WOLF’S MEMORY
@akira-take
プロローグ
心地のいい揺れと、春先の暖かな日差しが連れてくる微睡(まどろ)みに身をゆだねている所に無粋にも邪魔をしてきやがるやつの声は、無視を決め込むにはいささかうるさすぎた。
「ダンナ、いい天気ですねぇ!いやぁこんなにポカポカしてるとオイラ眠くなっちゃいますよ。けど久々に海に出たんだから、この真っ青な海原を拝んでおくってのも旅人の嗜みってもんでしょうよ。あ、そうだ、向こうで釣具を貸し出してるんですけど借りてきます?」
「うるせぇ……ちっとは黙れねえのかよ、それにいつまでついてくるつもりだ?」
「いつまでって……オイラぁダンナの子分なんだからダンナの為に死ぬまでついて行きますよ!」
この男気あふれるセリフに似つかわしくない、軽薄そうな見た目の男はピート。俺の子分を自称してずっとついて来やがる。まぁ見込みがない訳じゃあないから、とりあえずは好きにさせてはいるんだが、やっぱり一人旅の方が俺の性には合っていると今思い直した。
「大体お前、いつ子分になるのを許したよ?俺はずっと一人でやってきたしこれからもそうしたいんだがな。」
「つれねぇなぁダンナ……オイラはダンナに恩を返すまでは離れませんよ!」
「恩返しなんて要らねえよ、あれは俺の気まぐれみたいなもんだよ。俺としちゃ、こんなハンター稼業なんかから足を洗って堅気になる事を勧めるがね……」
こいつにはこの稼業は向いてない、頭が悪いし腕っ節も強くない。そんな奴を助けて気を持たせちまったのも俺だから仕方ないんだが。
「いや、オイラはダンナみたいな立派な男になりたいんです!いやぁ思い出すなぁ……カッコよかったもんなぁ。」
「くだらねえ事思い出してんじゃねえよ、まぁでもあの時のお前は今よりマシだったとは思うがな。」
「厳しいなぁダンナは、俺だってちょっとずつ成長してるはずですよ!」
どうだかな、といいつつ眠気を覚まされた俺はピートの思い出話に付き合わされる事になる。まぁどうせ追っ払ってもついて来るんだ、なら俺がこれまで出会った、本当の男たちの話でも聞かせてやるとしよう。こいつは俺を買っているが、俺が心を奪われた、心を奮わされた男たちの生き様を。
とりあえず最初はピートの話でも聞いてもらうとするか。誰に話すでもない話だが、こいつはこいつで、俺の出会ってきた男たちに負けちゃあいないからな。
調子に乗るから本人には言わないけどな。
「聞いてます?ダンナ!」
「聞いてる聞いてる……、船はまだ着かねえんだし、ぼちぼち行こうや」
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