この小説書いてるのって男? 女?

ちびまるフォイ

考えることはみんないっしょ

「ふふふ、私は中高生の間で今話題の性別探偵。

 相手の顔が見えないSNS上でも相手の性別をぴたり当てて見せますわ!」


などと、ココアシガレットを吹かせている中学生に誰も見向きはしなかった。

最近自分の知名度向上にチラシを壁に貼り付けて警察の補導を受けたばかり。


性別探偵の事務所(別名:公園の遊具)に中年男性がやってきた。


「あなたが性別探偵さんですか?」


「いかにも! 私が麗しき性別探偵ですわ!

 なにか当ててほしい性別があるんですの?」


「実は出会い系サイトの相手の性別を知りたいんです」


「ありがちですわね。お任せくださいですわ」


性別探偵は依頼を受けて調査をはじめた。

デジタルネイティブ世代なだけあって捜査活動はお手の物。


「で、どうですか? 彼女、女性ですよね?」


「いいえ。残念ながら殿方ですわ」

「そんな! どうして!?」


「送られた文面やプロフィールに絵文字が多すぎます。

 これはわざとらしく女性らしさを演出しているにほかなりませんわ。

 それも、男が想像する女性像を演出しているものですわ」


「それに、あなたとのやりとりも見たところ

 文面や構成がしっかりしていて、男性らしい文脈構成だと思いますわ」


「そのほか、あげればキリはないですけれど

 あなたの思い人は残念ながらたくましい男性ですわ!!」


「がーーん!!」


「さぁ、用が済んだら滑り台から降りてくださいまし。

 この事務所の階段を上がっていいのは用がある人間だけですわ」


男は悲しそうにすべり台をくだっていった。

ひと仕事終えて、シガレットに手を伸ばした性別探偵に次の依頼が舞い込んだ。


「あの、性別を当ててほしいんですが!」


今度はさっきの男よりも若めの男だった。


「お任せくださいですわ。子の性別探偵にかかれば、たちどころに事件解決ですわ」


「この人を調べてほしいんですが……」


男の出したスマホの画面には小説サイトが表示されていた。

出会い系よりも投稿された小説などのほうが得られる情報量が多いので推理しやすい。


「それは構いませんことよ。でも、どうしてこの人の性別なんか知りたいんですの?」


「実は、今度オフ会を行うんですが、相手の性別を知っておきたくて」

「よろしくてよ」


性別探偵は子供用虫眼鏡を出して推理を始めたが、拡大されすぎて見ずらかったのでやめた。


「ふむ、わかりましたわ。この人は女性ですわ」


「え、本当ですか? 一人称「俺」のが多いですけど」


「そこはカムフラージュですわ。この人の投稿作を読んだところ、

 いじめなどの描写が不必要なほどに生々しくて細かいですわ。

 自分の考えや心理描写も丁寧で繊細ですわ」


「それに、他人の発言で考えを巡らせたりするのも多く葛藤がありますわ。

 仲間とのやり取りも信者ぽくならない感じもしますし、女性ですわ」


「たしかですか?」

「性別探偵にミスの2文字はありませんことよ」


「ありがとうございます! 相手が女性だとわかったら、なんだかますます楽しみになりました!」


「下心ありありだと嫌われると先に言っておきますわ」


男は滑り台を飛び出して、服屋さんへとダッシュして行った。

まるで遊園地に連れて来てもらえた性別探偵くらいのはしゃぎようだった。



数日後、男はふたたび事務所にやってきた。


「お久しぶりですわ。今日はどうしたんですの」


「性別探偵さん、やっぱり男だったじゃないですか! 外れてましたよ!!」


「えっ……そんな……ぐすっ……ちがうもん……まちがってないもんっ……」


性別探偵は自分のミスを認められなくてグズりはじめた。

あやすこと数時間後、落ち着いたのを確認してから男は話し始めた。


「と、いうわけで、現地について自己紹介されたのは男性だったんです。

 せっかくキメキメの服を着ていただけにめっちゃ恥ずかしかったですよ」


「私の推理が外れるなんてありえませんの。いったいどうして……」


「どうしてもこうしてもないですよ! 事実が外れていたんだから!

 だから、今度からは性別探偵さんも一緒についてきてください」


「私が?」


「そして、僕の前に性別探偵さんが僕だと自己紹介してください。

 それなら相手の性別が予想とはちがっていたときに、

 僕は付き添いの友達としてごまかせるでしょう?」


「なるほど、私をワンクッション挟んで

 相手のひととなりを確かめてから、話したいというわけですわね?」


「そうですそうです!」


性別探偵はふと考えた。


「ところで、私が予想した相手は1人で来ていたんですの?」


「いいえ、なんか偶然会った女友達と一緒に来ていましたよ。

 緊張したのか、その友達は途中で帰っちゃいましたけど」


「そうですの……」



性別探偵は勝ち誇った。



「やはり私の推理した性別は、当たっていたようですわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

この小説書いてるのって男? 女? ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ