二年

そしてあれから2年が経った……


俺が奴隷として送られた鉱山では

出口の無い迷宮(ラビリンス)に嵌まり込んだ様な毎日が繰り返される。


鉱山の仕事は完全な分業制であり、ざっくり ドワーフ(専門職)、「よごれ」、「能無し」、「さらし」、「ばくろう」の5職に分かれている。


簡単に説明すると、先ずは専門職であるドワーフ。

彼らはその能力(土魔法)を用い、鉱山迷宮の中で岩石を破砕する。専門職である為、彼らは奴隷といっても衣食住において優遇される。


また、いかに鉱山と言えども迷宮であることは変わり無く当然魔物が湧く。

それゆえ専門職であるドワーフを警護し、時に魔物を駆除する為、『冒険者崩れ』『犯罪者崩れ』の体格が良い奴隷が採掘の最前線には置かれている。

彼らは俗に「汚れ」と言われる。


そしてドワーフが粉砕した粉を袋に詰め、出口まで運ぶ事を繰り返すのが俺達「能無し」と言われる者の仕事となる。

勿論迷宮内で魔物に襲われても誰も守ってくれはしない。いわゆる使い捨てだ。


他に、粉砕した粉を川の中で浚(さら)って沈殿したミスリル鉱石を選別する女子供の奴隷「さらし」

ミスリル鉱石を集め村まで運び、売買代金を回収する役の「ばくろう」と続く。


「ばくろう」はその仕事上村人との接点もある為、役得も多く、また迷宮と比べ危険が少ない為成りたがる者は多い。ただ、成れるのは基本白人種ばかりである。


それぞれが、それぞれの仕事を淡々とこなし日常が終わる。弱い者は体を壊し倒れ、多少強い者もその身をすり減らしていく。

「希望」なぞ見えない毎日……


この日常を、淡々とこなせる精神力がない者はどうするのか?


大概は自ら命を断つか、奇跡を求め脱走を試みるかのいずれかを選択することになる。


もっとも奴隷は赤チョッキ(ザナル)の飼っている大蛭の体液を3日に一度、首筋に塗る必要性がある為、脱走が成功したとしても、結局ごく僅かな期間(すうじつ)の自由を得られるだけである。

そして最終的には、初日見せられた『見せしめの為の奴隷』と同じ末路を辿ることとなる。


だが、わずかな自由を得られ、死んでいった者はそれでも『幸せ者』と仲間内で言われる。


何故なら大概は3日と置かずに捕まり、新参者への見せしめとしてその命を終えることとなるのだから。



『ならば赤チョッキ(ザナル)を倒し、大蛭を奪えば良いじゃないか?』

そう考え、過去強奪を計画した者もいたようだが、

ザナルは日常的に大蛭を持ち歩く事はせず、大蛭は普段衛兵の監視のもとで保管されている為、武器を持たない奴隷には手を出すことはできないのが現実であった。

また衛兵は領主から派遣されている自由民であるため彼らを懐柔して手にいれることもまず不可能であった。



強奪のチャンスがあるとすれば……

見せしめのデモンストレーションの時だけ。


もっとも

その時襲おうとしても、例の大蛭の叫びにより、激痛に悶えることになるのが落ちだった。


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