しずくをなぞって
カゲトモ
1ページ
思い出はまるで花の中に溜まって行く雨のよう――それは確か、誰かの曲のワンフレーズだったはず。昔の曲だからメロディが上手く思い出せないけれど。
「マスターはどう思います? この歌詞」
そう唐突に言い出したのはロマンスグレーの髪色がよく似合う女性。微笑むと浮かぶ目尻の皺はとても柔らかな彼女にピッタリだと思う。あんまり口に出しては言えないけれど。
「そうですね、とてもロマンチックだとは思いますけれど」
「あら」
素直に言っただけなのになんでそんなに驚いた顔をするのよ。男だってロマンチストなんだから。
「ふふ、ごめんなさい。うちの人はそういうの良く分からないタイプの人だから。鈍感、というのかしら。それとも無頓着なのかしら。とりあえずそう言ったものに興味がないのね」
まぁそういう男性もいるだろうけどさ。とくにハナワさんの旦那さんくらいの年齢なら、そう言ったのはどことなく恥ずかしいと思ってしまうのかもしれないし。
「だから彼にこの質問をしても不思議そうな顔をして首を傾げるだけなのよ。言葉をストレートに受け止める人だから、その奥の情景までは上手く思い浮かべられないのよね」
「それはそれでとても素直な方ではありませんか?」
「それもそうだけど、面白みに欠けるでしょ?」
なんてまた目尻に皺を寄せる。ハナワさんは本当に表情豊かだ。
「それではハナワさんはどうです? この歌詞、どう思いますか?」
「そうね、私は」
そう言ったかと思うと、ふふふ、と微笑んでロンググラスを回す。続きを言うのを迷っているのだろうか? だめだめ、じらさないで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます