ガチャより低い確率です
「なんでキリスト教徒でもないのにキリストの誕生日を祝うのかねえ」
「陽キャは聖なる夜をはき違えてるよな。性なる夜じゃないっつーの」
「令和になってもまだバブリーな商業主義に踊らされてるの、まじであり得ねー」
ウワーッ! きみらの会話こそ令和とは思えない! 真の陽キャはもうそこに拘ってないから! 札幌駅の待合スペースのベンチに座ってスマホのゲームをやっている私の耳に、隣の高校生っぽい男子三人組が発するあまりにも虚しい恨み言が流れこんでくる。イヤフォンを持ってくればよかった。
十二月に入った。言うまでもなく、クリスマスイブが目前です。
大学生のときは、陰キャ高校生たちに嗤われそうな甘い夜を一生懸命に過ごした年もあった。あのときの彼、今はどうしてるかな。死んでいてほしいと思う。去年はあえて遅くまで会社にいて、セイコーマートで買ってきた赤ワインを飲みながら残業した。はかどった。普段から飲みながら働ければいいのに――
「またお酒のことを考えている顔ですね」
「うおっ!」
いつの間にか、目の前に
おかっぱ頭の眼鏡っ娘。この歳下の友だちが、レンズ越しに私を見おろす目は厳しかった。見くだすというべきか。
「アコちゃんは私のことがよくわかるんだね」
「
「クリスマスのことも考えてたよ」
クリスマス、と章子の唇が声を出さずに動いた。「サンタクロース、今年はわたしか沙織さんのところに来てほしいですね」
「ソシャゲーのガチャで星5キャラを当てるのと、どっちが確率が高いかなあ」
「ガチャのことはわかりませんが、たぶんそれよりも低い確率です。この数十年で人類の数は増えすぎましたから」
滅ぼすのか? ゲームのラスボスみたいなことを言って、章子はため息をつく。
サンタの存在を心の底から信じている希有な女子大生。子どものときにプレゼントをくれたのは家族だと、理解はしている。でもそれが、サンタがいない証明にはならないというのが章子の言い分です。超能力を手品で再現できるからといって、超能力者がいないとは限らない、みたいな――
そうかもしれないな、と、今は私も思っている。
章子の思っていることが、本当だといいな、と。
ふと、隣が静まっていることに気づいた。そっと横目でうかがうと、おお、三人ともちらちらと章子を見やっているじゃないの。こういう子が好きか。
きみらもいつか、キリスト教徒でも陽キャでもないのに、クリスマスが特別な一日になるときが来るよ。星5キャラを当てるよりは高い確率で、きみらがいま吐き捨てたような言葉で誰かに茶化されたくない大切な夜を迎えるときが、きっと来る。
「行こうか、アコちゃん」
「はい」
私はベンチから腰を上げた。これから映画を観るのだ。
もしかしたら、ひと月後の今日も章子と過ごしているかもしれない。ふたりでどちらかの家にいれば、サンタが来る確率が二倍になるかな。
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