イキガミ

M

エピソード0 No Title

「どうしてそんな仕事をしているのか」と、ある日そいつは訪ねてきた。

どうして? どうしてだろう。理由が分からないくらい、今の俺にとってこの仕事をすることはあまりにも当然で。

「あぁ、でも、そうだ」

多分、許せなかったんだと思う。

「この社会で、毎日死にたいと呟きながら、それでもただ漠然と、生きているのか死んでいるのかもわからないような、そんな存在を続けている奴らが、」

許せなかったんだと思う。

「そしてそんな奴らを傍目に見ながら何もしない社会が、」

許せなかったんだと思う。

「もしかしたら変えられるかもしれないと思ったから」

………、

「少しでも役に立ちたいと思った。」

…本当に?

「…いや、」

本当にそう思っているのか?

「俺は…、」

 大都会のビル街の、暗い路地裏で、近くにいた黒猫がすっかり高くなった月を見上げながら、俺の話に耳を傾けていた気がした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る