で……
悪いニュースはここじゃその手段がねぇってこと。
お前が赤ん坊なら、それこそゼリスでも「経通し」が出来る可能性はあるが、その年齢でとなると相当高位の魔術師でないと難しい。」
「ここじゃあ高位の魔術師にあてはないってことか。」
「まあ、正確には一人だけいるが……まず経通しをして貰うのは無理だろう。」
「何故だ?」
「考えるクセをちっとはつけろって言ってるだろう?」
とヤルは苦笑を浮かべる。
「対価か。」
考え答えた。
「そうだ。見も知らない……
身内ですらない奴隷の為に無償で骨を折るお人好しがいると思うのか?
世の中、聖人と呼ばれる奇特な輩がいるとは聞くが、少なくともこの鉱山にはいねぇ」
「魔石は対価にならないか?」
「お前本当に『経通し』やるつもりなのか?」
速攻で頷く。
「少しは悩む振りぐらいしやがれ」
なんとも言えない顔をヤルはした。
「まあ、幸い『経通し』ができる可能性のある魔術師はドワーフだ。
ふっかけられるだろうが魔石と交換するって条件なら可能性はある……。
もっとも1万、2万個ぐらいは……
場合によっちゃ10万個以上ふっかけられる可能性はあるがな。
それで通った挙げ句、結果は『そよそよ』程度ってこともありうる……。
今のお前の戦闘力なら魔法がどうしても必要ってこともあんめぇ。止めた方が無難だと俺は思うがな。」
「『やってする後悔』よりも『やらないでする後悔』の方が大きいって言う。俺はどうしてもトライしてみたいんだ。魔法がこの世界ならではの物ならば是非習得してみたい。
ヤル悪いんだが、早速その魔術師に当たりはつけてくれないか?
代価がどの位必要か知っておきたい。
今の15日で100個のベースで考えても、1万2万なら多分5年~10年あればなんとかなる。でも10万だったら……」
「10万だったら?」
「他の道を探す。」
「諦めるっていう選択はないんだな……」
ヤルは苦笑いをした。
「そこまでの熱意があるならアタリをとってやるぞ」
「サンキュー ヤル」
(よし、頑張ってガンガン狩るぞ。
何であれ目標があるのなら、この馬鹿げた毎日を耐えることが出来る。)
この世界に落ちてきて間もなく3年
正直色んな意味で限界だった。
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