しずくをなぞって

カゲトモ

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 思い出はまるで花の中に溜まって行く雨のよう――それは確か、誰かの曲のワンフレーズだったはず。昔の曲だからメロディが上手く思い出せないけれど。

「マスターはどう思います? この歌詞」

 そう唐突に言い出したのはロマンスグレーの髪色がよく似合う女性。微笑むと浮かぶ目尻の皺はとても柔らかな彼女にピッタリだと思う。あんまり口に出しては言えないけれど。

「そうですね、とてもロマンチックだとは思いますけれど」

「あら」

 素直に言っただけなのになんでそんなに驚いた顔をするのよ。男だってロマンチストなんだから。

「ふふ、ごめんなさい。うちの人はそういうの良く分からないタイプの人だから。鈍感、というのかしら。それとも無頓着なのかしら。とりあえずそう言ったものに興味がないのね」

 まぁそういう男性もいるだろうけどさ。とくにハナワさんの旦那さんくらいの年齢なら、そう言ったのはどことなく恥ずかしいと思ってしまうのかもしれないし。

「だから彼にこの質問をしても不思議そうな顔をして首を傾げるだけなのよ。言葉をストレートに受け止める人だから、その奥の情景までは上手く思い浮かべられないのよね」

「それはそれでとても素直な方ではありませんか?」

「それもそうだけど、面白みに欠けるでしょ?」

 なんてまた目尻に皺を寄せる。ハナワさんは本当に表情豊かだ。

「それではハナワさんはどうです? この歌詞、どう思いますか?」

「そうね、私は」

 そう言ったかと思うと、ふふふ、と微笑んでロンググラスを回す。続きを言うのを迷っているのだろうか? だめだめ、じらさないで。

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