男の娘拾いました ~えっ、君、ドラゴンなの?~

きと さざんか

1:ジュード=リーヴィス

 青年、ジュード=リーヴィスは法術師ウィザードである。

 生まれは王都の名家、リーヴィス家。多くの優秀な法術師ウィザードを輩出し、王家に仕える名家中の名家だ。

 ジュードはリーヴィス家の次男として多くの期待を背負って生きてきた。

 文武は、武の方が勝っている。法術師ウィザードの名門学院、王都立ドランスフィールド学院において、十七歳ながらに実技演習トップを誇っていた。

 容姿端麗、才能抜群、ジュードの名を聞いてなびかぬ女性はいなかった。

 ジュードとしては、自分の人生に満点をつけたい。これ以上ないくらいに順風満帆な人生だった。

 そこに問題を挟むとしたら、ジュードの性格だろうか。

 両親からは、


「お前はプライドが高すぎる」


 だの、


「謙虚さが足りない」


 だの、


「名家に生まれた者としての自覚を持て」


 だのと言われてきた。

 そこで大人しく両親の言うことに従っていたら、ジュードは旅に出されることはなかっただろう。

 人格矯正の旅という理由はなんとも恥ずかしい。しかも、旅とは言ってもそれは表向きの話。実際は使いっ走りの様にあちらこちらの街や村へと送られている。

 リーヴィス家からの指示は様々だった。薬草調達、牧場警備、魔物討伐に盗賊退治。まるで冒険者の受けるクエストのようである。

 使いっ走り生活というのは実に面倒だった。礼は言われても、報酬は家に差っ引かれて少ない。少し派手にやりすぎると、すぐさま家の教育係から小言満載の手紙が届く。遊ぶ暇などほとんどなく、西へ東へ忙しく走らされた。

 だからだろう。一年半経ち、十八歳になった時には、うっ憤が溜まりに溜まっていた。

 次の仕事が終われば家に帰ってもよい、と言われた最後の仕事で、ジュードは暴れに暴れまくった。

 依頼はいつもの盗賊退治だったが、ギルドの調査官が盗賊に同情を抱くほど、ジュードは暴れた。

 盗賊たちは規模こそ大きかったものの、一年半の間に溜まったストレスは盗賊の量も質をも軽く凌駕した。

 夜、盗賊たちのアジトに着くや否や、即座に放たれた爆破の法術。見張りと一緒に主力を吹き飛ばし、人も獣もお構いなしに薙ぎ払った。

 お宝だけはこっそりとふところに納めておいたが、後はもう散々である。無事な者はおらず、朝にはアジトはもはやただの廃墟と化していた。

 あまりの惨状に、盗賊のお頭は泣いた。本気で泣いた。いざトドメを、と杖を掲げたジュードに泣いて助けを請うた。

 もちろん盗賊の泣き言にジュードが耳を貸すはずはなかった。理由に正義感は欠片の一つも無かったが。

 それでもと泣きすがるお頭を殴り倒そうとしていると、怯えた盗賊たちが、一つの宝を持ってきた。

 一つ、というよりは一人、だった。子供であった。

 何故か魔封じの上布に包まれ、さらに法術殺しの鎖とまで言われる上級の法具マテリアルでぐるぐる巻きにされていた。

 明らかに不審な貢物を、ジュードは当然警戒した。しかし、自分の行動は実家にほとんど筒抜けである。どんな状況であっても、子供を見捨てたとバレてはマズい。

 盗賊たちが言うにはどこかの高名な法術師ウィザードの子供である、とのことだった。助けたならば、好きなだけ謝礼金を貰えるだろうとも言っていた。

 不承不承ながら子供を受け取り、やはり盗賊たちへのトドメを忘れずに済ませてから、ジュードは近くの街へと戻った。

 そこからである。終わるはずの旅路が、少しずつややこしくなってきたのは。

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