詐病じゃないもん17
韮崎旭
詐病じゃないもん17
「子供じゃないもん17」を連想しました? 当たりですが、文章の内容は別にどうだっていい。
あなたが椅子から立ち上がろうとする。鍵かなんかを手にするために。ていうのは、鍵がないと戸締りができないので外出不可能だが、鍵がないと戸締りができない外出を君が望んだからだ。という仮定の下で、君は立ち上がったとして、急に眼の前が暗くなる。
雷鳴? 暗雲? 積乱雲? ダウンバースト? 竜巻警報? もしくは、警戒情報?
などとは無縁で、屋外はこれ以上ない晴れだから君はこれ以上なく気が滅入る。正気では外を歩けないと考え、冷蔵庫の中身を全部ごみ箱に放り込んでしまう。これで、食物に囲まれながら餓死することが避けられるわけだが、まあいいか、君は立ち上がる。で、目の前が暗くなる。外的要因とは無縁に君の器官や組織のどこかが不十分な働きをしたせいで。
そういうことが日に3回以上も起こるようなら君は、施錠の必要な外出をためらうようになったとしても別に無理はないし、そんな状況下でまともな文章(ねえ、まともな文章ってなあに?とそのあどけない眼球は言いました。フライパンの上でね。焼かれていたから若干の発生に関する問題があったかもしれないがそんなことは関係なく君の脳に直球ストレートで送り付けてきた文面が、「まともな文章ってなあに?」というのはつまり、構文が正しければいいのか。構文とは。文法事項が正しいとは。文法をいつ習ったかね?そんなことが日に三回以上起こるようなら君は文明人としての生活、という語の定義をいい加減疑い始めるのではなかろうか。例えば公衆の面前で嘔吐することは論外だ。しかし公衆の面前で、発話する際の声の大きさや高さと言った、非言語的コミュニケーションを平然と行う人間が当然のように文明化されておりますのわたくし、みたいな顔でバスに乗りやがる。信じられない。いいかい、そういった不意に露呈する猿もびっくりの非言語的コミュニケーションを唐突にバスから降車しようとして見せつけられたこっちは本当にぞっとしたしその時は当然のように気候に体調を虐殺されている真っただ中だったから、嘔吐しても何の不思議もなかった。ここで考えてみてほしいのだが、その乗客、というのは例の文明人面した乗客だが、は明らかに、連れに対して呼びかける際に、呼びかける内容よりも声色や声の大きさ、高さによって先方の注意を引こうとしていたのであり、これが高度に発達した人間の言語的・非言語的コミュニケーションでございますと言われてしまえば公衆の面前で、「え、でもこんな群衆に囲まれて気分の悪い思いをするくらいなら四肢切断の後ドブに捨てられた方がはるかにましだけれど四肢切断をされたことがないから想像がつかないが想像できない痛みっていったいどういうものなのだろうな、死に直結するような損傷が引き起こす痛みっていうのはどういう体験であるのかわくわく」などと考えるこちらとしても立つ瀬がないというか初めから立つ瀬はなかった。混雑下バスに乗るのが恐ろしくて恐ろしくてならず、1つの便を見送って意地でも待機列の最初に並んだ身としては、そこら辺の人間を知覚するくらいならすべての感覚器官を暴力的に破壊された方がはるかにましとも思え、眼瞼の上から眼球を圧迫してはやく消え去れ知覚……。と切に祈っていたわけだから。で、それでもあくまで文章語としての言語で意思の疎通を図ろうとするあまり意思の疎通が破たんする人間より公衆の面前で猿の警戒音みたいな声を発して連れの注意をひく人間の方が文明的なんですか?いや全くもって、他人の食事の仕方が汚いとかいう人間は、食事自体の汚さから平気で目を背ける才能が素晴らしいと思いますよ、汚い行為であるところの(排泄並みにね)食事をしないと言葉もロクに話せない下等生物になり下がるような本質的な野蛮人はちょっと、自分が生物であるのに不当に高等な何かと気取っていることをひとしきり恥じてから他人のマナーに口出ししてください、私が床で食事をしたからなんだっていうんです?いや少なくとも、食品のような、腐敗することが可能な物品に素手で触るなんて生理的に受け付けないから当然のように食品に触らずに食事をしましたが、パンを平然と手でちぎって食べるあなたに野蛮人呼ばわりされたり、「お前の食事はまるで犬畜生かそれ以下だな」などといわれるいわれがあるなら1600頁くらいの根拠を示せ、できないなら黙って意地汚くパンとかクリームパンとかエクレアとか貪り食ってろこの猿!)
そういう訳だから内容がまともさ皆無でも文章は書けるわけですが、それでも内容に気を配る気に全くなれないのは、だからこの初夏の気候に殺されたからですよ、って薄暗い部屋で自分の弔辞を書いている。こんな弔辞もちょっとあんまりだと思いながら。
詐病じゃないもん17 韮崎旭 @nakaimaizumi
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